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81 ゴーレムを見た








 大男のベルケは、自前の馬に騎乗して先頭を行く。

 俺達はその後ろを馬車で移動なんだが、荷台には獣魔達に加えて“傍若(ぼうじゃく)のアオ”も乗っている。

 アオは乗り物を持っていないからだ。

 馬くらい買える金はあるはずだが、乗馬が出来ないという。

 それなら荷運び用に荷馬でも買えと言ったら、マジックバックがあるからいらないという。

 そう、アオはマジックバックを持っていやがる。


 アオの持つマジックバックは、容量が三樽分と高性能。

 もちろんかなり高価な品物である。

 マジックバック購入希望者は多いが、製造が間に合っていない状況だ。

 欲しくても手に入らないのが現状である。

 俺だって欲しい。


 しかしアオは定住していないから、マジックバックの中は生活用品で埋まっているらしい。

 だからマジックバックを冒険者仕事用に、もうひとつ買いたいとか言ってやがる。

 こいつ相当稼いでやがるな。

 

 それに意外とこの女、聞けば何でも教えてくれる。

 ただしこちらから話し掛けないと、永遠に黙っているんじゃないだろうか。

 それに相変わらず不愛想、というか無表情。


 そんな話をしていると、ベルケの馬が俺達の馬車に近づいて来て、御者席の俺に話し掛けてきた。。


「なあ、後ろのオーク達も獣魔なのか?」


 ベルケが聞いてくるのも無理もない。

 俺達の後ろからは、ビックボアに騎乗したオークが三騎がついて来る。

 オーク達は紹介していないからな。

 俺の護衛とは言ってあるが、詳しくは教えてない。


「獣魔じゃないよ。なんか俺はオークに好かれるようだな」


「それなら良いんだが、本当に大丈夫なんだろうな」


「ああ、害はない。逆に助けてくれる。悪い奴らじゃないから大丈夫だ」


 ベルケは気になるんだろう、何度もオークをチラ見する。


 こいつにオークとの経緯など説明するのも面倒臭いし、そこまでの間柄でもない。

 エルドラの街に長く居れば、その内に俺とオークとの関係を知るだろう。


 近道を行くために、俺達は街道を外れた道へと入って行く。

 人通りが少なく危険といえば危険なのだが、この道を行けば一刻半も時間が短縮される。

 それに今の俺達は金等級冒険者の集まりなのだ。

 安心感が違う。


 どの隊商も街道を進む中、俺達だけが横道へと()れていく。


 と思ったのだが、一台の馬車が俺達と同じ横道に入って来た。


 かなり距離を空けてはいるが、後方のオーク達がいるから大丈夫だとは思う。

 

 そのオーク達もその馬車に対しては、全然警戒していない。

 それなら心配ないって事だろう。


 しばらく進むと行く手を川が阻む。


 といっても小さな川だ。

 それにここは、馬車でも通り抜けられる深さのはず。

 一応、馬車を止めてから、川の深さを確認しようと俺が川に近付く。


 その時だ。


「グワッ、グワッ!」


 物陰に潜んでいたダックが、一斉に姿を現した。

 道の両側、川の岩陰から出てきたその数は、軽く二十匹はいるだろうか。


 ダイが気付かなかったのが驚きだ。

 そう思って馬車を見ると、間抜けな顔で眠りこけるダイが見えた。

 そういうことか。

 しかし今の俺達は最強だ……たぶん。

 

 ダックが何匹いようが関係無い。


 そこで一匹のダックが声を掛けてきた。

 それは降伏勧告だった。


「荷物と金を置いて投降しろグワ。そうすれば命は保証するグワ!」


 要求からして単なる盗賊か。

 ターナー伯爵の仕業では無いようだな。

 

 ただ心配なのは、俺達の後ろから来ていた馬車だ。

 まさか馬車の中にはダックが満載、とかじゃないよな。

 挟み撃ちだとちとまずい。

 

 後方を見れば、そっちの馬車もオーク三人と一緒に、別のダックらに二十匹程に囲まれている。

 ならば後方の馬車は敵ではないか。


 しかし全部で四十匹のダックか。

 さすがに多すぎる。

 だが一人当たり八匹倒せば良いだけの話だ。


 俺が槍を構えた時には、後方の馬車とオークの方が先に動きがあった。


 馬車の幌の中から突然、フードを被った面々が躍り出た。

 そしてダックとの戦闘に入った。


 よく見ればフードの隙間から見えるのは、(つぶ)れた鼻に下顎(したあご)から突き出た牙。


 馬車に乗っていたのはオークだ。

 って事は、俺の護衛が増えてるって事か。


 オークとダックでは、個の戦闘能力が桁違いだ。


 馬車に乗っていたのは七人のオーク。

 そして元々いたのが三人だから、合計十人のオークと約二十匹のダックとの戦闘だ。

 数では圧倒しているダックだが、オーク達は専業兵士で力量では圧倒的に有利。


 それは戦闘が始まって直ぐに見えてきた。


 取り囲んで攻撃を仕掛けた側のダックが、防戦一方の展開となる。

 そして徐々にダックの数が減っていく。


 それは俺達の馬車でも一緒だった。


 オークとの戦闘が始まって直ぐに、俺達の馬車を取り囲んだダックの集団が、雄叫びを上げて襲撃してきた。


「グワッ、グワッ、ガー!」


 それを全員で迎え討とうしたら、ベルケが俺達を手で制した。


「これくらい、俺一人で十分だ。まあ、俺の強さをちょっとだけ見せてやる」


 そう言って馬から飛び降りた。


 これはベルケの実力を知るチャンスだでもあるか。

 ダックに全力ではいかないとは思うが、ある程度の力は見せて「俺は強いだろ?」のアピールをしてきそうだ。


 しかし囲まれた状態でどうするんだか。

 あの筋肉の塊のような体型だからな、きっと筋肉を見せつける様な肉弾戦なんだろうな。


 そしてベルケが動く。


 顔の前で指を組む。


 次に目を閉じて詠唱。


 そして―――――


「大地の精霊よ来たれ!」


 え?

 魔法?

 バリバリの肉ダルマ戦士じゃないのか?


 ゴゴゴゴ……と地面がせり上がり、土の中から現れたのはゴーレム。

 人間の倍はあろうかという大きさだ。

 それが二体とは、確かに凄いとは思う。


 それを見ただけで、ダック達は(ひる)む。


 ゴーレムがズシン、ズシンと歩めばダック達は後ずさる。


 そして左右に別れた二体のゴーレムが、ほぼ同時に大地を殴りつけた。


 その衝撃で小石や土が弾け飛び、周囲のダックを打ちつける。


「グワッ、グワッ」

「ガー!」

「グエッ」


 途端にあちこちからダックの悲鳴が上がる。

 俺達の乗る馬車にまで小石を打ち付ける。

 勘弁してほしい。


 しかしそれだけで終わるはずもなく、ゴーレムはゆっくりと前へと歩きだした。


 そうなるとダック達は大混乱。

 完全に戦意を喪失し、川の上流へと逃げ出し始める。

 それを見たベルケが笑いながら振り返り、俺達に向かって言った。


「どうだ、俺は強いだろ?」


 想像通りのセリフを吐いたな。

 しかし肉弾戦士じゃなくて、ゴーレム使いだったとはな。

 期待を裏切られた気がした。










 



次の投稿は明後日の夜遅くになりそうです。


引き続き「いいね」お願いします。






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