66 ババルトとラミが戦った
野営には十人近くのオーク兵がいるようだ。
俺を見つけると直ぐに走り寄って来た。
「ライ殿、族長、呼んでいる」
どうやら急ぎの用らしいな。
仕方ない、行ってやるか。
俺達はオーク兵らを引き連れて、オーク領へと向かった。
しかし忙しいな。
何事もなく無事にオーク領へとたどり着き、早速オークの族長の所へ行ったのだが、そこには見たこと無いオークがいた。
周りにいる側近のオークは前の時と同じだが、族長だけが違うオークだな。
どういう事だろうか。
獣魔達が後方の用意された椅子に座り、俺はその見知らぬオークの目の前の椅子に座らせられた。
そしてその新顔のオークが口を開く。
「ワシが新しくここの族長になった。北の“凍え山”の族長でもあるババルドだ。この一帯をワシが統治する。もちろん金鉱山もだ」
つまり前の族長は、こいつに倒されたって事か。
「ったく、それで俺を呼び出した理由は何だ」
俺が面倒臭そうに言ったのが気に触ったのか、新しいオークの族長のババルドが眉間にシワを寄せる。
「ライカンスロープのライと言うのは貴様か。前の族長を倒したとか。ふん、まあ良い。金鉱山はワシの物になったからな、貴様はワシの配下に入ってもらう」
おお、強気な態度だな。
「ふざけるなよ、勝手な事を言ってんじゃねえぞ」
「どうやって前の族長を倒したかは知らんがな、あまり調子に乗るなよ、若造が!」
こういう輩は、一度痛い目を見させないと駄目なんだよな。
そう思って立ち上がろうとすると、俺の横にラミが仁王立ちしている。
「豚鼻野郎、何を粋がってんだよ。豚鼻を一匹倒した程度で威張ってんじゃねえ!」
あああ、言っちまったか。
これは戦いは避けられないな。
俺がやろうと思ったのに!
だけど前の族長を倒したとなると、かなり強いってことだ。
前の族長は、相当な腕の持ち主だったはずだ。
それをこいつが倒したとなると、そう簡単にはいかないぞ。
「ラミ、こいつは強いぞ?」
俺がそう言うと。
「ライさんの手は煩わせないよ。まあ、見てなって」
オークのババルドはと言うと、ニヤニヤしながら立ち上り言った。
「良いだろう。外へ出ろ」
戦いは外の中庭の広場へと移った。
ラミは長剣に丸盾といういつもの装備。
対するババルドは、丸盾にフレイルという変わった武器。
フレイルは把手から鎖が伸びており、その鎖の先にスパイク状の刺が付いた金属球体が付いている。
俺は話は聞いたことあるが、見たのは初めてだ。
見るからに使い辛そうだな。
戦いは合図もなく、唐突に始まった。
ババルドの奇襲攻撃だ。
しかしラミも数々の修羅場を乗り越えてきた強者だ。
ババルドがフレイルを振るう。
ラミは盾で受ける。
だがフレイルの鎖が急に伸びる。
伸びた分は受けた盾を飛び越えて、鞭の如くしなる。
そして鎖の先に付いたクサビ鉄球が、盾の裏側のラミの腕を襲った。
「ぐうっ、痛いじゃねえかっ!」
ラミは苦し紛れに長剣をババルドの脳天へ叩き落とした。
「甘いわ!」
ババルドは盾でラミの長剣を受ける。
だがラミの一撃が強力だったのか、ババルドの盾が今の一回の攻撃で砕け散った。
慌てて後ろへ下がるババルド。
ラミの盾を持つ左腕はだらりと下に垂れ下がり、クサビで刺された傷から血がポタポタと垂れている。
自然とラミの腕から盾が、音をたてて地面に落ちた。
恐らく骨も砕けている。
これは早くも勝負あったな。
残念だが止めに入るか。
そう思って口を開きかけたその時だ。
「ライさん、楽しくなってきたんで、ここで止めるとか無しだぞ。こいつは私が必ず仕留める、必ずだ!」
おお、おお、言ってくれるじゃねえか。
「俺は構わないが、下手したらその腕だけじゃ済まないぞ」
「それがどうしたっ、良いから続けさせろっ」
「分かった、好きなだけやれ!」
そこへババルドが叫びながら前に出た。
「ゴタゴタうるせえよ!」
再びフレイルを真横に振るう。
受けたらマズイ、だからラミは避けるしかない。
ババルドはフレイルをまるで、鞭を振るうかの様に自在に操る。
恐らくあのフレイルは魔道具だ。
しかし使いこなすには、相当の腕が必要。
ババルドはそれを身に付けている。
「わははは、逃げてばかりじゃ始まらないぞっ」
ババルドは、必死に逃げるラミを笑いながら追い掛ける。
時々ラミが反撃に出るが、腕の傷がラミの全力を妨げる。
出血のせいか、次第にラミの動きが遅くなってきた。
たまらずダイから念話が送られてくる。
『ライ、ラミが死ぬぞ、止めろ!』
ハピからも悲痛の声が聞こえる。
「ラミ、お願いだから降参するのですわ!」
俺も悩む。
止めるべきなのか……
しかしそれを察知してか、ババルドが止めを刺しに出た。
「蛇女ごときがでしゃばるからだぁ!」
フレイルがラミの顔面に振り降ろされる。
ラミはそれを長剣で受けた。
フレイルが長剣に巻き付き、ボキリとへし折る。
ババルドがニヤリとする。
その瞬間、ババルドに隙が出来た。
「シャアアアッ!」
ラミが急接近。
「おおお?!」
フレイルは接近されると使えないようだ。
そこへラミがババルドの喉笛に噛み付いた。
「ゴホオオッ」
さらにラミが首を捻り肉を喰い千切った。
血飛沫がパッと辺りに散る。
ババルドがフレイルから手を離し、喉を押さえて後ずさって行く。
血だらけの顔を手で拭うと、ラミはくるっと一回転。
蛇の尻尾でもって、ババルドの顎に強烈な一撃を叩き込んだ。
ババルトは避けることも出来ず、大きく仰向けのまま宙に浮かび、そのまま後頭部から地面へと落下した。
「ゴフッ……」
静まり返るオーク達。
こんな展開になるとは思ってもみなかったようだ。
ラミって凄いな。
もしかしてラミアという魔物の域を超えたりしてないか。
ラミは口のまわりの血を舐めとりながら、仰向けのオークの横に移動して行く。
何をするかと思えば。
「しぶといオークだな、我らに盾突くとどうなるか、身をもって知れ!」
グシャッと嫌な音が響き渡る。
拳でババルトの顔面を叩き潰しやがった。
こうなるとババルトの顔の判別も着かない。
だがそんな状態になってもババルトは、まだ息をしていた。
魔物の生命力の成せる業だ。
周囲のオークを見渡せば、相当衝撃的な光景だったようで、口をポカーンと開けたままだ。
こんなオークを見るのは初めてだな。
次の投稿は明日の夕方頃の予定です。
ストックがピンチになってきました。
もう少ししたら投稿頻度が落ちます……
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