68 昇格試験を見た
オークキャンプが出来てからというもの、気兼ねなく出掛けられる様になったのだが、エルドラの街では、やたら俺達は恐れられる様になった。
そのおかげか、この街で俺達に絡んでくる奴はもういない。
しかし街を出ると敵だらけとなる。
いつターナー伯爵の暗殺者が来るか、いつバンパイヤの刺客が現れるか。
俺の敵は多い。
そういえば金にはかなり余裕があったから、ここしばらくは冒険者ギルドでの依頼を受けていなかった。
少しは働くかと思い、冒険者ギルドへと向かう。
「なあ、何でお前らが付いて来るんだ?」
俺がそう声を掛けたのは、俺達に付いてくるオーク兵が二人だ。
目を離すなと隊長に命令されたらしい。
まあ、俺達の邪魔をしなければ良いか。
ギルド内へと入って行くと、相変わらず朝は混雑している。
空いている受け付けを選んで順番を待っていると、横から声が掛かった。
ギルド職員だ。
「何か用か?」
俺が質問すると「ギルド長が呼んでいます」と返ってきた。
またかよ。
仕方なく獣魔達を連れて、いつもの部屋へと行った。
するといつもと全く変わらず、部屋の中で窓の外を眺めているギルド長。
俺は直ぐに話を切り出した。
「で、いったい何の用で呼び出したんだ」
ギルド長のサムソンは振り替えると、何か話そうと口を開きかけて固まった。
少しの間を置いて再び話を続ける。
「話の前にのお、何でオークがいるのじゃ」
しまった!
獣魔達に交じってたから忘れていたよ。
ずっと離れていたのに、いつの間にこんな近くに!
「ええっと、そうだな、こいつらは俺の護衛みたいなもんだ。気にしなくて良い」
するとギルド長。
「魔物の護衛を引き連れた、魔王みたいじゃのう」
ギルド長まで言ってくるか。
変に噂が広まるとヤバイってのに。
「それで早いところ用件を頼む」
「ああ、そうじゃな。実はのう、ライ。お前に金等級への昇格を推薦しようと思うのじゃよ」
「え、金等級にか!」
「うむ、ギルド長が推薦すれば昇格試験を受けられるのじゃ。試験に受からなければ昇格は出来んがの」
金等級か、確かになりたい気持ちはある。
しかしそんなに目立って大丈夫か?
俺が考えているとダイが口を挟む。
『どうせ目立ちすぎとか考えてるだろうが、もう遅いからな。英雄になった時点でもう十分に目立っているよ』
確かに。
「そういうことなら、その金等級試験を受けてやる」
「まあ、ライなら受かるじゃろうとは思うがの、普通の者には難関じゃからな」
こうして俺は、金等級昇格試験を受ける事になった。
試験に関して聞くと、スキルや魔法なしのバージョンと、何でもありのバージョンの二つを受けなくてはいけないらしい。
基本、一定の水準に達していれば合格だそうだ。
その水準は審判官が判断するみたいだ。
試験は一週間後に、冒険者ギルドの練習場だ。
内容はズバリ戦闘。
対戦相手はギリギリまで分からない。
少なくとも金等級以上の冒険者に違いない。
ただ、俺は複数の魔物を扱う戦いをする。
だから金等級パーティーや、それ以上の白金等級を連れて来る可能性もあるらしい。
しかし白金等級は人数が少ないから無理だと思う。
だから対戦相手は恐らく金等級パーティーかな。
ちよっと楽しみになってきた。
一週間後、俺達は冒険者ギルドの受付で昇格試験の手続きをしているのだが。
「それでは受験費用で銀貨二枚頂きますね」
いや、待て。
金を取るのかよ。
これだから人間は嫌なんだよ。
だが今の俺は銀貨二枚なんてはした金。
「ほら、釣りはいらねえ」
「はい、銀貨二枚。丁度ですね、ありがとうございます。それでは裏の練習場へこの札を持って行って下さいね。ライ君がんばってね」
ギルドの裏に行くと、広い練習場があった。
