64 魔物がしゃべった
獣人族の冒険者パーティーは解体が終わったのか、帰る支度を始めている。
すると人間のパーティーも一匹、ビックラビットを仕留めたようだ。
マズいな。
これだと冒険者達が二組とも帰ってしまう。
そうなると、奴らが襲って来るかもしれない。
俺達は慌てた。
ラミとハピが必死になって獲物を探す。
獲物を諦めて立ち去るという考えはなかった。
地上から見ると草で獲物が全く見えない。
しかし俺達にはハピがいる。
上空から見れば草の動きで獲物の位置が直ぐにわかるそうだ。
ただし獲物がジッとしていると分からない。
動いてくれなければ見つけられないらしいから、ハピ以外の俺達は獲物を追いやるべく、なるべく音をたてて草の中を進む。
風がちょっと強く、ダイの鼻も正確性に欠ける今は、ハピ頼みとなっている。
そしてハピが急降下。
見つけたらしい。
俺達の前方、直ぐ近くだ。
俺はダイを抱えて走った。
ラミもシュルシュルと草を掻き分けて進む。
最初に攻撃を仕掛けたのはハピ。
鋭い鈎爪で何かを掴む。
そのまま上空へと舞い上がる。
ハピが捕まえたのは小型のビックラビットだ。
それでも皆で食べる分には十分な大きさ。
「でかした、ハピ!」
ハピはドヤ顔でサムズアップした。
獲物を持って馬車の所へ戻ると、獣人族のパーティーはもう帰った後だった。
ただ人間のパーティーは解体をしている最中で、俺達が戻ると一斉に物珍しそうに俺達を見てきた。
バッジを見ると銅等級の冒険者のパーティーらしい。
一人だけ銀等級バッジの男がいる。
そいつがリーダーらしいな。
その銀等級の男がこちらへ近づいて来る。
「やあ、どうも。君はもしかして英雄の称号を貰ったっていう、あの魔物使いだよな?」
唐突にそんな事を言われた。
王都から離れたこんな場所まで、もう知れ渡っていたとは驚きだ。
しかも世間の情報に疎いはずの、こんな下っ端冒険者にまでだ。
「え、ああ、確かに英雄の称号は貰ったから、その魔物使いってのは俺だな」
「そうか、あっちにいるのがその獣魔なんだよな。えっとあれってもしかしてラミアだよな、それにさっき空から獲物を狙ってたのはハーピーだよな。凄いな、どうやって獣魔契約なんか出来たんだよ」
だいたい皆同じような反応をする。
そんな契約出来るなら俺も方法を知りたい。
だから答えはいつも同じだ。
「それは企業秘密に決まってるだろ。はははは」
こう言って笑って誤魔化せば問題ない。
「そうか。それとさっきからあそこで見ている男達は知り合いなのか?」
そう言ってよりによって、その銀等級男はその馬に乗る男三人を指差しやがった。
するとどうした事か、突然馬の男三人がこちらに向かって走り出した。
しかも、そのずっと後方にいつの間に潜んでいたのか、馬に乗る男達の集団が一緒になってこちらに向かって走って来た。
くそ!
俺は叫ぶ。
「敵襲!」
ハピが空中に飛び上がる。
手には魔道具の“弓”と認識阻害のマントを持っている。
ハピは直ぐにマントを着ける。
すると俺は急にハピを見失った。
そしてラミが嬉しそうな叫び声を上げながら、こちらに猛スピードで向かって来る。
手には盾と長剣を持つ。
「オラオラオラオラッ、馬ごと喰ってやる~!」
ダイはというと「キャン、キャン」吠えながら走って行くのだが、俺が抜きざまにダイを小脇に抱えると、今度は「キュ~ン」と悲しそうに鳴いた。
「盗賊だ、逃げろ!」
残っていた冒険者達には、そう叫んで伝えた。
バンパイヤと言っても動揺するからな。
先頭の三人が馬を疾走させて、俺に迫り来る。
やはり狙いは俺の様だ。
昼間から堂々と襲撃して来るとは、予想していなかった。
三人が剣を抜き、マントを格好良く脱ぎ捨てた。
すると顔があらわになる。
あれ?
目が赤くない?
普通に人間じゃねえか?
馬が俺を踏み潰す勢いで迫る。
だがラミの方が早い!
そのまま衝突すれば、普通なら吹っ飛ばされる。
だが、そこは高ランク魔物のラミア。
激突寸前で馬に威嚇した。
「シャ~~ッ!!!」
すると馬が「ヒヒ~ン」と鳴いて走るのを止め、後ろ足で立ちあがる。
そこへラミが盾ごとぶち当たった。
シールド・バッシュだ。
「うわああっ」
乗馬していた男ごと、馬はひっくり返った。
残りの二頭の騎馬はそれを見てコースを逸らす。
そのまま二頭は俺を避けて通り過ぎた。
シールド・バッシュで落馬した男が、苦しそうに立ち上がろうとしている。
そこへラミが持っていた剣で一閃。
再び男は地面へと戻った。
そして倒れたまま未だ起き上がれない、馬にまで剣を突き立てるとラミが叫んだ。
「オラオラ~、次はどいつだ!」
実に頼もしい奴じゃないか。
人間のザコ相手に手を抜かないなんて。
だがまだ正面からは、騎馬集団が俺を目掛けて突撃してくる。
それに横を走り抜けた二騎が、俺の後ろに回り込んでいる。
そこで前方の騎馬集団へと、多数の矢が撃ち込まれた。
マジック・ミサイルだ。
認識阻害で見え辛いが、ハピが上空から魔法の弓を放っているのだろう。
しかし全然当たっていない。
ハッキリ言えば下手くそ。
マジック・ミサイルって、こんなに当たらないものか。
練習の必要ありだ。
それでも数を射れば当たるというもの。
仮に当たらなくとも、何処から射られているか解らないというのは恐いもので、騎馬集団は見えない敵に大混乱だ。
だがその内ハピの位置は敵の一人が「空だ、空を翔んでるぞ」と叫んだ事により、認識阻害の魔法が解けてバレてしまった。
バレてしまったところで、別にどうという事はないのだがな。
空中では手が出せないからな。
そしてラミが毒球魔法を繰り出せば、もはや敵は襲撃どころじゃない。
襲撃者は逃走者になった。
俺の出番は全くなかった。
冒険者パーティーはというと、何も出来ずにへたり込んでいただけだった。
リーダーらしき銀等級の冒険者が唯一、剣を構えて必死に敵を威嚇していたな。
残された屍体を調べると、どうもターナー伯爵の部下のようだった。
装備がどれも安物じゃなかったからだ。
ただ確証はないけど。
つまり偽物のナイフがバレて、追手を差し向けて来たってところか。
だけど甘いね。
俺達の力量はそんなレベルじゃないから。
それにラミとハピは前より強くなってる。
戦いに馴れてきた感じだ。
俺は地面にへばっている冒険者パーティーに声を掛けた。
「おい、大丈夫か。怪我してないか?」
すると先程の銀等級冒険者。
「ああ、助かったよ。獣魔最強だな」
いつの間に戻ってきたのか、ハピがそれに答えた。
「そうですわ。私達のパーティーは最強なんですわ!」
「う、うわあっ、魔物がしゃべった!」
そこはお約束だ。
次は明日の昼頃の投稿予定です。
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