71 ワイバーンの山へ行って見た
魔物を狩ってその肉を『アグリッパの店』に持って行った時だ。
かなり苦労して狩って来たデスボア。
ギルドで解体して肉だけを馬車に積んで来たんだが、元がデカかっただけに馬車への積み下ろしで汗だくだ。
そんな最中に声が掛かる。
「ライさん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
仕入れ担当の店員がそう言ってきた。
俺は手を休め腰の水袋で喉を潤しながら言った。
「何だ、言ってみろ」
「ワイバーンの肉が欲しいのだけど、どう?」
水を吹いた。
何が「どう?」だ!
こいつ簡単にワイバーン肉欲しいみたいなこと言いやがったが、ワイバーンの恐ろしさを知ってるのか?
「その前に良いか。ワイバーンってどんな魔物か知ってて言ってるのか?」
すると平然とした顔で言い放つ店員。
「滅多に手に入らない、希少かつ絶品の肉でしょ」
「間違っちゃいない。だがひとつ足りない。“ワイバーンは狂暴”ってことだ」
ワイバーンには一度追い回されたことがある。
空飛ぶ魔物に対抗できる手段が、俺にはほとんどない。
だから狙われたら逃げるに限る。
早い話、ワイバーンを狩るとか無理。
「でもライさんって金等級だよね。違いましたっけ。金等級冒険者ならワイバーンくらい楽勝かなあって。それに英雄だし、金等級なら引き受けてくれるかなって。よっ、金等級の英雄!」
こいつ、ワザと金等級連発してるな。
どうやって断るかな。
するとそこへハピが横から出て来る。
「ワイバーンなら居場所分かりますわよ。道案内ならわたくしにお任せ下さいですわ」
道案内いらん!
さらにラミ。
「ワイバーンはちょっと強敵だぞ。奴らの尻尾に毒があるんだがな、人間ならちょっと掠っただけでも死ねるぞ。だけど私には効かないけどな。だけどよ、私の毒もあいつらには効かねえんだよなあ」
毒持ちには毒が効かないか。
ラミでもダメなら俺達じゃ無理だな。
「そういうことだから、この件は―――」
俺が断ろうとしたところでラミが俺の言葉を遮った。
「―――まあ、ちょっと大変だけど私らに任せておけって。なんたって、金等級冒険者だからな!」
勝手に引き受けんじゃねえよ!
そこで店員。
「そうか、助かるよ。そうだな、ワイバーンのモモ肉一匹分で金貨十枚でどうだ?」
金貨十枚だと!
「任せておけ」
あれ?
前にもこんな展開あったよな。
俺ってこんなキャラだったか?
人間の生活が長すぎたか。
しかし美味い物を喰う為にはしょうがない。
俺もまだワイバーンは喰ったことないからな。
そこで馬車で寝そべっていたダイが念話を送ってきた。
『ライ、ワイバーンは単体でも強力な魔物だがな、奴らは大抵数匹でいるんだぞ。単体でいるワイバーンなんて見つからないと思えよ」
え、そうなの?
知らなかったんだけど。
「ダイ、それは遠回しに狩るのは無理だって言ってるのか?」
ダイは寝返りを打ちあくびをしながら返答する。
『そうは言ってない。言ってないがかなり厳しいぞ。簡単には狩れないってことだ。楽して美味い物は喰えないぞ』
お前の口が言うなと言いたい。
何もしないで楽してんのはお前だろ。
仕事しろっ!
どっちにしろ美味い物に慣れてしまった我々は、常に金に困っている状態だ。
金等級になったは良いが、ギルドの依頼もほとんど受けてない。
もっぱら肉の卸業者が俺達の仕事になってしまっている。
素材はギルドへ納品するが、肉はアグリッパの店へ持って行く。
そうすると安く店で食えるからな。
なんか、アグリッパの罠にはまっている気がする。
ただもう引き受けてしまったからには仕方ない。
一旦家に戻ってから準備をして、ワイバーン狩りに行く事になった。
馬車で街道を行くのだが、相変わらずオーク二人が付いて来る。
俺達が遠出の準備をしていたからか、彼らも大きな荷物を持っている。
そして今日はオーク特有のボアに騎乗している。
デカい猪だな。
彼らは俺達と少し距離を取りつつ付いて来る。
ほとんど会話もしたことないし、近くで顔を合わせたこともあまりない。
こんなんで何かあったら助けてくれるのだろうか。
ワイバーン生息域まで馬車を使っても四日かかる。
その場所は高い山々が連なる所で、人族はほとんど住んでいない。
少数の山岳民が山の麓の辺りにいるだけだ。
詳しい場所はハピが知っているから、ハピの言われた通りに進めば良い。
そしてワイバーン生息地へと、なんとか無事にたどり着いた。
しかしここから山に登らないといけない。
ワイバーンは山の高い場所にいるからだ。
ここからは山岳民族も足を踏み入れないと聞く。
常に空を警戒しながら進む。
しかしワイバーンはデカいからここからでもすぐ見つかる。
「ハピ、あれってワイバーンだよな」
俺が空を指差して聞けばハピ。
「あれはドラゴンですわね」
何でドラゴンがいるんだよ。
するとダイ。
『そうだ、ワイバーンはドラゴン生息域の近くにいるって聞いた事があるぞ。ドラゴンは高空を飛ぶが、ワイバーンは中空から低空を飛ぶらしいからな。生息域は微妙にかぶらないらしい』
さすがに俺達でもドラゴン相手には勝てる気がしない。
ブレス一発で焼き払われる。
とにかく山へ登るか。
危なくなったら下山すれば良いだけだ。
まずは森へと入って行く。
馬車はこの森の中へ置いて行く。
馬はワイバーンの恰好の獲物だからだ。
するとオークが一人、馬車番で残ってくれるようだ。
なんだ、役立つじゃねえか。
乗って来た猪もここに置いて行くようだ。
だけどもう一人は相変わらず付いて来るんだな。
森を抜けると急に山間の獣道となった。
徐々に木々も少なくなり、膝くらいの高さの草と岩が多くなる。
これだと上空から直ぐに見つかっちまうよな。
驚いたことに、この辺りからゴブリンをちょくちょく見かける。
木々も少なく身を隠すところも少ないこの場所で、ゴブリンが行動することが異常なのだ。
だってワイバーンから丸見えだぞ?
するとハピがその疑問に答えてくれた。
「ワイバーンはどうした訳か、ゴブリンを喰わないのですわ。だからゴブリン達にとって外敵から守ってくれるワイバーンの生息地は、恰好の棲家なんですわね」
多分、ゴブリンが不味いから喰わないだけだと思うがな。
しばらく岩に隠れながら歩いたところで、ハピから警戒の声がかかった。
「気が付かれましたわ、五匹が下降してきますわ!」
五匹もか!
それは無理!!
次の投稿は明後日の昼頃の予定です。
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