65 母親に会った
その後、人間の冒険者パーティーはさっさと帰って行った。
襲って来た人間の屍体を漁っていると、その中の一人がまた生きていた。
でもかなりの重傷だ。
彼らが持っていたヒールポーションを使って治療してみたが、そのポーションでは完全には治らなかった。
傷が広範囲で深いため出血が止まらない。
この分だと多分、先はそう長くない。
しゃべるはず無いと思ったが、念のために誰に命令されたか聞いてみた。
「……ターナー伯爵だ」
簡単にしゃべりやがった!
でもやっぱりだった。
そりゃそうだ、使ってみたら偽物って直ぐに分かるからな。
バンパイヤの追手かと思ったら、ターナー伯爵の追手だったか。
そう考えると敵が増えてしまったな。
人間の追手なら問題ないと言えば問題ないが……
面倒臭い!
ターナー伯爵の領地には近づかない様にするか。
俺達は腹ごしらえを済ませて、この地を出発した。
捕らえた男は放置だ。
運が良ければ狩りに来た冒険者が見つけてくれるだろう。
見つけたところで手遅れだがな。
しばらく馬車に揺られていると、ダイが恐れていた銀狼の群れに出くわす。
十頭ほどの群れだが、ボスらしき狼だけがデカい。
だがそんなのはどうでも良い。
問題はそのボス狼に跨っている少女だ。
俺はその少女に向かって言った。
「ミリー、こんなとこで何やってんだよ」
ライカンスロープの獣人少女だ。
しばらく見ていないと思ったら、こんなところにいたか。
「あれ? ダイさんだ。うわあ、また会ったねえ~」
平然と会話しているが、銀狼に跨ってるんだけど。
ゴブリンライダーが狼に騎乗するのは知ってるけど、人間が、いや違うな。ライカンスロープが狼に跨るって初めて見たんだけど。
男じゃ絶対に無理だ。
ミリーみたいな小っちゃい少女だから可能なんだろう。
「ええっと、その狼だけど……」
「ああ、こいつね。私の獣魔達だよ。そんなに怖がらなくても大丈夫だから」
いや、狼が怖い訳ないだろ。
違和感が怖いんだよ。
「ええっと、満月戦闘団だったか。あのパーティーはどうしたんだよ」
ミリーに最後に会った時に組んでいたパーティーの事だ。
「ああ、あれね。オーガ退治に行って全滅しちゃってさ。それで分かったんだよ私。人間は弱いから駄目だよね。だから私もライさんみたいに魔物使いになることにしたの。見てよ、この数。十二頭もいるんだよ」
狼使いか。
狼使いなら人間でもいるし、おかしくないから目を付けられることもないだろう。
だけど十二頭の群れとは凄いな。
よく見れば全部の狼が獣魔の札を首輪で付けている。
しかも全部名前を付けている。
俺が獣魔の札を見ているとミリーがダイに気が付いた。
「あれ、その子って銀狼でしょ?」
そうだった。
今のダイは銀狼の子供だったっけ。
「ああ、どう説明したら良いかな。うーん、ハッキリ言ってこいつはダイだ」
「はい?」
そういう反応になるよな。
「ダイは他の狼に姿を変えられるんだよ。それで今はこれ」
そう言って荷台から顔を出すダイの首根っこを掴んで持ち上げた。
すると群れの中から一匹の狼が出て来る。
そしてダイをクンカクンカし始めた。
するとダイ。
『マズいぞ。この雌の銀狼、俺の母親だ。早く引き離せっ、バレたら面倒臭い!!』
何という巡り合わせだろうか。
俺はニコニコしながらダイを地面に降ろして言った。
「ほーら、お母さんだぞ」
すると母親狼はダイをペロペロ舐め始める。
『ライ、やめさせろっ。早く俺を馬車に戻すんだ。戻さないと大変な事になるぞ!』
ダイが慌てる姿が面白い。
だがそこでミリーが助け舟を出した。
「はい、はい、キャサリン。その辺にしてね。ごめんね。この子、子供を失ったばかりなんでね~」
それが今のダイの肉体なんだがな。
しかし狼の名前がキャサリンか。
そこでダイは隙を見て馬車に飛び乗った。
何だ、そんな脚力あったのかよ。
『この雌狼の子供が死ぬ時に、俺が乗り移ったんだ。まさかこんなところで会うとはな』
そういうことらしい。
しかしミリーが元気で安心した。
しかも人間とのパーティーを解消して、魔物とのパーティーを結成したのは嬉しい。
人間は弱いが魔物ならまだ安心できる。
ミリーはこれから狩りに行くらしい。
そこでミリーの群れと別れ、俺達は再びエルドラの街へと向かった。
街に着くと、真っ直ぐレンドン子爵の屋敷に向かう。
もちろんコップを返すためだ。
屋敷に着くと直ぐに応接室に通された。
部屋で待つこと一刻半ほど。
相変わらず待たせるな。
半分寝かかったタイミングでやっとご対面という時、挨拶より先にコップを目の前に突き出してやった。
「うっわ、コップ取り返したんだ!」
目を丸くして驚くレンドン子爵。
相変わらず少女のくせに少年のような恰好をしている。
「これで良いよな?」
レンドン子爵の依頼はこれで終了だな。
「ね、ね、どうやって取り返したの」
説明するのも面倒臭い。
これを渡すだけの為に一刻半も待たされたんだぞ。
俺は早く帰りたい。
獣魔達も同じだ。
そこでレンドン子爵の質問にハピが代わりに答えてくれた。
「そんなの簡単ですわ。敵のアジトをぶっ潰して、伯爵邸に乗り込んで根こそぎ奪ってやったんですわ」
ハピがやった様に言ってるけどな、それ全部俺がやったんだぞ。
それに大げさに言うな。
「えええ、伯爵の屋敷に乗り込んだの!」
「そうですわ、追手も全部蹴散らしてやったですわ!」
するとちょっと青ざめたレンドン子爵。
俺の方に視線を合わせて言った。
「もしかして、顔バレしたのかな」
顔バレ、つまり俺達がやったって事がバレたのかって事か。
やっぱりそれはマズいのか。
「ああ、顔バレどこじゃない。しっかり俺は名乗ったな。それに魔道具を幾つか掠め取ったが、やり過ぎたか?」
「うーん、ターナー伯爵の性格からいって、仕返ししてくるよ……でも、仕掛けてきたのはあっちからだよね。仕方ないか」
「もしかして、伯爵は生かしておかなかった方が良かったのか」
「まさか、そこまでしたら大問題だよ。あとは伯爵の出方次第かな」
そこまで話をしてレンドン子爵は「そうそう、ライにオーク族から連絡があったんだよ」と言って手紙を渡してきた。
オークからの手紙だ、理由なんて一切書いていない。
ただオークの族長が俺を呼んでいるのは理解できた。
やっと帰って来たと思ったら、直ぐにオーク領へ行く羽目になるとはな。
取りあえず久々に家に戻ることにした。
すると家の前でオーク達が野営をしていた。
次の投稿は明日の昼頃の予定です。
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