74 ワイバーンの群れが来た
馬車まで戻ると、馬車番をしてくれたオークの力も借りて、荷台へとワイバーン肉を積んでいく。
布でくるんで積み込み、日に当たらない様にワラを被せていく。
ゴブリンからの戦利品は、ゴブリンシャーマンが持っていたポーション、それに魔法石がはめられた杖、こんなところだ。
いくらになるかは鑑定しないと解らない。
「こんなもんで良い、さっさと出発するぞ」
まさかとは思うが、ワイバーンの報復が恐い。
しかし帰りも四日かかる。
匂いで魔物が集まって来そうだ。
それに、どう考えても肉が傷むよな。
というわけで、ワイバーン肉を食べながらの帰還となった。
野営する時、焚き火で肉を炙って食う事にした。
まずは肉の表面から傷んでくるから、周囲をナイフで刮ぎ取った。
それを焚き火で炙り、持って来た塩をまぶしただけの料理なんだが、焼いている最中から匂いがたまらん。
脂が火に滴る時に立ち上る煙までが、勿体ないと思えるほどだ。
「ライさん、もう良いよなっ」
「まだだ、ちょっとは我慢しろ」
「こ、この肉なんて、もういけるんじゃないですのっ」
「だからまだだって、何回言わせんだよ――――あっ、ダイっ、勝手に食うなよ!」
俺が仕切らないとこいつら、きっと秩序がなくなり、魔物剥出しで争ってるだろう。
そして、ついに我慢に我慢を重ねて、いざ――――実食!
初めてワイバーン肉を食ったが、これ程とは思わなかった。
脂身まで旨いとか、ズルいだろ。
それに肉が柔らかい。
これは本当に衝撃的だった。
「ライさん、次、どんどん焼いてくれ」
「そうですわ、全然足りないですわ」
「ワフゥ!」
こうなったら止まらない。
かなりの量を食いきった所で気が付いた。
「あ、ヤバい。納品分が、これしかないぞ……」
全員で馬車の中を覗き込む。
『これじゃ納品できないな』
「ラミが食い過ぎなのですわ」
「あんだと~、ハピが独り占めしようとするからだろうがっ」
喧嘩になりそうな所へ俺が割って入る。
「残りはオークにやろう。一人死んじまったしな。見舞金代わりだ。その代わりにもう一回行くぞ、ワイバーン狩りに!」
オーク兵にワイバーンの炙り肉を持って行ったら、目玉が飛び出しそうになるほど驚かれた。
何度も「本当、良いのか」と聞かれたな。
オークにとってもワイバーン肉は、とても貴重品だったようだ。
そして再戦。
上空でワイバーンが飛んでいる。
今度は少ない群れを狙うべく、アチコチ移動する。
しかし移動したとしても、上空のどの群れが来るかは想像でしかない。
それでも今回は、しっかりとした罠を仕掛けた。
ロープで輪を作って、ワイバーンの足を引っ掻ける作戦だ。
ロープは強い力が加わっても切れないように、三本を重ねて使用する。
もちろんロープの端は、太い木に縛り付けた。
人間の生活が長いから、こんな人間っぽい作戦も出来るようになったのだ。
『ライ、今度はお前が囮やれ。順番だ』
ダイからの念話だ。
「わかった、わかった。俺がやれば良いんだろ」
俺はそう言って、罠のある場所で座り込んだ。
もちろん命綱付きだ。
しばらくすると、俺の遥か上空でワイバーンが旋回を始めた。
どうやら食い付いたようだが、直ぐには降下して来ない。
今の所は様子見か。
適当に槍の素振りをしながら待っていたのだが、旋回するばかりで一向に高度を下げない。
さっきのハウリングで、かなり警戒されているのかもしれない。
だがここで諦める訳にはいかない。
待つこと四半刻。
いつの間にか、ワイバーンの数が五匹になった。
問題ない。
捕まえるのは一匹だからな。
だけどまだ降りて来ないのかよ。
段々と眠くなる。
半刻ほど経った。
ワイバーンは十匹を超えた。
えっと、ま、まあ、これくらいならハウリングで一網打尽だよ、な?
暇すぎて眠い……
俺はハッとして目が覚めた。
真っ先に目に入ってきたのは、空を埋め尽くす様な数のワイバーン。
俺は居眠りしてたのか!
直ぐに振り返り森の方を見る。
気持ち良さげに居眠りしている獣魔達。
くそ!
「起きろっ、撤退する!」
俺は自分に巻かれたロープをほどきながら叫んだのだが、熟睡しているのか寝起きが悪い。
くそ、ほどけねえ!
嫌な殺気を感じて上を見れば、ワイバーンが俺に向かって急降下している。
それも一匹じゃない。
十匹、いやもっとだ。
次々に急降下してくるから、その数は増えていく。
駄目だ、逃げ切れない。
俺は変身する。
ハウリングで近付けなければ良いだけの話。
変身が終わり、俺は空に向かって雄叫びを上げた。
「ヴォオオオ~~オオオ~」
熟睡していた獣魔達が飛び起きて、目を血走しらせながら耳を塞ぐ。
そして恨めしそうに俺を見る。
「なにさらしとんのじゃ!」とでも言いたそうだ。
知ったことか!
急降下していたワイバーンが、急激に悶え始める。
そしてそのまま地面に激突した。
もちろん急降下していたのは一匹だけではない。
次々に地面に激突していくワイバーンの群れ。
まるで地震のようだ。
避ける俺も忙しい。
空を埋め尽くさんばかりのワイバーンも、次々に逃げて数を減らしていく。
あとに残されたのは、たくさんのワイバーンの激突屍体と、鼻から血を流す三馬鹿獣魔だ。
しかし危なかった。
本当にヤバかった。
あのまま俺が目を覚まさなかったら、ワイバーンの餌になってたな。
しかし物凄い惨状だな。
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