そこで試験を行うらしい。
他の冒険者の試験を見ても良いが、他言しないように誓約書まで書かされる。
もちろん俺は誓約書にサインして見学する。
戦い方やスキル、魔法を秘密にしたい冒険者がいるからだ。
俺はしゃべる相手がいないから、契約書にサインとかいらないんだがな。
俺達以外にも、試験を受ける冒険者がいるようだ。
近隣の街からわざわざ試験を受ける為に、ここへ来たという冒険者らもいる。
そんな試験を待つ冒険者達は、誰もが緊張していた。
しかし、一番ソワソワしているのはラミだった。
なんせ左腕の骨折がまだ完治していない。
大分良くはなったのだが、動かすのが精一杯な状態だ。
それでもどうしても戦うと言って、全く引かなかったのだ。
そこまで言うならと連れて来た。
周りを見ると、パーティーで金等級昇格を目指す冒険者が多いな。
単身で試験を受けるのは、俺以外に一人だけだった。
一応俺は単身扱いだからな。
その単身で挑むは人間の戦士。
銀等級になったのも最近という、急成長の冒険者らしい。
青色の装備を身に付けている。
色を揃えるとか、金にも余裕があるようだな。
ちよっと気になって、他の参加者に聞いたら「旁若のアオ」だと言われた。
二つ名持ちか、覚えておこう。
アオというのが本名らしい。
周囲への影響に関係なく魔法を放つことから、そう呼ばれる様になったとか。
そんな奴、パーティーには向かないな。
単身で正解だろう。
そのアオは暗い感じの雰囲気を醸し出していて、殆ど誰ともしゃべらない。
しゃべっても必要最低限で、声も小さい。
無口な性格らしい。
それに表情が全く動かない。
感情がないのかと思ってしまう。
まずはパーティーから試験を始めるようだ。
それで、その試験を担当する金等級パーティーが現れた。
「あっ、ダンジョンでボロ負けしたパーティーじゃねえか」
思わず声に出してしまった。
しかし嘘を言った訳ではない。
俺達が走破したダンジョンにレンドン子爵の兵士達と、ギルドから派遣された金等級冒険者が挑んだのだ。
結果ボロ負けして、負傷者多数出して帰ってきた。
その時の金等級冒険者パーティーが、彼等だ。
試験官として登場するとか、凄いじゃないの。
そういえば、確かあの時に重傷者を出していたが、大丈夫だったんだろうか。
「あの時の重傷者は助かったのか?」
気になって聞いてしまった。
するとパーティーメンバー全員が、非常に嫌な顔をしてきた。
これは余計な事を質問したか。
だがパーティーの剣士っぽい男が答えてくれた。
「あの時は世話になったな。重傷者だったのはな、俺だよ。お陰で傷はすっかり良くなったよ。それから言っとくが、あの頃とは違うからな。メンバーも増やしたしな、圧倒的に強くなったんだよ。楽しみにしてろっ」
「おお、それは楽しみだ!」
本気でそう思っていたのだが、彼は「ちっ」と舌打ちしたな。
まあ、強くなったというその力量、見せてもらおうか。
俺達の試験はずっと後。
彼等の実力をじっくり見れる。
そして試験試合は始まった。
試験を受けるパーティーは四人。
神官に魔法使いに剣士に槍使いだ。
それに対する金等級パーティーは、五人いる内の三人しか出てこない。
三人で十分だと判断したんだろう。
戦いが始まると挑戦者パーティーは、魔法を連発してきた。
魔道具を持っているようだ。
ファイヤーボールの連発だ。
見物していた人達から「おお」と感嘆の声が聞こえた。
しかし挑戦者パーティーはそこまでだった。
金等級三人が、それ以上させてくれなかったからだ。
次の投稿は明後日、10日月曜日の昼頃の予定です。
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