79 トレント狩りへ行った
森のあちこちから悲鳴が聞こえる。
もちろん人間の叫ぶ声だ。
ラミが派手にやってるようだ。
そんな中、ちょっと風変わりな歌声が聞こえだした。
「パラリン、パララ~、パラリラ~♪」
これは間違いなくハピの声だ。
次いでタンバリンを叩く音と、シャンシャンという音が聞こえてきた。
俺の側でオーク達とダイが耳を塞いでいる。
距離があるからなんとか大丈夫みたいだ。
しばらくすると一人ラミが、血だらけで戻って来た。
むろん返り血である。
ラミの両手には、何やら沢山の物が握られている。
それらを俺の目の前にドサッと投げ置いた。
「見てくれ、今回の戦利品は中々良さげだぞ」
倒した人間の戦利品のようだ。
見れば装備はバラバラだが、中々良さそうな品が多い。
その中に見つけてしまった。
「おい、これって冒険者バッジだよな……」
俺はそれを拾い上げ、血と泥で染まった金属プレートを指で拭った。
間違いない、銀等級の冒険者バッジだ。
相手が人間なのは良い。
だけど冒険者はまずかった。
こいつらの行方不明場所が、俺達の依頼場所とかぶる。
そしてこいつらが依頼でここへ来る事は、冒険者ギルドなら知っている。
つまり俺達が怪しまれる。
確かに魔物使いとして実積は重ねてきたが、所詮は魔物集団と考えている人間は多い。
それに俺達には敵が多すぎる。
いざとなったら何を言われるか、分かったもんじゃない。
一人くらい生かしておいて、こいつらが先に手を出したと証言させるべきだった。
そうなるとこの戦利品を俺達が持っているのはマズい。
「ラミ、その冒険者の装備は持って帰れない。捨てるんだ」
失敗したなと悔やんでいると、またしても「パッパラパラリラ~♪」と声が聞こえた。
歌ってるって事は、冒険者は全滅していない、まだ生きてるって事だ。
ダイから念話が送られてくる。
『ハピと生きた人間の臭いもするぞ』
やはり生きている!
「まだ生きてる冒険者がいる。ハピに生かしておくように言ってくる。お前らはここで待機だ!」
そう言って俺が飛び出そうとすると、オーク達も一緒に行こうとする。
そこで俺は無言で睨みを利かせた。
するとオーク達はスゴスゴと、その場にしゃがみ込んだ。
俺が声のする場所へ全力で走って行くと、奇々怪々(ききかいかい)な踊りをしているハピを発見!
「ハピ、殺すなっ」
叫んだは良いが、その光景を見て固まった。
「ハピ? 何を……やっている?」
そこには木に縛られた人間の男、そしてその目の前で狂ったように踊りまくるハピがいた。
「あら、ライさん、どうしたのですの?」
「それより、ここで何をしてるんだ……」
「何で“魅了”出来ないのかと、色々と踊り方を変えてるんですわ」
その踊りと歌声じゃ絶対に“恐怖”になるよとは言えない。
「それはまた今度にでも検証しようか。と、取りあえず、そいつを生きたまま連れて行くぞ」
「分かりましたですわ」
良かった、これでこいつを冒険者ギルドに突き出して、俺達の正当防衛を主張しよう。
そこで縛られている男を見ると、恐怖で失神していた。
それを叩き起こす。
「おいっ、起きろっ、いつまで寝てんだよっ」
何発かひっぱたいて、やっと男が目を覚ます。
「う、うわあっ、助けてくれぇ」
完全にハピの踊りと歌に、恐怖しきっているな。
それならそれで使いようかと思い、俺は男に言った。
「洗いざらいしゃべれ、さもなくば耳元で歌わせるぞ!」
ハピが「その言い方は酷くありませんの」と言ってくるが、今はそれどころではない。
「分かった、分かったからそれはやめてくれ。何でも話す、頼むから!」
縛られた男は必死だ。
「よし、なら俺の質問に答えろ」
「分かった、何でもしゃべる」
なんだ、タンバリンはこういう使い方もあったか。
傷つけ無い拷問とかビックリだな。
「そうだな、まずは何で俺達を襲ったかだな」
まあ、魔物と勘違いしたんだろうが、一応聞いておく。
だが男の答えは違った。
「タ、ターナー伯爵からの依頼だ」
あの野郎か!
まだ諦めないのか。
しつこい奴だな。
冒険者を使うとか、何でも有りできたか。
貴族じゃなければぶち殺すんだがな。
「話は終わりだ。ハピ、その男をギルドに突き出すぞ」
とその前に、依頼をこなさなくちゃいけなかった。
トレント狩りだ。
男を縛り上げ馬車の荷台に転がし、森の奥へとさらに進んだ。
結果、トレントに“情熱のタンバリン”は効果なかった。
理由は分からない。
感情が無いのか聞こえてないのか、その辺はサッパリだ。
その両方の理由かもしれない。
とにかく依頼失敗はマズイから、トレントはラミとハピの肉弾戦で一体だけだが葬った。
そこでトレントを解体となるのだが、死んだトレントはただの大木と変わらない。
硬すぎてナイフじゃ解体できないのだ。
討伐証明は幹の中心部にある根幹という事だが、その根幹にたどり着けない。
トレントは高級木材として売れるから、本来ならば綺麗に解体したい。
解体というよりも製材か?
「斧かノコギリを持ってくれば良かったな」
俺達が困っていると、オークの一人が小型の斧を持っているという。
ハチェットと呼ばれる斧だ。
小型だが無いよりはましと、交代でトレントを削っていった。
なんとか根幹部分は手に入れられ、材木も少しは取れたが、かなり汚ない見た目の材木だ。
トレントの素材は魔法使いの杖、木剣や盾として良く使われる。
さて少し早いが俺達は、これで今日の仕事は終わりにする。
そこから俺達はまた一日掛けて、エルドラの街に戻った。
真っ先に冒険者ギルドへ行って、捕まえた男を突き出した。
調書をとらされたりとかなり面倒臭かったが、俺達は正当防衛が証明された。
そしてトレントの討伐証明を冒険者ギルドの受付けに提出。
「はい、確かにトレント討伐証明受け取りました。一体分ですので銀貨一枚ですね」
そう、銀貨一枚分にしかならないのだ。
しかし、材木というトレントの素材がある。
ギルドの素材の買取り受付へと持って行く。
「う~ん、作業が雑だなあ。これだと全部で小銀貨八枚ってとこだな」
大赤字ってやつだ。
ラミとハピが、トレントをボコボコにしたのがいけなかったのだ。
それに、剥ぎ取りもハチェットだから雑になるわで、素材としての価値が落ちてしまったのだ。
そこで思い出した。
「そうだ、冒険者の戦利品とかあったよな。あれは結構良い品物だったから、買取り受付へと持って行けば、かなりの金になるぞ」
するとラミ。
「あれはライさんが全部捨てろって言ったじゃねえか。だからキッチリ全部捨てたぜ」
やっちまったな。
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