75 目の前に財宝をぶら下げてきた
遅くなりました!
さて、この辺り一面のワイバーンの残骸だが、どう処理したものか。
数が多すぎる上に、グロい見た目になっている。
血の量も凄い。
回収できそうなモモ肉はあるが、かなり手間が掛かりそうだ。
しかし長時間ここにいたら、また襲われてキリがない。
さっさと片付けて退散しよう。
獣魔達はまだ立ち直れそうにないので、仕方なく俺が一人でモモ肉の回収をしていると。
明らかに殺気立っているワイバーンの群れが、こちらに向かって飛んで来るのが見えた。
これはちょっとマズイよな。
何がマズイかって、獣魔達だ。
これ以上ハウリングを聞かせると命に関わる。
よって、これ以上の戦闘は避けなければいけない。
俺は持てるだけのモモ肉を持って、さっさと森の中へと隠れた。
ワイバーンはかなり高い所を旋回し始めたのだが、何だか色が違うワイバーンがいるのが見える。
まさかドラゴンかと思って焦ったが、どうやらドラゴンではないらしい。
ワイバーンの亜種だろうか。
一匹だけ黒いのだ。
俺達が森の中で潜んでいると、その黒いワイバーンが一匹だけで降下して来た。
何をする気だろうか。
まあ、一匹なら問題ないと思うが。
どうせ森の中には入って来れないしな。
取りあえず俺達は、音を立てないように身を潜める。
そして遂にその黒いワイバーンは地上に降り立った。
そしてゆっくりと周囲を見回すやタメ息を吐く。
「はぁ~、これは激しくやってくれたなぁ」
ま、魔物がしゃべった!
危なく声に出しそうになった。
俺達は必死に気配を消す。
獣魔達も固唾を飲んで縮こまっている。
すると黒いワイバーンは、俺達の潜む森の方を向いて言葉を発した。
「そこに隠れているのは分かっている。べつに戦いに来た訳じゃないから、ちょっと出て来てもらえないか」
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!
しゃべるワイバーンなんか聞いた事ないぞ!
そこへダイが念話を送ってきた。
『魔物がしゃべった!』
ダイが驚いているってことは、物知りのダイも知らないってことだ。
それは大ピンチだ。
黙りを決め込んで、居なくなるのを待つか?
それとも覚悟を決めて、俺が奴の前に出て行くか。
獣魔達を見る。
逃げ切れるほど回復はしていないな。
俺は決断した。
「分かった。今そこへ行く!」
俺は変身で破れた服をすて、新しい服に着替える。
言葉を話せるって事は、知能が高く恐らく相手はワイバーンの親玉。
しっかり身だしなみは整えてから行く。
「待たせたな」
そう言って俺は森から出ると、黒いワイバーンの前へ歩きだす。
出来るだけ余裕があるように、ゆっくりと歩く。
実は緊張して冷や汗ダクダクだ。
「何だ、人間の冒険者なのか。魔物だって聞いたんだがな」
またはっきりとした発音でしゃべりやがったな。
しっかり口も動いていたから、間違いなくこのワイバーンがしゃべってる。
「俺はライカンスロープ、名はライ。人間じゃない。で、貴様は誰だ」
「ライカンスロープ……まだ生き残ってたのか。それにライカンスロープが冒険者やってるとはな、それは面白い。私はここのワイバーンの長だ。ドラゴン達からは“ブラックバーン”と呼ばれているよ」
ドラゴンと知り合いなのか……厄介だな。
「そのブラックバーンが俺に何の用だ」
するとブラックバーンは周囲を翼で示しながら言った。
「おいおい、ウチの配下をこんなにしちまって“何の用だ”はないだろう。だいたいだな、魔物が何で人間の味方をしてるんだ」
正論で返されると困る。
それなら正論っぽく返したる。
「人間の味方をしてる訳じゃない。人間社会で身を隠しているだけだ。ワイバーン狩りも人間社会で生活していく為の方法のひとつだ。お前も魔物なら分かるだろ。食べる為に強者が弱者を狩って何がいけない」
「魔物のくせに口が回る奴だな。食べる為というならもう、このくらいで退散してくれないか。我々も無駄に命を散らしたくないんでね。これ以上まだやるというなら、こっちもこのまま黙っちゃいない。あらゆる手を使うぞ?」
脅してきやがったか。
あらゆる手、つまりドラゴンに助けを求めるんだろうな。
それは困るし、そうなったら勝ち目がない。
だから返答は決まっている。
「そうか。そっちが何もしてこなければ俺達はこれで帰るつもりだ。だがその前に、この辺をもうちょっと片付けてからにしたいが、それは良いだろ?」
かなり嫌そうな表情をするブラックバーンだが、重そうに口を開いた。
「……分かった。それは許そう。だけど早く出てってくれよ。こっちにも立場ってもんがあるんだからな。それからもう一ついいか」
「なんだ、言ってみろ」
「またここへ狩りに来るつもりだろ?」
なかなか鋭い。
返答に困るな。
正直言ったら攻撃してくるかもしれん。
「どうだろうな。来るかもしれないし、来ないかもしれない。先のことなど分かるはずないだろ」
誤魔化してやった。
するとブラックバーンは少し黙り込み、目を閉じて何か考え事をする。
そして鋭い瞳をカッと見開き俺に問いかけた。
「ひとつ提案がある」
提案?
「だが断る!」
「いや、まだ何も言っていないぞ?」
「それなら言ってみろ」
俺を怪しそうに見ながらも、ブラックバーンはその提案を説明した。
「今後ワイバーン狩りを止めてくれるなら、それに対しての代償を払おう。ああ、それとゴブリン討伐も止めてくれ。彼らは我々の保護対象なんでな」
ほほう、代償か。
何か貰えそうな雰囲気だ。
「代償を払うだと。ワイバーンの肉に見合う代償なんだろうな。それとゴブリン討伐もとなると、条件は二つ。代償も二つだろうな」
「口は達者だな……そうだな。それならまず一つ目だが、ラミアがいただろう。片腕が不自由してるラミアだ。その片腕を治そう。それでゴブリンの件は勘弁してくれ」
あんな上空からでも、ラミの左腕の不自由さを見てとれたというのか。
恐ろしいほどの観察眼と視力だな。
「ふんふん、それでワイバーン肉に見合う方は何だ」
「ああ、こっちが本題の方だ。我々の財宝を出す」
キター!
きっとドラゴンから分けてもらった物だよな。
「そ、そうか。そ、そ、それでその財宝とは何だ」
「ドラゴン族は輝く物が好きなのは知ってるだろ。それでドラゴン族が良く自分たちの棲家に輝く物を運ぶんだがな、大きなバックがある訳でもなく、運んでる最中によく落とす。それらを我々が時々拾うんだ。その拾い集めた品物を定期的に渡す。どうだ、悪い提案じゃないと思うが」
こ、これは、魔剣が手に入るとか、伝説級の魔道具が手に入るっていう流れじゃないのか!
次の投稿は明後日の昼頃の予定です。
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