77 タンバリンで踊った
ハピが聞いてきた。
「それって何をする物なんですの?」
ラミが聞いてきた。
「ライさん、隠さないで使い方くらい教えろよ」
二人はタンバリンに興味津々だ。
そうはいっても、俺だって使った事がある訳じゃないから説明出来ない。
芸人の一人が歌いながら、タンバリンを鳴らしてたのを見ただけだ。
人間の若い女性が布の少ない服装で躍りながら歌い、タンバリンを手だけでなく、腰や足にまで打ち付けて音を出していた。
それを見た時はあまりにも滑稽に見えて、本当に人間って変わってると思った。
先ずはその魔道具である、タンバリンの鑑定をしないと値段がつかない。
俺達は急いでエルドラの街へと戻った。
街へと到着するとまずは、アグリッパの店にワイバーンの肉を卸す。
そしてモモ肉以外の部分は、冒険者ギルドへ持って行く。
さらにゴブリンからの戦利品も、ギルドで金に換えた。
しめて金貨32枚。
大金だ。
そして目玉の品物のタンバリン。
前回は冒険者ギルドで鑑定して騒ぎになってしまったから、今回は商業ギルドへ行って鑑定してもらった。
そして調べた結果―――――
「これは“情熱のタンバリン”というダンジョン産の魔道具で間違いありません。ぜひとも、当ギルドで買取らせて下さい!」
商業ギルド員が鼻息荒く、いきなりの提案だった。
「その前にどんな効果があるか聞かせてくれ」
ギルド員は眼鏡をクイッと直すと、落ち着きを取り戻して説明を始めた。
「そ、そうですね、これは大変失礼しました。この魔道具は対象者を“魅了”します。魔法のチャームパーソンと同じ効果があります。ただし色々と条件があるようでして、例えば使用者の演奏の腕に効果が左右されます。上手く演奏すればそれだけ強い力で対象者を“魅了”します。しかし演奏が下手だと、対象者に何の効果も与えません。発する音の強弱にも効果は左右されます。それと効果は聞いた者全てが対象となります。どうです、金貨三十八枚で引き取ります!」
これも音響武器みたいなものだな。
さて、この魔道具をどうするか。
金貨三十八枚なら売っても良いが、相手を殺さずに抵抗を削げるのは良い。
持っていても良いかもしれない。
いらなくなってから売っても遅くはない。
「鑑定料金はここに置いておく。取りあえずまだ売らないことにした。悪いな」
そう言って商業ギルドを後にした。
俺は楽器とか絶対無理だから、ラミかハピに使わせるか。
と思ったのだが、そう上手くはいかないものだ。
「戦いは得意だが、楽器とか絶対に無理だぞ。せいぜい盾に剣を何度もぶち当てて、バンバン音を鳴らすくらいなら出来るぞ」
ああ、戦意を盛り立てるあれだな。
あれは楽器とは違うしな。
ラミが駄目ならハピがいる。
「え、わたくし? 楽器ですの? 使い方を知らないですわ」
それもそうだな。
「それなら演劇場へ行ってみるか。誰か使い方を知ってる人間がいるかもしれない」
しかし残念ながら、エルドラの街には演劇場が無かった。
その代わりに、タンバリンを知っているという、踊り子を見つけた。
広場の大道芸人に声を掛けたのが正解だった。
「タンバリンなら良く知ってるよ。あいにくタンバリンはもう持ってないけどね、代わりにこの鈴でよければ踊りを見せれるよ」
これはラッキーだ。
本当は“情熱のタンバリン”を使って貰いたいとこなのだが、魔法が発動したら大変だからな。
「そうか、それは助かるな。それじゃあ踊って見せてくれ」
俺がそう言うと、その踊り子が無言で手を出す。
その辺はしっかりしてやがる。
俺は小銀貨五枚をその手に乗せた。
踊り子は動かない。
仕方なくもう五枚の小銀貨を乗せたら、踊り子はニコニコしながら言った。
「毎度っ。それじゃあ、しっかりと見とくんだよ!」
そう言って踊りだした。
俺が昔見た踊りと少し違うが、タンバリンの使い方は同じだった。
踊りながら手で叩いて鳴らすだけでなく、腰に当てて音を鳴らす。
手を揺らしてシャンシャン音を鳴らす。
鈴で再現してくれたが問題ない。
腰をくねらせクルクル回って踊る。
そして歌いだした。
こんなに上手い歌は初めてだ。
魔物の俺が聞き入ってしまうほどだ。
気が付けば人だかりが出来ていた。
踊りが終わると拍手喝采だ。
俺達は圧倒されたまま、その踊り子と別れた。
「どうだハピ、出来そうか?」
するとハピ。
「そうですわね。わたくしにもあのくらいだったら、出来ると思いますわ」
頼もしいじゃねえか!
「それなら早速試してみるか!」
こうして俺達は、歩いて街の外へと向かった。
音響系だから馬はマズいと思い、念のため馬車は置いて行く。
いつの間にかオークの護衛が、四人になっている。
もう何人だろうと、どうでも良くなってきた。
もちろんそのオーク四人も、歩いて付いて来る。
街から離れた所で、対象とする魔物を探さないといけない。
幸い、直ぐにホーンラビットを発見した。
ちょっと距離があるが、試しにやらせてみた。
「ハピ、あのホーンラビットで試すぞ」
「分かりましたですわ。私の美声で魅了して差し上げますわよ」
音楽が解らないホーンラビットが、どうなるのかが気になるんだよな。
ハピがそ~とホーンラビットに接近する。
ホーンラビットが危険を察知して身構える。
そこでハピが“情熱のタンバリン”を取り出した。
なんか見てる俺がドキドキしてきたぞ。
ハピは俺達の方を一度振り返り、自信ありげな顔をした。
見てなさいとでも言いたげだ。
そして突如始まった。
ハーピーの地獄の舞いが!
ハピが踊る姿なんて初めて見る。
元々俺には踊りの上手い下手なんか分かるはずもない。
そんな俺でもハピの踊りを見て、ハッキリと感じてしまった。
それを言葉で表すならば……
「奇々怪々(ききかいかい)」
そんな言葉がぴったりだった。
これはあれだ。
夢に出てくるやつだ。
次の投稿は明後日の昼の予定です。
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