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80 金等級の依頼を見つけた








 いつものように朝早くから、冒険者ギルドで依頼を探している時だ。


 たまたま新しい依頼が、掲示板に張り出されようとしていた。

 それを見た瞬間、声を上げてしまった。


「おお、金等級クラスの依頼じゃねえか!」


 そうなのだ、珍しく金等級クラス対象の依頼だ。

 条件にしっかり“金等級以上”と書いてある。


 内容を見れば「地竜の卵の入手」とある。

 地竜というのは翼の無いドラゴンとか言われるが、早い話がでっかいトカゲの事だ。

 

 しかし決して弱くはない。

 成体の体長は人間の十人分以上はある。

 体がデカイ分、その一撃も強烈だ。

 噛み付かれたら四肢くらいは、間違いなく千切れるし、尻尾の一振りは身体の骨を一撃で粉砕する。

 踏みつけられただけで内臓が飛び出してしまう。


 そして報償だが、卵一個に付き金貨一枚。

 一度に卵は数個生むはずだから、上手くいけば金貨十枚近くになる。

 別に討伐しなくても良い訳で、卵を採取したら依頼は完了。

 危険はあるが避けることが出来る依頼である。


 それにこの卵がまた旨い。

 人間はこの卵をあまり好んで食べないようだがな。

 だが卵は旨いが肉は不味い。


 人間はその卵を利用する。

 恐らくテイム可能な魔物だから、卵から孵化ふかさせて育てようと誰かが依頼したのだろう。

 地竜が育てば、荷物輸送に大いに役立つ。


 ギルド員が掲示板に、その依頼を張り終えるタイミングで俺は手を伸ばす。


 すると、俺以外にその依頼に手を伸ばす冒険者がいた。


 思わず動きを止めて、そいつの顔を見てしまった。

 するとそいつも、手を伸ばした状態で俺を見た。

 完全に目が合ったな。


 それは青い革鎧に身を包んだ少女。


 “傍若(ぼうじゃく)のアオ”だった。


 銀等級から金等級への昇格試験の時に会って以来だ。

 しかしこの街で活動してるとは知らなかった。


 アオがボソリと小さな声で言った。


「それ、私の」


 彼女もこの依頼を受けたいらしい。

 だが金等級以上の条件依頼は珍しいから、俺だって譲れない。


 こういう時の冒険者同士の方法は決まっている。

 コイントスだ。


「確かアオって名だったよな。コイントスで決めるが良いよな?」

 

 アオは無言でコクリと(うなづ)く。


 俺はポケットから銀貨を取り出し、アオに見せながら言った。


「表が出たら俺が依頼を受ける。裏が出たらアオが依頼を受ける。それで良いな?」


 やはりアオはコクリと(うなづ)くだけだ。


 俺は親指でピンッと銀貨を弾く。


 空中高く上がった銀貨が、クルクルと回転しながら落ちてくる。

 アオがそれに顔を近付けてガン見する。


「顔が近いって!」


 俺が落ちてくる銀貨を手の甲で受けようとしたその時。


「邪魔だ、退け!」


 俺は何者かに押し飛ばされ、銀貨は無情にも床に落下。

 そのまま銀貨はコロコロと転がり、最後には床の隙間に入ってしまった。


「あああああっ!」


 俺はなりふり構わず、必死に床の隙間に指をこじいれる。

 そこには指が入るか入らないかのギリギリの隙間しかない。


 俺は愕然としながらも、俺を押し飛ばした奴を(にら)み上げた。

 ちなみに指が隙間から抜けず、しゃがんだままだ。


 そいつはガタイの良い、筋肉の塊の様な人間の大男。

 見たことない顔だ。


 その大男は一人つぶやきながら、地竜の依頼表に手を伸ばす。


「なんだ、こんな時化(しけ)た街にも良さげな依頼があるじゃねえか」


 怒りが込み上げてきた。


 俺は腕の筋肉を盛り上げ、床板をぶち壊そうとしてその時だ。


「おうふっ」


 大男が背を丸くして前のめりになっている。


 その大男の股間には、少女の足がめり込んでいた。

 やったのはアオだ。


 手が早いな、あの女。

 いや、足か。


 それに何の躊躇(ちゅうちょ)もせずに、思い切り蹴りやがったし。

 だが相も変わらず無表情。


 そして苦しそうな大男に向かって、アオがボソリと言った。


「それ、私の依頼」


 いやいや、まだ俺とのコイントスの結果が出てないだろ。


 俺は銀貨を一端は(あきら)めて、何とか手を床から抜く。

 そして背中を丸めて苦しそうな大男に顔を近付けて言った。


「見ねえ顔だな、どこから来たんだ」


 冒険者バッチを見れば金等級だ。

 てっきりザコかと思ったんだが、しっかり金等級だった。


 個人ランクで金等級の冒険者が三人も集まるなんて、この街ではかなり珍しい。

 普通は金等級ともなると、大きな街に一組いるかどうかくらいだ。

 

 俺の言葉は聞こえているはずだが、大男は「ぐぐぐぐ」と、うなり声しか発しない。


 しかし俺はなおも言葉を続ける。


「いいか、新参者、ここにはここのルールって――――」


 そこまで言い掛けたところで、アオが依頼表を胸に抱え持って、トコトコ受付けに行こうとしているのを見つけてしまった。


「アオ、なに勝手な事をしようとしてる!」


 俺はアオの首根っこを捕まえた。


 そこでようやくギルド員が登場だ。


「依頼の取り合いなんて、素人みたいな事しないでくださいよ」


 結局はギルド員の仲介の元、この依頼を三人の金等級冒険者で受ける事になった。

 俺とアオとこの他所から来た大男でだ。

 俺は断ろうとしたのだが、卵の買取でギルドが色を付けてくれるということで、何とか俺も承知した。


 それでこの大男だが、なんと男爵家の三男、つまり貴族だった。

 ギルド員がこっそり教えてくれた内容によると、貴族は貴族でもかなり落ちぶれた男爵家らしく、その三男となれば家系を継ぐことも出来ない、名ばかりの貴族みたいなものだと言っていた。


 だが自己紹介の時に、そいつは名前しか名乗らなかった。

 つまり身分は隠したいようだ。


「俺はベルケ、俺の邪魔だけはするなよ」


 これが大男の自己紹介だった。

 リングメイルアーマーに身を包み、手には大盾とメイスを装備していた。

 典型的な戦士系冒険者だ。


 それなら俺も余計な情報は出さない。


「俺はライだ」


 続いてアオ。


「アオ」


 二文字、まさに最低限の自己紹介だ。


 こうして俺達はこの三人で、エルドラの街を出発した。




  ▽  ▽  ▽




「おい、魔物が一緒にいるのはどういう訳なんだ!」


 ベイケが俺の乗る馬車を見た第一声だ。


 するとラミとハピ。


「また面倒くせえ人間が出てきたなあ」

「そこの生意気な筋肉ダルマはなんですの」


 するとベイケが驚いた顔で言った。


「ま、魔物がしゃべった!」


 もう聞き飽きたな。











 



次の投稿は明後日の夜の予定です。


「いいね」引き続きお願いします。






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