55 石化した
ダック族というのは身長は人間の大人の半分未満で、その名の如く“ダック”の姿をした亜人だ。
ただしアヒルの様な大きな翼は無く、代わりに人間のような手がある。
翼はあるが退化して翔ぶことは出来ない。
少数種族であり、池や河川の近くに生息していると思った。
そう言えばこの野営地は池の近くだな。
もしかしたらダックの縄張りだったのかもしれない。
敵の姿が見えなかったのは、ダック族が小さいからのようだ。
ガー、ガー騒がしいのはアヒルの声っぽい。
ちょっと行って蹴散らして来るか。
「ラミ、ハピ、起きろっ」
「お替り、お替り頼むよ~~……むにゃ」
「……もう食べられませんですわ……」
起きる様子が無い。
まあ、俺一人でも何とかなるか。
「ダイ、ちょっと朝の運動してくるよ」
俺はダイにそう言って、一人で騒ぎの方へと向かった。
現場に着くと兵士達と戦っているのはやはりダック族だ。
上半身は全員が革鎧、頭には金属のヘルム、だが下半身は何も装備していない。
手には盾と槍だ。
身体が小さいのを利用して、ちょこまかと動きまわって槍を突いている。
人間に比べて個々が弱い事を知っているらしく、兵士一人に数人のダックで対峙していた。
ダック達は槍と盾を上手く使いながら、どちらかというと防御主体の戦い方だ。
俺が到着すると、直ぐに俺に対してのダックが当てがわれる。
指示系統はしっかりしているようだ。
向かって来たのは二人。
たったの二人とは舐められたものだ。
だが意外と戦いに慣れているみたいだな。
俺は槍を地面すれすれに横薙ぎに払う。
「グワッ」
「ガー!」
宙に舞う二人のダック。
もちろん翼が無いから、人間と同じように地面を転がって行く。
思ったよりも軽いな、こいつら。
それを見た他のダックが俺に集まって来た。
今度は五人か、良いだろう相手してやる。
しかし対応は早いな。
指令を出しているのはどいつだ?
視線を巡らせると、それらしいダックを発見した。
姿や格好は他のダック兵士と全く変わらない。
恐らく指揮官と分からない様に、同じ装備をしているんだな。
だがそいつだけは味方のダックに、あちこち指示を出しているっぽい。
俺は群がるダック兵を蹴散らしながら、そいつに接近する。
「グワッ、グワッ!!」
指揮官らしいダックの、合図のような鳴き声だ。
何かやるらしい。
すると一斉に後退して行く。
負傷兵もしっかり連れて行く。
どうやら池の中へ退避するようだ。
危なくなったら即退避か、そこも判断が早いな。
次々に池の水の中へと入る。
そして鎧を着けたまま流暢に泳いで行く。
泳ぎ方はアヒルそのままなんだな。
味方兵士達が池の岸辺ギリギリまで追いかけるも、ダック達はあっという間に池の中央の辺りを泳いでいる。
足は短いくせに逃げ足は速い。
味方兵士が弓を用意すると、ダックは達は対岸の方へ移動して行った。
「負傷者を後退させろ。それと数名はここに残して見張りだ」
混乱する兵士達に俺が勝手に命令を出すと、しっかり俺の指示に従ってくれた。
野営地へ戻りなんとか態勢を立て直す。
負傷兵の治療を追えれば直ぐに出発するつもりだ。
そこへ「キャン、キャン」とダイが俺を呼ぶ声。
俺が近くへ行くと、念話が送られて来た。
『ライ、ダック族が襲撃して来た理由なんだがな、夕べ食べた魚が原因じゃないかと思う』
「魚が原因ってどういうことだ」
『この池は奴らの縄張りってことだ。そこで我々が池の魚を採って食べたからだ。彼らは自分たちの漁場を盗られると思ったんじゃないのか』
ああ、あり得そうな内容だな。
人間は良く「新規開拓だ」とか言って、魔物の縄張りを荒らすからな。
俺達がここに居座ると思ったのかもしれないな。
「でもな、妙に引き際が早いのが気になるんだが……」
『そう言われればそうかもしれないな』
まあどうせ直ぐにこの野営地から立ち去るから、この際どうでも良いか。
レンドン子爵の天幕へ行って俺の考えを伝えたところ、負傷兵の手当てが済んだらここを直ぐに発つとのことだ。
こうして次の襲撃前に俺達は、何とか池から離れることが出来た。
幸いに味方は軽傷者だけで済んでいる。
逆にダック族は、かなりの被害が出てると思う。
俺達は再び街道に戻り、王都を目指して進み掛けた時だ。
隊列が突然停止した。
馬車の窓から先頭の方向を見ると、街道の先でダック族が道を塞いでいる。
先回りされたのだ。
騎馬兵の一人がレンドン子爵の馬車へ行って、どうするか話し合っているようだ。
ラミとハピが興味深げに馬車から降りて、道の先を眺め始めた。
そこでハピが発言した。
「あれはダック族ですわね。あら? 知合いがいますわ」
ハーピーなのにダック族に知合いがいるのかよ。
ハピが言うには、隊長が知合いらしい。
さっきの襲撃で寝てたくせに今更だな。
そういえばハーピー族は鳥人間、ダック族も同じ鳥人間だな。
種族的に交流があってもおかしくないのか?
それならばと思い、レンドン子爵へそれを伝え、ハピに説得して貰う作戦を提案した。
すると「うん、じゃあ、任せたよ」
と、レンドン子爵から簡単に許可が出た。
それならハピにやらせてみるか。
無駄な争いは避けたい。
「ハピ、あそこのダックの知合いとかにな、道を開けてくれるように、頼んでくれるか」
「お安い御用ですわね。そんなの私一人で直ぐに片が付きますわ」
ハピは翼を拡げると、空へ舞い上がった。
ハピの言葉に何か違和感を感じるのだが、ここはハピを信じようと思う。
ハピは結構な高さまで上昇すると、ダック族の潜む上空でホバリングする。
しばらく何かやりとりしていた。
話し合っているのだろうな。
その内ダック族が槍を構えて、空中のハピを威嚇し始めるのが見えた。
するとハピが高々に笑い始めた。
「ほ~ほっほっほ、やれるものやってみるのですわ!」
ハッキリと聞き取れた。
間違いなく挑発しているな。
そして最後にハピはこう叫んだ。
「これでも喰らうのですわっ、トルネ~ド!」
説得はどこいった!?
俺の話を全く聞いてなかったのかよ。
竜巻魔法があっという間に、ダック族を空高く舞い上げる。
ダック族は軽いから、次々に竜巻に呑み込まれていった。
二十人くらいだろうか。
そして竜巻と一緒に森の方へと消えて行った。
味方兵士達はただポカーンと、それを見ているだけだ。
しばらくすると、ハピがドヤ顔で地上に降りて来た。
「ライさん、どうです、目にもの見せてやりましたですわ」
そこで俺は無表情で、ただ一言だけ言い放った。
「飯抜きな」
ハピは両頬を押さえながら石化した。
ダック族ですが、イメージとしては某夢の国のアヒル人間みたいな感じです。
たた、身長は人間の半分以下です。
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