84 ラミとハピがキレた
またしても遅くなりました!
仕方ないな。
少し人間どもに俺の強さを見せてやるか。
ちょっとだけだけどな。
ベルケが俺に向かって再び口を開く。
「さて、お前の実力、見せてもらおうか」
なんかこいつに言われると腹立つんだよな。
傍若のアオがボソリと言った。
「ワクワク」
棒読みだ。
俺はスックとその場に立ち上がる。
風が岩と岩の間を駆け抜け、草を優しく揺らす。
心地良い風だ。
こういうのは演出は重要だ。
俺は真っ直ぐに右腕を頭上に掲げ、人差し指をピンと伸ばす。
ベルケとアオは期待の目で俺を見る。
そして俺は腕をスッと下ろして、地竜を指差して言った。
「ラミ、ハピ、突撃せよ!」
「ガッテン!」
「やってやりますわ!」
「ワフ~ン!」
俺は腕を組んで、その場で獣魔達を見守った。
しかし何故かベルケとアオが、「へ?」っといった顔で俺を見つめたままだ。
「どうした?」
と俺が聞けば。
「いや、あんたは何もしないのか?」
「口だけ」
「いや、俺は魔物使いなんだが……」
何もしないのとは違うからな。
命令出して見てるのが普通だろ。
口だけとは失礼だぞ。
しかしまだ二人は俺から目を離さない。
「くそ、やれば良いんだろ、やれば!」
やむ無く俺は槍を手にして歩き出す。
その間にもラミがオーク達に混じって、剣と盾の装備で戦い始めた。
ハピは空中で卵を狙ってホバリングだ。
ダイは一生懸命に吠えたてる。
やはり地竜は手強いか。
確かにここから見てると埒が明かないな。
さて、そうなると俺の出番なんだが、ベルケとアオにどこまで見せて良いのだろうか。
人間じゃないとバレてはダメだからな。
特別なスキルで俺の正体を暴き、「こいつ狼」とか言わなければ良いのだが。
俺は右腕の筋肉を盛り上げ、その筋肉でもって地竜に向かって槍を投げた。
「これでどうだ!」
投げた槍が、錐揉み状に回転しながら地竜に迫る。
そして地竜の背中に見事命中。
だがそれだけでは終らない。
槍は地竜の背中に刺さった後も、その回転を止めない。
まるでドリルの様に、地竜の皮膚の奥まで入り込む。
そして鮮血が舞った。
厚い皮膚を貫いた証拠だ。
「まさか、貫いたのか? オークの力でも貫けなかったんだぞ?」
ベルケが驚愕の表情で、暴れる地竜を見つめながらつぶやいている。
その隣ではアオが無表情でつぶやく。
「まあまあ」
ギリセーフか。
しかし地竜の暴れ方が物凄い。
相当に痛かったのか。
これは隙を突いて卵を捕るとか無理だろ。
あれだけ暴れられると、近寄るのも無理だ。
卵が割れないかも心配だ。
ハピが何度も急降下するが、卵には程遠い。
やはり仕留めないと無理そうだ。
いっそのこと“情熱のタンバリン”で味方もろとも、という手もあるが。
ここは無難にラミの毒球魔法に頼るか。
ただし卵も幾つか犠牲になるな。
それにはまず、オーク達を下がらせないといけない。
この距離だとオークも毒球に、巻き込んでしまうからだ。
ラミは剣と盾では決定打が入らず、大分イライラしてきている。
ハピもイライラの限界だろ。
そう思ってラミに声を掛けようとした時だ。
「やってられるかっ、ですわっ!」
ハピが先にキレた。
突如ハピがトルネードの魔法を発動。
続いてラミがキレた。
「トカゲの分際でぇ!」
ラミがポイゾンボールの魔法を発動。
つまりあれだ。
―――――毒竜巻!
俺は叫ぶ。
「オーク達、下がれ!」
ダイが必死の形相で逃げ帰ってくる。
そしてトルネードとポイズンボールが合わさり、毒の竜巻が巻き起こった。
ダイが俺に飛び付き、緑色に染まった竜巻を見ながら念話を伝えてきた。
『前よりもデカくなってないか』
ダイのいう通りだ。
前に見た時よりも巨大だ。
それに毒竜巻はその場に留まらない様で、あちこち暴れながら移動する。
毒竜巻は地竜を飲み込み巣を破壊し、それでも飽きたらず、他の地竜の巣までも無慈悲に破壊した。
しばらくして竜巻が収まると、そこには凄まじい痕跡が残された。
まるでアシッド・ドラゴンが暴れた後のような有様だ。
皮膚が爛れた地竜が数匹転がっており、卵の殻らしき破片が散らばっている。
そう、肝心の卵が全滅……
竜巻で飛んできた石で、負傷したオークも何人かいる。
ベルケが口を開けたまま固まっている。
あのアオでさえ、眼を見開いて固まっている。
俺は大声で言った。
「ラミっ、ハピっ、集まれ!」
俺のただならぬ様子に何かを察知したのか、ラミとハピが猛スピードで俺の前に来た。
俺が黙っていると、二人は俺の目の前で平伏した。
そしてラミが上目使いで言い訳する。
「わ、悪かったよう。こんなになるなんて思わなかったんだよう。食事抜きだけは勘弁だよう」
それに続いてハピ。
「ちょっと驚かしてやろうと思っただけですわ。悪気などないのでしゅ―――ですわっ」
気が付けば何故かオーク達も俺の周りで平伏しており、どう見てもこれはあれだ。
魔物達に平伏される魔王だ。
「やめろっ、頭を上げろ。勘違いされるだろ!」
ベルケとアオがリアクションに困っている。
そこでオーク隊長が突如、平伏したまま話し掛けてきた。
「魔王様、我々、力不足。大変―――――」
「その名で呼ぶな!」
ベルケが驚いた顔で俺を見て言った。
「お前、魔王だったのか……」
「違う、誤解だ。人間が魔王とか変だろ!」
この最悪の状況の中、少し離れた岩陰から白い生き物達が出てきた。
ダックが三匹だ。
今までの流れをあそこから見ていたのか?
しかしダックの様子がおかしい。
全く戦意がない。
そのまま真っ直ぐにこちらに来る。
そしていきなり平伏。
「魔王様とは知らずに大変――――」
「その名で呼ぶな!」
これは絶対、本物が攻めてくる流れだ。
ここからしばらく不定期投稿となります。
最低でも週に二本、出来れば三本を目標に投稿していきます。
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