57 式典は開催された
今、献上品は盗まれてここにはない。
俺はその盗まれた物に匹敵する品物を持っている。
どうする俺?
ダンジョン産の召喚石。
石の中に何が封印されているかは解らない。
もしかしたら、専門家に調べてもらえば分かるかもしれないが、恐らくそんな時間はないだろう。
レンドン子爵に差し出すか。
まさかタダでは奪わないだろう。
「よし、この召喚石をレンドン子爵に渡すぞ」
俺がそう言うと、ダイが反対した。
『ドラゴンクラスの魔物が封印されてるかもしれないんだぞ。そうしたら後悔するかもしれない。それでも良いのか』
そんな強い魔物じゃないと思う。
ドロップした魔物は大したことないし。
「逆にゴブリンかも知れないんだろ?」
『まあ、それもあるか。なら好きにしろ』
俺はレンドン子爵の前に立った。
「レンドン子爵、これを献上品として売っても良いが、どうする」
するとレンドン子爵は「何だ、この石」と返す。
「ダンジョンの魔物が落としたドロップ・アイテムだ。つまりダンジョン産の品物だな」
「ええっ、そんなもの隠し持ってたの!」
「別に隠してた訳じゃない。これは召喚石なんだがな、何が封印されているか分かってない。伝説級の魔物かもしれないし、ゴブリンみたいなザコ魔物の場合も有り得る。それでもダンジョン産の品物に間違いない。どうだ、買うか?」
「う~ん、ちょっと待って。側近達と話し合うよ。その石借りるよ」
レンドン子爵は召喚石を手に、側近達と話し始めた。
しばらくして、側近の一人が俺の所に来た。
「お待たせした、ライ殿。金貨五十枚で買い取るが、如何かな」
まさかの金貨五十枚。
銀貨なら五百枚だぞ。
「売った!」
そんなの即答だ、
コップの時より高いからな。
こうして俺の召喚石は金貨五十枚と引き換えに、王様への献上品となった。
そして緊張する瞬間が来た。
人間の王様との謁見だ。
俺には側付きが一人つけられて、それに従うだけだった。
それでも緊張するもんだな。
こんな緊張したのは初めてかもしれない。
多分だが、やらかしは無いだろうと思う。
獣魔を見せろと言われたり予定に無い事を言ってきたりと、人間の王様は身勝手な印象だ。
英雄の式典も、何が何だか訳が解らない内に終わっていた。
そこで貰ったものが“英雄の勲章”だ。
これが思った以上に格好が良い。
そして最後に思わぬイレギュラーがあった。
「英雄ライよ、そなたがダンジョンで手に入れたこの石なんじゃがな、何が封印されておるのじゃ?」
何かと思えば献上品の召喚石のことか。
俺が手に入れたことをレンドン子爵が王様に話したのか。
ならば返答は簡単だ。
「召喚しないと解らないと言ってくれ」
側付きを通してそう言うと、王様はあろうことか、懐から召喚石を取り出した。
まさかと思ったら、王様はその場で召喚しやがった。
側近やら衛兵が大慌てで王様に詰め寄るも、王様が召喚を念じた後だった。
謁見の間は広いとはいえ、大型の魔物が出現したら大変な事になる。
床に大型の魔法陣が現れた。
もう誰にも止められない。
次にその魔法陣が輝き始める。
いよいよだな。
一同が固唾を飲んで見守る中、そこに現れたのは黒色の馬だ。
だが普通の馬ではない。
ナイトメアだな。
つまり魔物である。
王様は大喜びだ。
黒色の精悍な、普通よりも大きな馬が現れたと。
魔物なんだけどな。
まあ、そこは側近あたりが教えるだろうから、俺は何も言わない。
そして俺は英雄の称号と共に、お目当ての報奨金と小剣を受け取った。
小剣は英雄の称号が入った中々の作りだ。
報奨金の方を式典が終わって直ぐに確認すると、金貨十枚が入っていた。
思ったより少ない。
いや、少なすぎだろ。
