85 配下が増えた
これは困った。
このダックどもは、俺が魔王だと思ってやがる。
危険だな。
ここはオーク隊長に任せるか。
俺はこの三匹のダックをオークに引き渡す。
そして魔王の噂が拡がらないように、あらゆる方策をとれと厳命した。
その上でオーク隊長にはみっちりと説教を浴びせることにした。
その前に、オーク隊長の名前をまだ聞いてなかった。
「貴様の名前は何だ」
「俺、デグ」
デグというらしい。
よし、最後にこのデグ隊長にもう一度言っておくか。
「良し、ならデグ隊長。今度俺を魔王呼ばわりしたら、滅ぼすからな?」
「わ、わかった。魔王様、魔王呼ばない」
おい!
グーパンチしそうになったぞ。
本当に理解してるのか、こいつ。
それと問題はこっちの二人もだ。
俺はベルケとアオの前に立つ。
「良く聞け。俺はライ、魔王じゃない。どこからどう見ても人間、魔王じゃないだろ」
するとベルケ。
「そうだよな。ちょっと驚いただけだ。お前が魔王な訳ない、よな?」
まだ疑いの目だな。
そしてアオは。
「どっちでも良い」
他人事かよ。
まあ、アオの性格なら分からなくもないがな。
結局、卵はひとつも回収出来ずに、依頼失敗という結果となった、
依頼失敗には罰金がある。
ひとつでも取れれば良かったんだが、収穫はゼロだ。
罰金は金貨三枚。
それは俺が支払うと宣言した。
その後、ほとんど会話もなく、エルドラの街へと帰路を急いだ。
街に到着しギルドでの処理を済ませ、さて解散という時、ベルケが俺に捨て台詞を残していった。
「ライ、あんまり調子にのるなよ。お前が凄いんじゃねえ。獣魔のラミアとハーピーが強いってだけだ。それを勘違いしてると、そのうち足元をすくわれるぞ」
お前こそな!
言葉をゴーレムに置き換えて言い返してやりたい。
魔王とか言われたくないから黙ってるがな。
ベルケはこのエルドラの街はつまらんと、街を出て行った。
そしてアオなのだが。
「しばらくこの街に住む」
のだそうだ。
まあ好きにしてくれ。
俺達が家に戻ることにした。
家に戻るとオークキャンプには、しっかり十名ほどのオークが駐留している。
俺達について来ているオークも十名。
全部で二十名じゃねえか!
俺は十名までと厳命したはずだぞ。
直ぐに敷地内にあるオークキャンプに出向く。
「おい、責任者はどいつだ!」
すると俺の後ろから返事があった。
「はい、自分、責任者」
振り返れば俺達について来ていたオーク隊長のデグだ。
「ここのキャンプの責任者はデグ、お前なのか?」
「はい、ちょっと前、隊長、変わった」
新しい隊長はこのデグらしい。
「ならば聞くが、俺はここのオークキャンプには、十名までしか駐留は許さないと言っておいたはずだが、どうなっている」
するとデグ。
「言われた通り、キャンプ十名、駐留」
は?
「ええっと、俺達について来たオークが十人いるぞ?」
「はい、でもオークキャンプ、十名、守ってる」
まさか……
「もしかして、鉱山の監視で行ってるオークって……」
「はい、そっち、十名。三チーム、交代、駐留してる」
つまり、鉱山監視と俺の自宅防衛と俺の護衛の三チーム、それぞれ十名ってことか。
それでオークキャンプには常に十名だから、問題ないと。
言い返せねえ!
そういう理解だったか。
もうどうでも良くなってきた。
特に害はないから良いか。
そこでオークキャンプに駐留していたオークが、デグに何やら説明している。
様子が変だな。
そこへダイからの念話がきた。
『うっすら、ゴブリンの臭いがするな』
野良ゴブリンでも迷い込んだか?
俺はデグに声を掛けた。
「デグ、何かあったのか」
するとデグ。
「ゴブリン来た。戦う、追っ払った」
ゴブリンの襲撃があったらしい。
敵は少数だったから、何の被害もなく撃退したという。
だが待てよ。
この家の前の住人は、ゴブリンに襲われて全滅したのだ。
それも護衛が何人か居たにもかかわらずだ。
ここは街から離れた場所にあり、ゴブリンからしたら襲撃するには好都合な立地にある。
人間の住み処は魔物達にとって、食べ物が豊富にある理想の襲撃場所だ。
そんな場所に再び人間が住み始めたらどうなるか。
念の為にオーク達に周囲の偵察を頼むか。
俺はデグ隊長にそれを説明する。
すると。
「了解、オーク強い、ゴブリン負けない、目にもの見せる」
と、頼もしい返答だ。
ゴブリンの集団がいるとは限らないのにな。
たまたまの野良ゴブリンだった可能性もある。
そして一ヶ月ほど経ったある日。
オーク族長のオウドールから伝令のオークが来た。
「ライ様、オウドール族長からの伝言を持って来ました」
この伝令はしっかりとした言葉を話せるらしい。
「ああ、何だ、言ってみろ」
「近隣のゴブリン三部族を配下に加えました。それと――――」
はあ?
何を言ってるんだ?
「ちょ、ちょっと待て。配下ってなんだ、配下って?」
「はい、ライ様の支配下でございます。それと近隣のダック五部族も配下に加わりました。何かあれば、直ぐに動かせます。これがオウドール族長からの伝言です」
言葉が出て来ない。
俺の配下って何だよ。
ゴブリンが三部族にダックが五部族だと?
「ど、どういう事か説明してもらえるか?」
「はい、ダック達の間で魔王が現れたと噂になり始めているとの情報がありまして、それで軍勢を率いて周辺のダック共をライ様に服従させてきました。ゴブリン族の方は軍勢を率いて討伐に行ったら、戦わずして降服してきたので配下に加えました。何か問題でもあったでしょうか」
うーん、俺が細かい説明しなかったのが悪いか。
まあね、やったことが全て間違っているとは言わないけどな。
だけどさあ、何でそうなるかなあ!
これじゃあさ、俺がまるで魔王みたいじゃねえか。
この周辺を勢力圏に治めようとする魔王じゃねえかよ。
ただでさえ変な噂になりそうなのに、これじゃあ余計に“魔王出現”みたいな事になるだろうが。
俺は改めて伝令のオークに向き合う。
「よし、オウドールへ今から言う伝言を早急に伝えろ」
「了解です」
「俺の存在は隠せ。俺はあくまでもエルドラの街と、オウドール族の間を繋げる仲介役だ。いいな、これをしっかりと伝えろ。よし行けっ」
「はい、必ずやオウドール族長に伝えます!」
最悪、他の土地に逃げるというのも、考えないといけない。
だが、折角落ち着いて過ごせる土地を見つけたんだ。
ここからは逃げたくないんだよな。
「いいね」御協力ありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。