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51 英雄と呼ばれた






 確かに念話が聞こえた。

 俺は一人キョロキョロと周囲を見回す。

 すると俺達の少し後方に、一匹の幼い狼がチョコンと座っていた。


「何キョロキョロしてるのですの?」


 ハピが俺に声を掛けてくるも、俺の視線の先をハピも見た。

 そこで俺はつぶやく。


「信じられないだろうがな、あれはダイだよ」


 ハピが目を見開いて固まる。


 俺の言葉が聞こえたのか、ラミが物凄い勢いで振り向く。


「ダイ、なのか?」


 ラミの問い掛けに、その幼い狼は尻尾を振りながらコクリと(うなづ)いた。


 途端にラミが猛ダッシュ。


 その勢いで熱い包容かと思えば、ラミは低い姿勢から伸び上がる様にアッパーカット一閃。


「キャイ~~ン」


 ダイと思わしき幼い狼は、縦回転しながら吹っ飛んだ。


「やめろっ、ラミ、そいつはダイだって!」


 慌てて俺は叫ぶが、そこでラミの返答。


「だからどうしたっての!」


 慌てて俺は、ダイが死ぬ前に言ってた話をする。


「ダイは不死の存在なんだ。肉体は死んでも魂はそのままで、別の肉体に宿れるらしいんだよ」


 するとラミ。


「だからって心配させんじゃねえよっ、どんだけ悲しい思いをしたと思ってんだよ。ああもう、一発じゃ気持ちが治まらねえ!」


 すると幼い姿の狼になったダイが、スゴスゴと鼻血を垂らしてラミの前までやって来た。

 

 そしてコクリと頭を垂らして、上目遣いでこちらを見る。


 何とも可愛らしく見える子狼だが、騙されてはいけない、中身はダイだ。

 反省してますと言いたいのだろう。


 しかしよくよく考えたら、ダイは全然悪くない。

 身を犠牲にして、ラミの命を救ったのだ。

 謝るのはおかしい。

 逆に感謝されるべきじゃないのか?


 そこで今一度つぶらな瞳の子狼を見る。

 確かに可愛らしく見える、見えるのだがずっと見てると一回転イラッとするのは何故だろうか。


「ちゃんと謝れ、この駄犬がっ!!」


 あ、間違った。

 皆が驚いた表情で俺を見ている。


「――――えっと、今のは無しだ。そ、そうだな、ラミ、まずは助けてくれた礼を言ったらどうだ?」


 すると納得してくれたのか、ラミは恥ずかしそうに「あ、ありがとな」と告げて、そっぽを向いた。


「さて、次はダイだ。心配かけた詫びを入れろ」


 すると可愛らしく「クゥ~ン」と鳴いて頭を下げた。


 やっぱ腹立つな。


 そしてダイからの念話を通して、俺は聞いたことをそのままラミとハピに説明した。


 話を聞いて正直信じられないな。

 多分ラミとハピもそうだろう。


 ダイの説明だと、ダイは伝説に出てくる『狼王』そのものだ。

 太古の時代より幾度となく現れては消える、狼の頂点に立つ伝説の存在。


「もしかして、ダイって狼王なのか?」


 するとダイ。


『そんな風に呼ばれたりもしたかな。大昔のことだけどな』


 ラミとハピは知らないだろうが、人間の文献にも載っているし、ライカンスロープなら大抵知っている、あの狼王だ。


 ダイはあの文献は大袈裟に書かれているだけだと言うが、それよりも目の前に伝説の狼がいるのが驚きなのだ。


 人間の間では狼王は魔物ではなく、半神や聖獣の扱いだ。

 何度でも蘇るからだ。


 くそ、余計な事は考えちゃ駄目だ。

 今まで通りのダイとして見よう。

 ダイもそうしてくれと言うし。


 とりあえずこの件は解決した。

 しかしこの事は、俺の正体同様に秘密だな。


「そしたらダイ、新しく獣魔登録しなくちゃいけないな」


 そう、ダイは死んだから、新しい獣魔の登録だ。


 俺達はエルドラの街の冒険者ギルドへと向かった。





 いつものように獣魔二人は馬車で待たせて、ダイと俺は新規獣魔登録の為に、冒険者ギルドへと入って行く。

 ギルドのホールまで来たところで、女性冒険者の一人が声を上げた。


「やだ何それ、可愛いっ」


 その一声で俺が抱えたダイに視線が集まった。


「キャ~、可愛い!」

「何、何、獣魔なの、獣魔なの~」


 女性冒険者が俺が抱えたダイに群がって来た。

 子狼ってこんなに破壊力あったのか。


「よせって、触るな。それは俺の手!」


「キャン、キャン」

『ライ、誰かが尻尾を引っ張ってるって。イタタタッ』


 俺は必死に受付カウンターへ向かおうとしていると、ギルド員の男が横から俺の腕を引っ張った。


「ギルド長がお呼びです、ライさん!」


 またかよ。

 何回目だろうか。

 最近は来るたびに呼ばれているような気もする。


 しかしおかげで、揉みクシャな中から脱出が出来た。


 俺はダイを抱えたまま、ギルド長の部屋へと入って行った。


 ギルド長はいつものように窓から外の景色を眺めている。

 

「呼んでるっていうから来たけど、いったい何用だ」


 俺がぶっきらぼうに言うと、ギルド長がゆっくりと振り返って言った。


「お主、ダンジョンを討伐したそうじゃな。それは本当か?」


 しまった、ダイの事で頭がいっぱいで忘れてた。

 困ったな、言い訳を考えてないぞ。

 

「そ、そうだな。何かそう言う事になったみたいだ、な……えっと、それがどうかしたか」


「ダンジョン討伐は勇者のような加護持ちでも難易度が高いのじゃぞ。まずは守護魔物を倒すのに何回か挑戦して、その度に勇者は仲間を失い、やっとのことで守護魔物を倒してダンジョンの核を破壊するのじゃ。それをたった一度の挑戦、しかもじゃ。こんな短期間に討伐したじゃと? ライ、お前はなんて奴じゃ。領主様には報告の使いを出してあるからのう、その内に呼び出しがあるじゃろう」


「それって、つまり俺はマズい事をしたんだろうか。領主に怒られるのか?」


「何を馬鹿な事を言っておるのじゃ。お主のやったことは英雄的行為じゃよ。褒められることはあっても、怒られるようなことじゃないわ」


 また英雄かよ。

 そこでダイが念話を送ってきた。


『ライカンスロープが人間の英雄だと……うひゃら、うひゃら』


 ダイがまた変な笑い方を伝えてきやがった。

 しかしダイが言うのはもっともだ。


 俺は魔物であって人間じゃない。

 ライカンスロープは人間の敵になる存在だ。

 俺達の種族を増やすには、人間を噛んでライカン病にするしかない。

 今じゃ伝説上の魔物らしいが、それが実在すると知れ渡れば、間違いなく俺は賞金首になるだろう。

 そんな存在が英雄だと?

 笑わせてくれる。


 だが俺は今、勇者を越えた人間の扱い。

 正体を隠している以上、誤魔化すのが一苦労だ。

 

 それに子爵に呼び出されて「お前は英雄だ」って言われたら、それを受け入れるしかないだろう。


 まあ、英雄呼ばわりくらいは諦めるか。

 


 

 










次の投稿は明日の朝の予定です。



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(評価ポイントとかブックマークとは違います。ランキングに何ら影響しませんけど是非!)



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