50 死者の声が聞こえた
ダイが倒れたのと代わって、ラミの意識がハッキリとしてきた。
「何だ、私はどうなったんだ?」
そう言ってラミが起き上がろうとするので、俺はそれを押さえる。
「まだ起きるな。傷がどうなってるのかも分かって……傷口、塞がってるな」
俺の制止を振り切ってラミは起き上がり、自分の身体の怪我を探している。
「ん? おかしいな。傷口が塞がってるんだけど、どういう事?」
ラミは不思議そうに、傷があった個所をまさぐっている。
「ラミ、俺も上手く説明出来ないんだがな、ダイが身代わりになってくれたみたいなんだ」
ハピも悲しそうに説明する。
「そうなのですわ。ラミは重傷で助かりそうもなかったのですわ。だけどダイが自分を犠牲にして、ラミを救ってくれたのですわ」
そう言って静かに横たわるダイを見つめる。
するとラミ。
「まさか、ダイが死んじゃったのか。嘘だ、ダイが死ぬはずないだろ。それになんだよ、身代わりって、何勝手な事してんだよ」
ラミがダイに恐る恐る触れる。
「おい、冗談はもう良いから、起きろよ。ダイ、起きろって」
ラミはダイの身体を何度も揺らすが、全く反応がない。
ラミも徐々に事の重大さに気が付いてきたようだ。
次第にラミの眼から涙が零れる始める。
そしてラミがダイを優しく抱き起こす。
まるで大切なものを扱うかのように。
「ダイ、帰ろう。私達の家に。今日はダンジョン討伐のお祝いをしようか」
ラミは抱えているダイに話し掛けながら、元来た道を戻って行く。
そこで俺はハピに声を掛ける。
「ハピ、悪いがラミに付いて行ってもらえるか」
するとハピ。
「構いませんてすわ。でもライさんはどうするおつもりですの?」
俺はある方向を指差して言った。
「あそこだ。さっきまでなかった通路だ。あの奥を調べてから行く」
壁だったところが、ポッカリと開いている。
まるで初めから通路があったかのようだ。
ラミとハピを見送ったあと、俺は一人その
通路へと入って行った。
少し歩くと部屋のような空間に行き着いた。
中はそれほど広くはない。
何もない空間の中央には台座が置いてあり、その台座の上には、巨大な宝石のようなモノが置かれている。
その宝石は赤色をしているのだが、僅かに色が変化する。
ただ普通の宝石と違うのは、その宝石は巨大な上に鼓動していた。
あたかも生きているかの様に、色の濃淡の変化と共に鼓動している。
思わず言葉が漏れる。
「まるで巨大な心臓だな……心臓か」
もしかして、このダンジョンの心臓なのかもしれないな。
これを叩き壊せば、このダンジョンを討伐出来たりするのか。
「やってみるか」
俺の槍は守護魔物との戦いで吹っ飛んでしまったから、ショートソードしかない。
まあこれを壊すくらいならこれで十分だろう。
俺はショートソードを振りかぶり、その赤色の宝石に叩き込んだ。
ギーン!
弾きやがった。
「ならこれでどうだ!」
腕の筋肉を盛り上げる。
その腕でもって、シヨートソードの切っ先を突き立てた。
剣が少しめり込む。
だが、めり込んだのは刃先だけだ。
俺は更に力を込めて押し込む。
ピキリとヒビが入った。
「ヴァオオウ!」
遂にはバリーンと巨大な宝石が割れた。
その途端、輝いていた壁が光を失う。
カンテラの灯りだけが、闇の中を照らしていた。
この感じは、ダンジョン死んだっぽい。
討伐完了だよな?
俺は元来た道を戻るのだった。
ダンジョンから出ると、ラミとハピが真っ先に迎えてくれた。
勇者パーティーもそこにいたのだが、その中の神官戦士のリンが、申し訳なさそうに言ってきた。
「ごめん。狼のダイさん、私の力じゃ駄目だった……」
いくら神官と言えども、死んだものを生き返らせるのは無理だよな。
そのくらい分かってるさ。
「ああ、気にするな」
それしか返せなかった。
ラミはまだダイを抱えたままだ。
「ラミ、ダイの仇は討ったし、ダンジョンは討伐してやった。だから、もうダイを土に返してやらないか」
それを聞いた勇者パーティー全員が「え?」と声を上げた。
そしてハルトが俺の前に出て来て言った。
「ライ、今ダンジョンを討伐って言ったよな?」
「ああ、心臓みたいな宝石があったから、壊してきた。ダンジョンが死んだみたいになったから、多分それで討伐出来たんだと思う」
「心臓みたいな宝石か。それが多分このダンジョンの核なんだと思う。壊したんなら確かに討伐完了だ。しかし凄いなライは。勇者以外の者がダンジョンを討伐したなんて、過去の文献にも載ってないよ」
ハルトはかなり驚いている。
ちょっとやり過ぎた感が拭えないな。
だけどやっちまったもんは仕方ない。
「いや、運が良かったんじゃないかな。出て来た守護魔物も大したことなかったしな。は、ははは」
なんとか適当に誤魔化そうとしたんだが、俺は何か言ってはいけないワードを口にしたようだ。
「ライ、守護魔物を倒したのか!」
「ああ、そうだな。倒したよ。それでダイがやられたんだがな……」
「ライ、守護魔物を倒すのは勇者でも苦戦するって話だぞ。過去の勇者パーティーなんか三回目に挑戦して、やっと勝利したくらいなんだよ。それを一回で倒すなんて、君は英雄だよ!」
おいおい、余り大事にするなよ。
英雄ってなんだよ。
勇者がいれば十分だろ。
「英雄とかやめろ。俺はそういうのが苦手なんだって!」
俺が懇願するなか、ヒマリとリンが騒ぎ立てる。
「マジで倒しちゃったんだ。ガチで凄いじゃん!」
「チートなしでしょ、マジ凄いんだけど!」
だがラミは沈んだまま、まだダイを抱えている。
そしてしばらくして、何とか家の庭に埋めるようラミを説得した。
勇者パーティーは、ダンジョン内を確認してから帰って行った。
俺達は墓用の穴をほり、ダイを丁寧に埋めた。
その上には墓石を置いてダイの首輪を掛ける。
俺達はしばらくダイの墓の前で立ち尽くし、ダイの思い出に浸っていた。
『ダイアウルフなんて珍しい個体だったのに、ちょっと残念だったよ』
「ああそうだな、残念だっ……はあ?」
明らかに今のは念話だった。
次の投稿は明日の朝の予定です。
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