93 高級宿屋に初めて宿泊した
俺は取り急ぎオーク領内へと向かった。
色々聞きたいことがあるからな。
配下にした部族のことや、ドーズの街の噂のこと。
それに俺を魔王呼ばわりすること。
徹底的に追求するつもりだ。
馬車で揺られながらラミが質問してきた。
「わざわざオークんとこなんかへ、何をしに行くんだよ。家で肉喰いながらゆっくりしたいぜ」
そういえばラミの胸の傷、まだ完治して無いんだよな。
「まあ、そういうこというなよ。オウドールにしっかり確認したいことがあるんだよ」
「それって重要な事なのか」
こいつら、事の重要性が分かってないな。
まてよ、こいつらも俺の事を魔王とか思ってんのか?
う~ん、聞くのが恐いなあ。
でもここは勇気を振り絞って……
「オーク達が俺の事を魔王呼ばわりするだろ。それを正しに行く。だからこれはとても重要なミッションなんだ。それでだな、ラミは俺の事を魔王だと思うか?」
ラミは腕を組んで考え出す。
おい、おいおい、そこは早答だろ!
「そうだな、ライさんはライさんだからな。別に魔王だろうが変わらんと思うぜ」
ん?
微妙な返答だな。
これが人間の答えなら「上手く誤魔化しやがったな」となるんだが、答えたのがラミだからなあ。
「それならハピ、お前はどうだ?」
するとハピも腕を組んで考え出した。
お前もかよ。
「私は魔王様だった方が面白いと思いますわね。でもラミと同じで、結局ライさんはライさんですわ」
魔王を面白がるな。
俺にとっては真剣な問題だ。
しかしハピも似たような解答だな。
まさかこいつら、人間社会で生活するようになって、性格まで人間っぽくなったのか?
そして二人はダイを見る。
ダイは面倒臭そうに念話を送ってきた。
『だいたいなあ、魔王って誰が決めるんだ?』
意見を聞きたかったんだが、先に質問されたか。
それも難解な質問。
確かに魔王はどうやって認定されるんだろうか。
勇者の場合はどうだろうか。
勇者ハルトが言うには“異世界転生”して、その時に加護を貰ったらしく、それで勇者と言われる様になったらしい。
早い話が勇者加護ってやつで、勇者かどうか判断出来るってことだな。
ならば魔王は?
加護?
転生?
さっぱり分からんな。
俺は逆にダイに質問で返してやった。
「今までの魔王はどうやって現れたんだ?」
するとダイはあくびをしながら答える。
『そうだな、いつの間にか出現してたな。気が付いたら魔王軍団が暴れ回ってたよ。もしかしたら自己申告なんじゃないか、魔王って』
そんな訳ないだろ。
そしたら魔王が沢山現れて大混乱だ。
その前に真剣に答えろ。
今のやり取りをラミとハピにも説明してやると、二人共に魔王は強いから魔王じゃないのかという意見だった。
そうか、ラミとハピに正解を求めちゃいけなかったな!
