63 怪しい奴らを見つけた
食事をして行けとターナー伯爵に言われたのだが、俺はこの場から逃げたくてそれどころじゃない。
敷地内でバレたら大変なことになる。
それこそとぼけようもない。
馬車に乗ると真っ先にダイが念話を送ってきた。
『どうだ、上手くいったのか?』
「ああ、思った以上に上手くいったよ。早いとこハルトとの待ち合わせ場所へ行って、借りた“果物ナイフ”を返さないとな」
俺は逃げるようにしてターナー伯爵邸を出た。
ターナー伯爵の領都であるクレセントの街を出て、しばらく行ったところに川が流れている。
その川に掛かる橋の手前に三人の人間がいた。
待ち合わせの勇者パーティーの三人だ。
到着するとハルトが声を掛けてきた。
「どうだった、上手くいったのか?」
俺は馬車を降りて答える。
「ああ、上手くいきすぎるくらいにな。あまりに予想通り以上の展開だったからな、笑いを堪えるのに必死だったよ」
事の展開を詳しく話してやると、三人は大笑いした。
そこで俺は借りていたモノを返す。
「ハルト、助かったよ。これ返すな」
そう言って俺は布に包まれたナイフを取り出し、取っ手に巻かれていた布も外して渡した。
俺はナイフを懐に仕舞うまでは本物の“果物ナイフ”を使っていた。
だけど一旦懐にしまってから、ターナー伯爵に渡すまでに偽物と交換していた。
取っ手に布を巻いたのは似たナイフが無かったからで、ナイフの取っ手の部分に布を巻いてしまえば違うナイフでも区別がつきにくいからだ。
実は布が巻かれていないと、取っ手の材質も色も違ったので直ぐにバレてしまう。
俺がターナー伯爵に渡したナイフは、街で売っている安物のナイフなのだ。
そうだ、それからハルト達にお礼の品を渡さないとな。
「ハルト、それとお礼の品物を持って来たんだ。この中からどれか選んでくれ」
俺はそう言って持って来たアイテムを広げて見せた。
マジックミサイルの弓
パラライズのワンド
視認阻害のマント
コップ
「あ、すまん。そのコップはレンドン子爵に返すもので、それ以外で頼む」
そう、コップも持って来た。
視認阻害のマントで包んだら持ちだせたのだ。
今考えると、もっと沢山持ちだせばよかったよ。
ハルト達は喜んで選び出す。
「ライ、これにするよ」
そう言って取ったのはパラライズのワンドだった。
どうやら魔法使いのヒマリが、そのワンドが欲しいと強く希望したらしい。
理由はデザインが「可愛い」からだそうだ。
当のヒマリだけじゃなく、リンまでもが「可愛い」を連発していたほどだ。
ハルトは認識阻害のマントが欲しそうだったが、女性達の意見を通していた。
選び方が彼らしいな。
そこでダイから念話が送られてきた。
『将来、勇者パーティーと戦うとなったら、俺達はパラライズされるのか』
そういうのはやめて欲しい。
そして俺達は勇者達と別れた。
彼らは「経験数値パラメーター」とか良く分からないものの為に、北の山脈のワイバーンを倒しに行くんだそうだ。
鍛錬を重ねるみたいなものらしい。
俺達はエルドラの街へと戻るとするか。
今頃ターナー伯爵は、騙されたと分って悔しがっている頃だろうな。
想像するだけでニヤニヤしてしまう。
この後はレンドン伯爵にコップを返すだけで、他には用事もない。
「なあ、ちょっと寄り道して行くか。この先にビックラビットの狩場があるらしいんだよ」
街中で聞いた噂話だ。
ビッグラビットとは、人間の子供ほどある大型のウサギ型魔物だ。
食肉としても街で売っている。
屋台で串焼肉に使われたりもする、街中でも比較的出回っている魔物だ。
ラミとハピは旨い肉が食えるとあって、やる気満々だ。
だがダイが今一つ乗り気でない。
『あの辺には銀狼の群れが多数いるんだよ。銀狼は縄張り意識が強い奴らだからな。今の俺のこの姿で行くと、縄張りを荒らされると勘違いされるかもしれない』
トラブルは避けたいとダイは言っているのだ。
「おいおい、今の俺達が銀狼程度に後れをとると思うのか?」
俺は英雄だぞ?
銀等級冒険者だぞ?
『そこまで言うなら別に俺は構わないよ。どうしても嫌だという訳じゃないからな』
しばらく進んだところで、俺達は街道から外れて脇道へと馬車を走らせた。
そこでかなり後方からだが、俺達と同じように脇道へ曲がる人間達を発見した。
馬に乗る三人の人間のようだが、フードを被っていて顔が見えない。
何か嫌な予感がしてきたな。
昼間からフードを被る人物を見ると、どうもバンパイヤを思い出して警戒してしまう。
そう言えば最近見てなかったな。
俺は顔バレしているから、いつ襲われてもおかしくない。
先ほどまでいたクレセントの街の様な、スラム街が広がっている場所には、バンパイヤが暗躍しやすいからな。
そこで見つかった可能性もある。
だが付かず離れずで、俺達に近づいて来る気配はない。
そうなると様子をみるしかない。
逃げようにも俺達の馬車では、馬からはとても逃げられない。
そこでラミ。
「私が行って蹴散らして来るか?」
相手がバンパイヤだったら蹴散らすじゃ済まない。
死闘になる。
早さ、腕力と人間を遥かに超えている。
俺達と同じ様に魔物だからな。
「ラミ、前に一度戦って知ってるだろ。奴らバンパイヤは恐ろしく強い。例え戦いで勝ったとしても、俺達もただじゃ済まない。それだったら出来るだけ戦わない様にするのが正解だ」
人通りの多い街道に戻ることも考えたのだが、実は食料がもうない。
街か村へ行くか、獲物を狩るしかない。
それだったら目の前のビックラビットを狩るのが良いと、皆の意見が一致した。
お目当ての場所は、膝上くらいまで草が生えた広い草原だ。
ビックラビットが丁度見えなくなる草の高さだ。
到着して見ると、既に冒険者らしいパーティーが二組いる。
獣人だけのパーティーと、人間だけのパーティーだ。
お目当てはやはりビックラビットのようだ。
既に獣人のパーティーは、一匹仕留めたようで解体している最中だった。
これならバンパイヤも襲ってこないと安心していた。
バンパイヤが人間に見つかったら、直ぐに冒険者ギルドに通報されて討伐隊が組まれる。
彼らは賢い。
そんなリスキーな行動は取らない。
そう思って、俺は完全に油断していた。
次の投稿は明日の昼頃の予定です。
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