70 旨い食事処を見つけた
空高く伸びた巨大な剣が、俺めがけて振り下ろされる。
もの凄い勢いだ。
ゴーっというような風を切る音が響き、俺の頭上に迫る。
これは受け流しは無理だ。
くそ、避けるしかない!
俺は咄嗟に左にステップを踏む。
しかし左にいた戦士っぽい男に、ぶつかりそうになったので、そいつを思いっきり突き飛ばす。
その直後、地響きと共に巨大な剣が地面に食い込んだ。
凄まじい威力だ。
周囲に石や砂が飛び散る。
ほほう、中々凄いのが見れたな。
これはラッキーだ。
俺は突き飛ばした奴の顔面を踏みつけつつ、槍を構え直す。
それを見た魔法剣の青年が叫ぶ。
「ライアン!」
俺はそれを無視して言ってやった。
「さて、次は俺の攻撃の番だな」
俺がニヤリと笑みを浮かべると、金等級パーティーが無言で後ずさる。
だがそこで審判員から声が掛かった。
「試験終了!」
「え、なんで?」
思わず声が出た。
理由は簡単で、魔法剣の使用は反則だからだ。
試験官が反則したのだから、終了は当たり前。
となると試験のやり直しかと思ったら、そうはならなかった。
本当に終了だった。
「冒険者ライ、合格!」
いや待て。
俺はまだ何の攻撃もしてないぞ。
合格って。
これで終りはスッキリしない。
あ、そうか、魔法やスキルありの試験がまだあるか。
「何を言ってるんだ。君は合格だよ。今日から金等級だよ」
試験官は譲らない。
「いや、まだ何でもありの試験が残ってるだろ。それを見てからの判断でも遅くないと思うぞ」
俺は必死に食い下がるも、結局試合はさせてもらえなかった。
ラミが俺に聞いてきた。
「私の出番はまだなのか?」
ハピが俺に言ってきた。
「わたくしの出番はそろそろですわね?」
ダイが念話を送ってくる。
『早く帰って美味しいもの食おう』
金等級パーティーメンバーが、ガックリと地面に手を付いていた。
俺は何も言わずに受付けへと向かった。
結局、試験で合格したのは俺と“旁若のアオ”の二人だけだった。
さて、受付けで金等級の手続きだ。
しかし金等級のバッジを作るのに、金が掛かるとか。
純金製にするかでまた値段が違うという。
金はあるからもちろん純金製だ。
獣魔の札も全て純金製にしてやった。
ただし何日か掛かるとか。
「これで俺達はベテラン冒険者から、上級冒険者になったって事だ」
そう俺が言うと、ラミとハピはまだ納得がいかないようだ。
ヤル気満々で試験を受けに行ったもんな。
それは俺も理解してる。
「よおし、お祝いに人間の店で何か食うか」
「よっしゃあ、そうこなくっちゃ!」
「やったですわ、金等級のおかげですわね」
『いいから早く何か食わせろ』
食い物へ話をもっていけば、大抵の事は解決する。
人間なら金。
魔物には食い物。
俺も人間社会で学習しているのだ。
俺は今、純金製ではないが、金等級のバッチを着けている。
なんか誇らしいな。
英雄の勲章と並べて着けると、偉くなった気がするから不思議だ。
俺達はいつもより高級な店に入っていった。
貴族や金持ちが来るような店だ。
英雄の称号があるから扱いは貴族のはず。
それでも断られるようなら、他の店を当たるしかないな。
俺が選んだ店には『アグリッパの店』という看板が掲げられていた。
「獣魔もいるが入れるか?」
「はあ? 予約入れてから―――」
店頭入口の店員が、胡散臭い者を見る目で俺を見る。
視線が俺の爪先から顔まで移動した所で、直ぐに胸のバッジに目線が戻った。
「――――こ、これはこれは金等級の冒険者様でしたか、大変失礼致しました。本日は御一人様でよろしいでしょうか?」
胸のバッジと勲章を見たら態度が変わりやがったな。
金等級と英雄勲章はそれほど威力があるってことか。
「だから獣魔がいると言ってる、それでも入れるのか」
「狼か何かですよね、それなら獣舎へどうぞ」
やはり見せた方が早いか。
「おい、皆、入って来い」
俺の言葉で、外にいた獣魔達がゾロゾロと入口から入って来た。
店員が固まる。
「あ、あの、もしかして魔物使いのライ様でしょうか……」
そうか、獣魔を最初から見せればよかったのか。
「ああ、俺はライだ。それで、入れるのか?」
何故か俺の後ろから殺気が漏れる。
そっと後ろを振り向けば、ラミが片手を腰に当て、もう片方の手の上に毒球を浮かして、不気味な笑顔で立っていた。
その隣にはハピが足の爪を剥き出しにして、翼を広げて恐ろしい形相で立っていた。
その横で子狼が後ろ足を上げ、マーキングしようとしている。
青ざめる店員。
「こ、こ、個室でしたらお通し出来ますっ」
「ならその個室を頼む」
こうして俺達は初めて、高級店と呼ばれる人間の店に入った。
通された個室とやらは、三十歩四方ほどの広さがあり、専属の給仕係がいた。
メニューを見たのだが、何を言っているのか解らない。
面倒臭いので、お薦め料理を持って来いと言った。
結構待たされて出された料理は旨いのだか、量が余りにも少ない。
魔物の俺達が足りるはずもなく、追加で料理を注文していった。
ただし全て三人前ずつだ。
散々食べて満足した頃に、料理長が挨拶をしに来た。
コック服に身を包んだ人間が、俺達の前に整列して貴族にする様な挨拶をしたのだ。
それにはちょっと驚きだった。
ダイとハピも驚いている、ラミも……
『こんな光景は珍しいな』
「人間が頭を下げましたですわっ」
「なんだ、こいつらがデザートか?」
金等級で英雄の威力スゲ~
そしてコック服達がいなくなると、お会計となる。
「なあ、これって銀貨での枚数だよな?」
「またご冗談を!」
会計が金貨十枚なのだ。
まあ、払えるんだがな、さすが高級店だ。
しかしコック長が言ってたが、材料の肉の殆どが魔物だった。
それだったら俺達が倒した魔物を、買い取ってもらえないだろうか。
帰り際になんとなく聞いてみた。
するとあっさりOKしてくれた。
「店で出している料理の材料だったら、喜んで買い取りますよ」
買い取り値段を聞くと、冒険者ギルドよりも良い。
特に高ランク魔物は、高額で買い取ってくれるそうだ。
肉はこの店で卸し、それ以外はギルドに卸せば問題ないだろう。
それ以来、俺達は毎日の様にその店で食事をした。
気が付けば、あれだけあった金が、銀貨にして十枚ほどしか無くなっていた。
俺は改めて貨幣の恐ろしさを知った。
人間が金に執着する訳だ。
ご利用は計画的に!
次の投稿は明後日の昼頃の予定です。
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凄い勢いで誤字脱字の報告きています。
誤字脱字職人の皆さま、ありがとうございます。
アクション部門の日間と週間は二位に落ちましたが、月間では一位を取れました。
応援に感謝!