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49 ラスボスと戦った








 エティンが魔法を発動させた。

 俺の予想通り二つの魔法だ。


 突然足元の土が俺の両足を包み込む。

 

 俺だけじゃない、全員の足が土で固定されてしまった。


 直接攻撃魔法だとばかり思ってたので、完全に不意を突かれた。


 くそ、動けない!


 しかし魔法はひとつ。

 もう一つは……


 周囲の土が急激な勢いで盛り上がる。


 その先は鋭角だ。


 来る!


 俺は体を限界まで後ろに倒した。


 俺の胸の上を鋭角に尖った土の塊が通り過ぎる。


 土魔法のコンボだ。


 最初の魔法で相手を動けなくして、そこを土の槍で貫く作戦のようだった。


 ダイも避けている。


 しかしハピが喰らってしまった。


「よくもやってくれたですわね。そ生意気なエティンくせにですわ!」


 大丈夫だ。

 直撃じゃないようだ。

 肩から血を流しているが、軽傷だ。


 ラミは……


「ラミ!」


 ラミは直撃だった。


 ラミは脚が蛇だったから、土で固定される範囲が大き過ぎたようだ。

 あれじゃ避け切れない。


 よりによって人間部分の胸に突き刺さっている。

 蛇の部分だったら跳ね返せたかもしれないのに。


「ぐぐぐぐ……ゴホッ……ゲホッ」


 しゃべろうとしているのか、咳き込んで血を吐いている。


「ラミ、しゃべるなっ。今助ける!」


 と入ってみたものの、槍で足元の土を削ろうとするが、全く歯がたたない。

 

 両足を変身させる。


 太ももの筋肉が盛り上がり、狼の脚へと変貌する。


 そこで両足に力を込める。


 ――――ダメだ、それでも動かない!


 エティンが標的をハピにしたようだ。

 ハピの方向にノッシノッシと歩いて行く。


「ハピっ、逃げろぉ!」


 逃げられやしないが、黙ってはいられなかった。

 無駄だと分っていても、逃げてくれと祈る気持ちが口に出たのだ。


「くそ、くそ、崩れろ!」


 俺は必死に足元の土に槍を突き刺すが、少し削れた程度。

 脱出には程遠い。


 そこでふと槍の穂先を見て動作を止めた。


「魔法石……」


 そうだった。

 魔法石がまだあるじゃねえか!


 バンおじさんの形見の槍の穂先には、魔法石が埋め込まれている。

 それは魔力を注ぎ込むことで魔法が発動するらしいのだが、どんな魔法なのかは俺には理解出来なかった。

 

 だけど今がそれを使う時に違いない

 魔法発動の為の魔力だから、魔力量は少しで良い。

 俺は槍を振りかぶり魔法石に魔力を送る。


 すると槍の穂先の周りに魔法陣が現れた。


 小さな魔法陣が幾つも連なり槍を取り囲む。

 

 魔法陣の数は全部で四つだ。


 やってて自分が驚いてしまう。


 ラミへとチラリと視線を移す。

 ここでモタモタしている暇はないと覚悟を決める。


 今はやるしか道はない!


「ヴォオオオオオオ!」


 雄叫びと共に、ありったけの力で槍を投げ放った。


 ハピに向かおうとしているエティンが何事かと振り返る。


 振り返ったエティンの胸のド真ん中に、投げた槍は突き刺さった。


 ――――くそ、浅い!


 これだと先ほどと同じ程度の傷。


 しかしそこで魔法陣が威力を発揮した。


 突如エティンが炎に包まれる。

 火の魔法が発動したのだ。


 その火を消そうとエティンがもがく。


 だがそれで終わりではなかった。


 槍の刺さった胸の反対側から、尖った岩が突き出した。

 今度は土の魔法が発動したのだ。


「ウガアアアアアアッ」


 そこで初めてエティンが叫んだ。


 続いて槍の刺さったところからバチバチっと稲妻が起こる。

 今度は電の魔法だ。


「ウガアアアアアッ」


 そして四ツ目の魔法。


 刺さった槍が爆発した。


 エクスプロージョン魔法。


 エティンの身体の内部から爆発が起こった。


 爆発と同時に、周囲に肉片を巻き散らす。


 残ったのはエティンの成れの姿だ。

 そこで煙と化して消えていった。


「勝った、のか……」


 気が付いたら足を固めていた土が消えている。


「ラミ!」


 俺がラミに駆け寄ると、脚の自由になったラミが倒れ込む。

 寸でのところで俺はラミを抱きかかえた。


「くそ、傷が深い。待ってろ、今治療してやる!」


 ゆっくりと地面にラミを寝かせ、傷口にワインを染み込ませた布を押し付ける。

 苦しそうだ。

 

 ラミがボソリと口を開く。


「煙になって、ゲホッ……消える、のは……嫌だ……ゴホッ」


「わかったからしゃべるな。ラミはダンジョン産の魔物じゃないから消えない、大丈夫だ!」


 人間だったらとうに死んでいる。

 ラミアだからこそ、この傷でも生きている。

 それでも重傷だ。

 どれくらい持つかも分からない。


 マズい、マズい。

 このままじゃラミが死んじまう。

 ダンジョンの外へ連れ出せば勇者たちがいる。

 あの神官なら助けられるかもしれない。


「よし、外に出る。神官戦士のリンに助けてもらうぞ」


 俺がラミを抱きかかえて立ち上がろうととすると、ダイが念話を伝えてきた。


『ライ、無理だ。その傷はリンのヒール魔法じゃ助からない』


 それを聞いて俺はついカッとなってしまった。


「勝手な事を言うなっ。ラミは、ラミはこんなに苦しそうなんだぞ。こんなに、こんなに……」


『ライ、ひとつだけ助ける方法があるんだ』


 助かる方法?


「何だ、教えてくれ!」


 ダイが俺の目の前で座り、真正面から俺を見据えながら言った。


『前に俺はダイアウルフの生き残りって言ったよな。それは半分あってるが半分間違ってる』

 

「どういうことだ?」


『人間は肉体が滅びると魂だけが残って、それまでの記憶がリセットされる。その魂は新たな肉体に宿り、生命体としてこの世に降りる。これがこの世界のことわりだ。だがな、俺はそのことわりから外れている』


「ええっと、すまんが全く頭に入ってこない」


『ああ、すまんな。簡単に言えば、俺は死んでも違う肉体に魂を移して生きることが出来る。つまり不死なんだ。人間の言葉で表現するなら“半神”と呼ばれている存在だよ。それでラミを救う方法なんだけどな、俺の今の生命力をラミに移す。その代わりダイの肉体は死ぬ』


「半分くらい分かったが、とにかくラミが死ななくても良いってことだな!」


『ああ、そうだ。時間が余りない。始めるぞ?』


「良し、始めてくれ」


『終わればラミは回復していく。そうなれば神官戦士のリンのヒール魔法でも治るはずだ』


 そう言うとダイがラミに鼻先を付けた。


 何をするのかと思っていたら、急にダイの身体から力が抜けて倒れ込んだ。


「ダイ!」


「ダイ、しっかりするんですわ!」

 

 横たわるダイの眼には、もはや生気が失われていた。




 









次の投稿は明日の朝の予定です。




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