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90 バンパイヤとラミが戦った









 俺は魔道具屋で買った聖水を取り出す。


 取り出した途端、バッハシュタインが数歩後ろへ飛び退いた。


 聖水を恐れている。

 これはバンパイヤに対して、かなり効果あるってことだな。


 俺は聖水を投げるポーズのまま、一歩一歩と前へと進む。


 そこへラミが叫びながら攻撃を始めた。


「逃げてんじゃねえ、かかって来い!」


 ラミは盾で身を隠しながら、片手剣を上段から大きく振り下ろす。


 しかしバッハシュタインは「フッ」と鼻で笑いながら、それを紙一重でかわした。


 ラミは「避けるんじゃねえ!」と叫びながら、剣を縦に横にと振り回す。

 それを全て紙一重で避けて見せるバッハシュタイン。


「口ほどにもないですね。グイドからの報告とは全然違う様です。しかしこの程度とはがっかりです」

 

 グイド、盗賊討伐の時に遭遇したバンパイヤの親玉の一人。

 グイドの名が出たってことは、やはりそういうことか。

 馬鹿にされて頭に血が上ったラミが詠唱する。

 

 ラミの周囲に次々と緑色の球が出現していく。

 お得意の毒球魔法である。


「ポイゾンボール!」


 多数の毒球が、一斉にバッハシュタインに飛んでいく。


 それを見たバッハシュタインが、眉間を摘まんで肩を揺らす。


「クックックック」


 笑っていやがる。


 その全ての毒球を真正面から受けるつもりらしい。

 全く避けようとしない。


 こいつ何を考えていやがるのか。


 もちろん毒球は全て命中。

 しかし皮膚がただれることも、苦しそうな表情さえ見せない。

 あれだけの毒球を受けておきながら無傷なのか。

 ただバッハシュタインは変わらず笑っているだけだ。


 ラミが信じられないと言った様子でつぶやく。


「あれだけの毒だぞ、何で……」


「ふう~、今のはポイゾンボールですね。確かに通常のポイゾンボール魔法よりも強力なのは認めましょう。ですが、バンパイヤの私に毒攻撃は効きませんよ。すべての毒に耐性がありますのでね」


 毒耐性か……

 

 そうなるとラミに勝ち目はない。

 バンパイヤの素早さと腕力には、ラミの今の力じゃ到底ついていけない。

 かといって出入口を塞がれた今では、撤退も不可能。

 

 だがラミとて魔物としてのプライドがある、気合と共に斬り込んで行ってしまう。


「うらああああああ!」


 くそ!


「ラミ、前に出るなっ」


 ラミが剣を真横に振るう。

 

 絶妙なタイミングでの渾身の一撃だろう。


 それをバッハシュタインは笑いを堪えるだけで、その場から動こうとしない。

 これは確実にラミの斬撃が届く!


 しかし、ラミの振るった剣は奴を素通りした。


 ラミの剣が命中する寸前、バッハシュタインの身体が煙と化したからだ。


 ラミの斬撃は煙を切るかのように空を切っただけだ。


「な、なんだ?!」


 今のをラミは理解していないようだ。

 バランスを崩したラミが、態勢を整えつつ慌てて後退する。


 煙は直ぐに元の身体に戻って実体化していく。


 そして――――


「これでラミア、貴様の攻撃は終わりですかな? これじゃ物足りないですな~」


 奴は余裕の表情だ。


 これは余りにも力量の差があり過ぎる。

 ゴブリンが俺に挑む様なものだ。

 

 だがラミは俺に告げる。


「ライさん、こいつは私が必ず倒すぜ。手を出さないでくれよ……」


「いや、ラミ、今のお前じゃーーー」


 俺の言葉を遮るようにバッハシュタインが言葉を挟んだ。


「さて、それでは私の攻撃の番ですかね」


 そう言って空中に身体を浮かせる。

 その背中にはコウモリの様な翼が見える。


 奴は突然走りだす。


 床じゃない。


 壁を走る。


 奴が腰の細剣を引き抜いたのは見えた。


 次の瞬間、その細剣がラミの胸を刺していた。


「ぐほっ……」


 ラミの口からは鮮血が吐き出される。


 早いなんてものじゃない。

 剣スジが見えなかった。


「ほほう、思ったより赤い血が流れているようですね」


 バッハシュタインのその言葉に、俺は怒りと恐怖が同時に押し寄せる。


 かつて出会ったバンパイヤの中でも、ダントツの強さだ。

 