わざわざ王都まで来たってのに、金貨十枚はどうなの。
レンドン子爵は金貨三十枚貰えるって言ってたよな……
あ、いかんいかん、良く良く考えると結構な金額だ。
最近、金銭感覚が狂ってきたな。
俺もかなり人間に侵されてきたか。
ちょっと改めよう。
王都に来ただけで金貨十枚と考えると、こんなにおいしい仕事はない、と思うとしよう。
それにこんな立派な小剣まで貰えたんだ。
俺は剣を鞘から抜く。
するとダイがつぶやいた。
『魔法剣じゃないか、良い物貰ったな』
「えっ、魔法剣、これがか?」
『柄の所に魔法石がはめ込まれているだろ、魔法剣の証拠だよ。きっと文字が書かれているはずだ』
「ああ、確かに書いてあるな。古代語で雷撃って書いてあるっぽいな」
「それは中々良い魔法が入ってたな」
ダイが言うには、かなり高価な武器らしい。
なんだ王都に来て良かったよ。
自分で言うのも何だが、俺は調子の良い奴だった。
もらう物はもらったし、帰る気満々でいたのだが、最後に立食パーティーというのがあるという。
貴族達が集まるパーティーらしい。
テーブルマナーも必要ないし、タダで料理が食べられるならと、俺はレンドン子爵と共に出席した。
そこで次から次へと貴族達が俺を見に来た。
やっぱりそうなったかと思ったが、旨い料理がタダで食べられるから我慢だ。
逆に俺達よりも、レンドン子爵の方が忙しそうだった。
俺はレンドン子爵の領地の領民だから、俺に会う前にレンドン子爵に挨拶しなくちゃいけないらしい。
貴族は本当に面倒臭いな。
英雄となった俺も、その面倒臭い貴族扱いとなるんだがな。
沢山の貴族が挨拶に来る中、レンドン子爵が小声で「こいつは注意ね」と言った貴族が一人だけいた。
ターナー伯爵という奴だ。
太った禿げ頭のオッサンで、見るからに性格が悪そうな男だ。
「やあ、君が英雄のライ殿か。若いとは聞いていたが、ここまで若いとは驚きだよ」
「平民の出身だ。すまないが言葉使いは大目にみてくれ」
俺は簡単な挨拶のあと、従魔の説明やらダンジョンに関しての質問に答えた。
話の中、ターナー伯爵が変な事を聞いてきた。
「王都に来る途中、ダック族の襲撃にあったと聞いた。それで王への献上品のコップが盗まれたらしいな。それの代わり献上した品物に王が大層喜んだそうだが、噂によるとそれもダンジョン産と言うが、どうなのだ?」
「さあ、どうでしょうね」
そこで俺は違和感を覚えた。
俺達が途中で襲撃されたのは知っいてもおかしくない。
しかし当初の王様への献上品が、ダンジョン産のコップだということを何処で知ったんだ?
王様への献上品なのだ、事前に知られないようにしていたと聞いた。
レンドン子爵に聞いたのか。
怪しそうなので、俺は取り敢えずはぐらかした。
するとしつこく「他にもダンジョン産の品物を持っているのか」と聞いてくる。
そこで俺はカマをかけた。
「実は他にもダンジョン産の装備を持っている」
鎧と武器の一式があると言ってしまった。
嘘ではないよな。
味方兵士が着ていた装備を拾ったダンジョンの魔物が、それを着てウロウロしていたんだからな。
そいつを倒してそれがドロップしたんだけど、ダンジョン産と思っても仕方がない。
するとかなり興味がありそうだった。
というか、欲しそうに感じだ。
そいつがいなくなってレンドン子爵に聞いたら、ダック族の襲撃は知っていても、コップを持ってきた事をターナー伯爵は知らないはずだと。
ということは、やはり裏で糸を引いていたのは、ターナー伯爵か。
レンドン子爵が言うには「あいつならやりかねないよ」だそうだ。
次の投稿は明日の昼頃の予定です。
面白かったら「いいね」ボタンよろしくお願いします。