72 生き餌で勝負した
五匹のワイバーン相手では無理がある。
しかしあんな高い所からでも見えるんだな。
「一度森へ引き返すぞ!」
森に入れば身体のデカいワイバーンでは、木々が翼を邪魔して追ってこれない。
全力で走る。
足の筋肉を盛り上げ、ダイを抱えて猛スピードで走った。
ハピが竜巻魔法で時間を稼いでくれている。
良かった、これなら逃げ切れそうだ。
俺は森へ入って後ろを振り向くと、俺達に付いて来ていたオークが上空に弓を構えている。
周囲に遮蔽物が全くない所でだ。
「あのバカ、弓を射るつもりだぞ。ワイバーンに弓矢が通じる訳ないだろ。おーい、こっちへ来い!」
五匹のワイバーンのうちの二匹がそのオーク目掛けて急降下して来た。
俺は必死で叫んだ。
「逃げろっ、弓矢じゃ無理だ!」
オークは俺の声が聞こえていないのか、上空のワイバーンから目を離さない。
そして十分に引き付けてから矢を放った。
ワイバーンの急降下速度も相まって、放たれた矢はワイバーンの硬い皮膚を貫き、見事にその胸板に矢羽根を突き立てた。
しかしである。
ワイバーンは何事も無かったかのように、オークを足のカギ爪で掴んだ。
矢は胸に刺さったままだが、全く効いてない様子だ。
そこへもう一匹のワイバーンが地上に降り立ち、そいつも足のカギ爪でオークを掴んだ。
獲物の取り合いだ。
そしてほぼ同時に二匹のワイバーンは、上空の違う方向へと舞い上がった。
その途端だった。
嫌な音を立ててオークが二つに裂けた。
大量の血が地面を赤く染める。
「酷いですわね。モタモタしてるからですわ……」
ハピが言う通りなのだが、だけどあのオークは俺を逃がす為に時間を稼いでくれたんじゃないだろうか。
戦闘思考のオークだから、逃げないで戦いを挑んだとも考えられるが、それだけじゃない気がしてならない。
なんか、後ろめたい気がする。
それに今のを見てしまったら、ワイバーンへの対応策に悩む。
一匹だけをおびき寄せる事が出来ないと、とてもじゃないが仕留められない。
これは森の中で作戦会議だな。
皆で話し合っても、中々良い作戦など出てこない。
ダイが『ライのハウリングじゃ駄目なのか』と聞いてきた。
「あれは空高くに逃げられたら、全然効果がないんだ」
と返す。
空の高い所では、声が風に掻き消されて効果が薄いのだ。
すると再びダイ。
『それなら囮の餌を地面に置いて、地上に降りた所で罠に掛けるのはどうだ。俺達は別の所で隠れていれば良い。それでも仕留められないなら、ハウリングを試すってのはどうだ』
なるほど、罠に掛かれば空に逃げられず、ハウリングも有効だな。
その前に罠だけで捕獲出来れば、それに越したことはないしな。
「良し、それでやってみるか。
他に良い案は無さそうだしな」
やることは決まったが、肝心の餌を何にするかだ。
一番は馬なんだろうが、食われたら俺達が困る。
となると……
「ラミ、俺の頼みを聞いてくれるか?」
ラミはキョトンとした様子。
「ライさんの頼みなら断らないが、何をさせようと言うのだ」
「そうか、助かる。ハピ、ラミを縛ってくれ」
「はい、よろこんでやりますわ!」
ハピは楽しそうにラミを縛り始める。
「え、え、何だ、いったい私をどうするつもりだ?」
ラミは動揺を見せつつも、なすがままにされていく。
そして出来上がったのはラミの生き餌だ。
ラミを囮にワイバーンを引き寄せる作戦だ。
ラミをロープで縛り、ロープの先を木に縛り付ける。
ラミが連れ去られないようにするためだ。
ロープで縛ればそう簡単には持って行かれないだろう。
ラミを選んだ理由はそう簡単に死ぬ様な奴じゃないって事と、ラミならワイバーンにでも十分抵抗出来ると考えたからだ。
「ラミ、お前ならワイバーンを地面に釘付けに出来る。その間に俺達がワイバーンを仕留める。これが上手くいったらワイバーン食い放題だぞ」
するとラミは目を輝かせる。
「食い放題……食い放題なのか……やってやる、やってやるぜ!」
凄いヤル気だ。
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それでラミは鼻息も荒く武器を握りしめて、森の外れに先ほどからずっと置き去りにしてあるんだが、空中を旋回するワイバーンはいても、どうした訳かラミに攻撃して来ない。
やはりラミアクラスの魔物だと、さすがのワイバーンも危険を察知して降りて来ないのかもしれない。
それなら次の作戦は簡単だ。
「交代だ。ラミに代わってハピ!」
「え?」という顔をするハピ。
「おーい、ラミ~。戻れ~。ハピと交代だ!」
するとハピが大慌てだ。
「ライさん、待ってですわ。ハーピーは魔法を使うからワイバーンは襲ってこないですわよっ」
そうなのか。
ワイバーンは魔法を使えないからあり得ない話じゃないな。
ならば……
ダイと目が合う。
その瞬間、ダイが猛ダッシュ!
「ハピ、ダイを捕まえろ!」
今の子狼の姿のダイに逃げ切れる訳がない。
一瞬でハピに鷲掴みで捕まる子狼。
「ハピ、逃げられないようにロープで木に縛り付けろ」
『ライ、後で後悔するぞ。やめろ~! 呪ってやる!』
ダイが念話を送ってくるが、耳に聞こえてくるのは「キャン、キャイーン」だ。
さてと、これであとはワイバーンが降りて来るのを待つだけだな。
そこでハピが俺に耳打ちしてきた。
「ダイって人間には“半神”扱いされてるんですわよね。こんな扱いでよろしいのですの」
俺は自信をもってそれに答えた。
「構わん。所詮はダイだ。絶対に死なないしなっ」
キッパリと言ってやった。
そして、それは俺達が森の中へ入って直ぐだった。
突然、上空で旋回していたワイバーン五匹が、一斉に急降下して来たのだ。
「くそ、食い付くのが早い。戦闘準備!」
慌ててラミとハピが武器を構える。
ラミと俺は槍を投げられる様に構え、ハピはマジックミサイルの弓を構えた。
「今だっ、放て!」
俺の号令の元、ワイバーンに向かって槍と矢が放たれた。
次の投稿は明後日の朝の予定です。
「いいね」引き続きよろしくお願いします。
物凄い数の誤字脱字報告がきました。
誤字脱字職人の皆様には感謝!