69 天空の剣を見た
魔宝石に貯めた魔力を使いきったのか、ファイヤーボールが止んだ。
すると金等級の三人が突如、地面が弾けるほどに踏み込み跳んだ。
一人は正面へ、残る二人は左右へと散る。
挑戦者パーティーは直ぐに陣形を整える。
しかし金等級三人は、素早さと判断力で勝っていた。
左右へ散った二人が挑戦者の剣士、槍使い、神官を蹴散らし、正面へ飛んだ金等級メンバーが最後に、慌てる魔法使いの首に剣を当てた。
「降参で良いな?」
その状況では、首を縦に振る以外ないだろう。
挑戦者パーティーはそれで完全に戦意を喪失し、次に控える魔法なしでの戦闘試験は辞退していた。
そんな試験をやっていくうちに、“旁若のアオ”の順番がやって来た。
これを見たかったのだ。
“旁若のアオ”が練習場に立つと、金等級パーティーもゾロゾロと練習場へと入って行く。
なんと五人全員がアオの前に立った。
たった一人の銀等級相手に、フルメンバーの金等級パーティーがいくのか。
俺は近くにいたギルド職員に、文句を言ってやった。
たった一人に対して、全力で潰しに掛かるのかと。
すると職員。
「何を言ってるんですか。フルメンバーじゃないと相手にならないですよ」
そこまで強い冒険者がいたのか。
そして試験が始まった。
アオの場合は、何でもありでの試験だけだという。
理由はスキル制御が出来ないかららしい。
アオは革系の青い軽装鎧に右手に小剣、左手に短剣というスタイル。
体つきは細く、それで戦えるのかというほど。
少年っぽくもあり、少女のような雰囲気もある、中性めいたちょっと謎の存在だ。
構えもオーソドックスで、防御主体の構えなのだが、何か覇気がない気がする。
金等級パーティーは五人もいるわけだから、普通にアオを取り囲もうとする。
だがそこでもアオの構えは変わらない。
常にうつむき加減で、なんとなく構えている感じ。
そしてすっかりアオを取り囲んだ金等級パーティーだったが、そこからが進まない。
攻撃を仕掛けようとはするのだが、寸でのところで引いてしまう。
つまりアオに隙がないのだ。
そしてアオが急に動き出した。
特別動きが早い訳じゃない。
かといって遅い訳でもない。
ごく普通、それが一番あてはまる。
だからアオに小剣で攻撃されても、金等級メンバーは簡単に避けられるし、盾で受けるのも容易に見える。
しかし何かが変だ。
金等級冒険者の身体の動きが、今までに比べて素早さが無い。
攻撃を避けるのも盾で受けるのもやっとで、常にギリギリ状態に見える。
それで分かった。
あのアオとかいう冒険者、何かのスキルを使ってるな。
剣術はどう見ても素人に毛が生えた程度だし、魔法詠唱をした感じも無かった。
もしかしたら魔道具を使ってるのかもしれない。
人間はこういったスキル持ちが一番怖い。
さらにこいつが魔道具とか持ってたらなおさらだ。
唯一ボッチだったのは助かる。
これでパーティーでも組んでたら強敵になる。
まあ、同じ冒険者だ。
戦う事はない……と思いたい。
そんな事を考えている内に、アオが金等級の戦士を斬り伏せた。
刃引きしてあるとはいえ、あれは喰らうとキツイな。
直ぐに救護班が負傷した戦士を運び出す。
しかしまだ試験は続けるようだ。
しかし地味な戦いで見ていてつまらない。
しばらくすると金等級のメンバーの息切れが激しくなる。
相当疲れているように見える。
対してアオは全く変わらない。
俺の予想では敵の動きを重くするようなスキルかなと。
金等級の魔法使いが詠唱を始めるのだが、詠唱まで遅くなる様だ。
つまり全ての動きが鈍化するスキルってところか。
詠唱が遅ければ魔法は発動しない。
魔法詠唱もある程度の速度というか、テンポが必要だからだ。
そこで金等級パーティーは何か始める気だ。