 バッハシュタインがラミの胸からゆっくりと細剣を引き抜く。


 するとラミがその場に、ゆっくりと崩れ落ちていく。


「ラミっ!」


 返事が無い。


 俺は奴を改めて見据えると、低い声で言い放つ。


「バッハシュタインとか言ったな。勝った気でいるなよ。次は俺が相手だ」


 最終手段にハウリングがある。

 だがそれが奴に効くのか分からない。

 それにハウリングをやったら、真っ先に人間であるアオが死ぬ。

 それに瀕死のラミの生命いのちの火が持たない。


 どうしたら良い……


 考えを巡らせながら、聖水を槍の穂先にかける。


 これで奴を傷つければ、聖水の効果でバンパイヤの治癒力が落ちる、と信じたい。


 バッハシュタインが「ちっ」と舌打ちした。

 正解らしいな。


 俺は走り込んで槍を数度突き出す。


 バッハシュタインはそれを簡単そうに全て避けてみせる。


 俺の視界の外から槍が飛んできた。


 俺の護衛のオークが投げた槍だ。

 忘れていた……


「オーク共、下がれっ、これは命令だ!」


 護衛のオーク三人は渋々後ろへ下がって行く。

 もちろんオークの投げた槍など命中するはずもない。


 俺は抜けそうなほどの力で床を蹴る。


 一気にバッハシュタインの目の前に出た。


「これでどうだっ」


 槍でぎ払う。


 バッハシュタインはそれも涼しい顔で避ける。

 俺の速度では追い付けないか!


 しかし、俺の振るった槍の穂先に付いていた水滴が、バッハシュタインへ向かって飛沫しぶきとなって飛んだ。


「ぐわっ!」

 

 思わず悲鳴を上げるバッハシュタイン。

 聖水の雫が顔に付いたのだ。


「ふははは、たった一滴の水くらいで大げさだぞ」


 やっと一矢報いてやった。

 

 気をよくした俺はなおも槍を振るう。


 槍の先が壁に当たると、もろくなった壁に簡単に穴が空く。


「ふん、その程度ですか。聖水くらいじゃ私は滅びませんよっ!」


 そう言ってバッハシュタインが細剣で俺を突いてきた。


 早い!


 奴の剣スジが見えない!


 勘だけでそれを避ける。


 すると肩口に細剣がかすめる。


 かすめたと同時に両脚の筋肉を盛り上げる。


 これで少しは反応出来る。


 俺は勘だけで次の剣も避けてみせた。


 すると感心したようにバッハシュタインが俺を見た。


「ほほう、今のを避けますか。人間にしては……そうですか、あなたの方でしたか。変身しないから女の方かと思ってました。ならば私も本気を出しますから、どうぞあなたも変身してください」


 どうやら俺に変身する時間を与えてくれるようだ。

 俺はアオ達をチラリと見る。


 ちょうど勝負が着きそうだ。


 ハピがゴーレムを引き付けている間に、アオがベルケの股間を蹴り上げているところだった。

 

 悶絶もんぜつするベルケ。

 前にもあったな、こんな場面。


 するとベルケの術が解けて、ゴーレムが一斉に崩れ落ちる。

 裏口で扉を抑えていたもう一体のゴーレムは、アオに襲い掛かる寸前で崩れ去った。


「わっ」


 その時、短い叫び声が聞こえた。

 それは崩れたゴーレムの残骸の下敷きになるアオの声。


 直ぐにハピがアオを助けに行く。


 裏口の外にいたオーク達もゴーレムがいなくなるや、室内へとなだれ込む。

 そのなだれ込んで来たオーク達三人は、直ぐに俺の元へと走り寄って来た。


「魔王様!」

「まおうざま」

「マオウさま」


「ちがーうっ!!」


 俺の制止は遅すぎた。


 バッハシュタインが不思議そうな表情でオーク達を見る。

 まずい、聞かれたか!

 オークの次に俺を見るバッハシュタイン。


「貴様……まさか、魔王なのか……」


 バッハシュタインの動きがすっかり止まってしまっている。


 俺は嫌な汗が吹き出してきた。











「いいね」引き続きお願いします。




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― 新着の感想 ―
[良い点] でた、魔王shock! 次回が楽しみでござる
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