魔王の判定方法があるのか、オウドール族に聞いてみるか。
オークの官僚の誰かしらで、知ってる奴がいるかもしれない。
オーク領内へと入ると、どこから現れたのかボアに騎乗したオーク兵が、俺達の馬車の周囲を囲み始めた。
しかし俺の護衛のオーク達は何も言わないから、それは問題ないらしい。
護衛が増えただけだ。
だけど凄い数なんだが。
俺達が街中を通ると道路脇で、オークの住人が平伏する。
うーむ、言いたいことがあるが我慢。
そして前に来た時と同じ街で一泊するのだが、宿泊所が前の安っぽい所とは違う場所だった。
「ここ、使う、下さい」と言われた建物は、明らかに建てたばかりの宿泊施設だ。
前に来た時には、絶対になかったと言い切れる。
あればこんなに目立つ建物は覚えているからだ。
この街の雰囲気には、あまりに立派過ぎる建物。
人間社会の高級宿泊所に似ている。
だからオークの街からは浮きまくりだ。
この宿屋、名前があるらしい。
看板が掛かっている。
見れば『最強亭』とある。
実にストレートな名称の付け方だ。
玄関前に来ると、宿屋の主人や従業員が整列してお出迎えをしている。
人間社会の高級宿屋そのものだ。
しかも全従業員の服装も統一されており、背中には“最強”の文字が……
無駄に広い玄関口。
無駄に広い廊下。
無駄に輝く壁や床。
そして俺は宿屋の主人の案内で、最上級だという部屋に案内された。
その案内された部屋の前に来て固まった。
その部屋の扉には、部屋の名称が書かれていたのだが――――
『魔王の間』
ハウリングしそうになった。
俺は出来るだけ感情を圧し殺して、宿の主人にやさしく質問してみた。
「おい、おっさんっ、この部屋は何で“魔王の間”なんだ? 五体満足でいたかったら正直に答えろよ」
すると何故か、かなりビビりながら返答してきた。
「は、は、はいっ。最上級の部屋で、最上級の方が宿泊するからですっ、ヒィッ」
つまり魔王ほどの、最上級な奴が泊まるってことか。
魔族界じゃ魔王は最上級だからな。
文句言えねえ!
仕方ない、気分は乗らないが部屋は良さげだからな。
「ああ、分かった。この部屋に泊まる」
部屋の中は物凄かった。
別世界だ。
幾つもある広い部屋に、顔が映りそうなくらいのテーブル。
眺めの良いテラス。
それに、こんな高級な部屋でも獣魔も一緒に泊まれる。
人間社会だと獣魔は別舎と言われるのが普通だ。
だから獣魔達が一番はしゃいでいた。
これで今晩は落ち着けるかと思ったんだが。
「ラミ、その上で寝るな!」
「ハピ、そこで爪を立てるな!」
「ダイ、ここは室内、マーキングすんな!」
俺が一番忙しい!
しかし出された料理に関しては、圧倒的に人間料理の方が上だった。
オーク料理は調理方法が少ないのと、調味料も少ない。
結果、料理のレパートリーが少ないし、味も薄い。
アグリッパの店の方が数段上。
残念!
翌朝、俺達が部屋を出ると、従業員オークがお互いに声を掛けているのが聞こえた。
「魔王様、出立!」
こらっ、本人を前にその名を呼ぶな!
俺はその従業員を捕まえて、説教をしてやろうかと思ったら、その言い訳に絶句した。
「魔王の間のお客様が出立するの略です~」
「だから略すな!」
くそ、略して魔王様出立だと。
取って付けたような言い訳じゃねえか!
最後に気になっていた事を宿泊所の主人に聞いてみた。
「他に“魔王の間”には他に誰が泊まるんだ」
すると主人は平然と言ってのけた。
「いえ、ライ様だけですが?」
暴れてやろうかと思った。
俺しか泊まらない“魔王の間”って何だ!
「良いか、これは命令だ。部屋の名前を変えろっ。首と胴体は一緒が良いだろ?」
「ヒイッ」
・
・
・
俺は煮え切らない気持ちのまま出発した。
多くの護衛を付けた俺達は、やっとの事で首都にあるオウドールの屋敷に到着した。
周囲を見回せば、まるで軍隊の遠征のような数になってるんだが。
こいつら、何がしたいの。
屋敷内を案内され、新しく増築されたらしい“応接の間”に通された。
応接の間を略して“まおう”とか言わないだろうな。
心配になる。
広い部屋には沢山の座椅子が並んでいる。
その中央に、ひとつだけ立派な作りの座椅子がある。
そして一段高くなった所に玉座が鎮座していた。
俺は真っ直ぐ立派な座椅子に向かうと、案内のオークに止められた。
「その座椅子は違います」
どっかの部族の客人でも来るのだろうか。
まあ、どこでも良いか。
その立派な椅子の横に腰を下ろした。
すると大慌てで案内のオークが駆け寄って来て言った。
「お待ちください、ライ様はあちらの玉座です!」
は?
俺は玉座に座る?
考えを巡らす……
「魔王様じゃねえかっっ!」
持っていた槍を床に叩きつけてしまった。
引き続き「いいね」よろしくお願いします。