魔法使いが魔法石がはめられたワンドを取り出した。
それを守る様にメンバーが動く。
ワンドが一瞬パッと白く輝いたかと思ったら、アオの動きが止まった。
そしてアオが空を見上げながら何かを追いかけ始めた。
まるで子供の様に。
幻覚を見させるワンドか。
それで勝負あった。
昇格試験で使うよう物じゃないと思うが、金等級は自分たちのメンツを保った感じだ。
こういうやり方も人間っぽくて俺は嫌いだ。
しかし、アオは昇格試験には合格だった。
あれで不合格だったら、何かあるのかと疑うところだ。
そして俺の番がやってきた。
何故か練習場に緊張が走る。
金等級パーティーは、先ほど負傷したメンバーも治癒が終わったのかパーティーに加わり、総勢五人のフルメンバーで練習場に立った。
初めはスキルや魔法なしでの試験にしてもらった。
そうなると俺は筋力を増強出来ないから、俺の人間の姿での力だけで戦う事になる。
獣魔も無しで俺一人。
こういうのもちょっとワクワクしてしまう。
もちろん金等級パーティーも魔法や魔道具、スキルなしと同じ条件だ。
そして試験が始まった。
金等級パーティーが猛ダッシュ。
俺は腰を落として槍を構える。
槍の刃には防具が被せてあるとはいえ、防具が無いところに当たれば痛いじゃ済まない。
人間程度なら一撃で倒せる自信はある。
俺の間合いに入る前に二人ずつで左右に散る。
そのタイミングで正面から矢が飛んできた。
人壁で弓を射る瞬間を隠した様だ。
突然目の前に矢が現れて少し驚かせられたが、その程度なら目で追える。
槍は持ったまま、左の手首の革鎧で矢を弾く。
渾身の一撃だったようで、矢を放った女がつぶやく。
「え、あれを弾いちゃうの!」
だが伊達に金等級パーティーを名乗ってない。
俺が手首で矢を弾いたタイミングで、左右から剣と戦斧が迫りくる。
こういうのが人間の得意な戦い方だ。
中々の連携とは思う。
だが所詮は人間だ。
俺は肩を左右に振るだけでそれを避けた。
「くそっ、これでどうだ!」
俺の左側に回った青年が、俺の肩を狙って袈裟斬りに剣を討ち下ろす。
そこで気が付いた。
右側に一人しかいない。
あと一人はどこだ?
俺は袈裟斬りを避けながら周囲に目を配る。
後ろかっ!
槍の石突き部分を後方に伸ばす。
「おおっと!」
俺の後ろから忍び寄って来ていた男が、バランスを崩しながらも、俺の牽制攻撃を避けた。
そして周囲から俺目掛けて一斉に武器が振るわれる。
そうなると俺も忙しい。
左右に避けたり槍で受け流したりと、目まぐるしく動く。
一通り攻撃を出した所で、金等級メンバーの動きが止まる。
まさか俺が全ての攻撃を避けるとは思っていなかったようで、金等級パーティーはお互いに目を合わせて何か言いたげだ。
「ほら、次の攻撃を出せよ。まさかその程度じゃないよな?」
俺の正面の青年の顔に、怒りの表情が浮かぶ、
「ふざけるな!」
気合いと共に振るわれる剣。
俺は冷静にその剣を槍の柄で横に弾く。
「今のは良い打ち込みだったな。だけど怒りの感情は剣筋の乱れに影響するぞ」
俺は親切心で言ったのだが、青年はそうは思わなかった様だ。
青年の顔が見る見る赤くなる。
「僕を、僕を馬鹿にするなよっ―――」
青年が大きく一歩踏み込む。
「―――天空の剣!」
おい、それってスキルじゃないのか!
青年の頭上に振りかざした剣が、空高くまで伸びる。
まるで巨大な剣だ。
これはスキルなんかじゃない、魔法剣だ。
「よせ!」
「それは駄目だっ」
「誰か止めろ!」
あちこちから声が乱れ飛ぶ中、その青年の剣は振り下ろされた。
次の投稿は明後日の昼頃の予定です。
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