48 我慢出来ずに突入した
初め会った時の俺は、相手が勇者パーティーだからという理由で、嫌な奴らと決めつけていたかもしれない。
しかし一緒に行動しているうちに、何だか悪い奴ではない気がしてきた。
むしろ良い奴に思えてきた。
俺は半分人間で生活しているから、そういうのがあってもおかしくない。
だけどラミとハピは生粋の魔物だ。
それが今では心情が変化してきている。
「神官戦士のリンですけど、私の胸鎧の調整をしてくれましたですわ。意外と優しいところがあるようですわよ」
「魔法使いのヒマリも良い奴だよ。干し肉をくれたんだよ。人間にも良い奴はいるみたいたな」
こんなことをラミとハピが話していたくらいだ。
ただダイだけは違った。
『人間は欲と嘘の塊だ。油断はするなよ』
ダイは揺るがないな、いつも通りだ。
勇者パーティーは、ダンジョンから少し距離を開けた場所で食事するという。
その間に俺達はダンジョンから溢れ出して来た魔物を消していくのだが、何故か急に魔物が現れなくなった。
半刻ほど経ったが全く現れない。
何もしないでボーっとしてるのは辛い。
特にラミとハピがうるさい。
そして遂には我慢出来ずに、勇者パーティーに告げた。
「ちょっとダンジョンに潜って来る!」
勇者パーティーは「は?」とか「何?」とか言ってるが、俺達はもう我慢の限界だ。
ダイだけは面倒臭そうだが、ラミ、ハピ、そして俺に押されながらも、ダンジョン内へと入って行った。
ダンジョンの中は静まり返っていた。
いつもとは全然違った。
まるでただの洞窟のよう。
それにいつもの場所にトラップがないのだ。
何も出ないしトラップも無ければ、進む速度は上がっていく。
あっという間に俺達が知る範囲の、最深部にまで来てしまった。
ここより奥は魔物出現が頻繁で、中々奥へと行けなかった地点だ。
だが今なら行ける。
この先は一直線の道だが、カンテラの灯りで見える範囲には何もない。
穴が奥へ奥へと続くだけだ。
気配は全くないのだが、何故かこの奥からは嫌な予感しかしない。
それでも奥へと進む以外の選択はない。
しばらく行くと、広い空間が見えてきた。
そこでダイから念話がくる。
『凄い殺気だぞ』
俺と同じ感覚を受けてたみたいだ。
それでもやることはひとつ。
「ダイ、俺も感じてるよ。だけどな、それでも奥へ行ってみたいんだよ。何でだろうな。行かなきゃいけない使命感も感じるんだよな」
『そうか、なら俺も付き合うか』
ラミとハピにも言っておく。
「ラミ、ハピ。俺とダイは奥へ行くつもりだ。だけどな、この奥にはかなりの危険が待っている。だから二人は戻ってもいいぞ」
するとラミ。
「ライさんがそれを言われて“はい、そうですか”って戻るのか?」
続いてハピも。
「そうですわよ。私も断固ついて行きますわ」
「ふん、好きにしろ。だけど命の保証はないからな」
「おお、冒険者っぽくて良いぞ!」
「それを聞いてワクワクですわっ」
空間だった所へ入ると、急に内部が明るくなった。
壁が光を放ち出したのだ。
結構な広い円形の空間。
中央に人型の魔物が一匹。
優に人間の二倍の大きさ。
だが頭が二つ。
双頭の巨人“エティン”―――違う。
ただのエティンではない。
腕が四つありやがる。
特種個体のエティン。
そこでダイからの念話。
『ダンジョンの守護魔物だ。こいつは強いぞ!』
俺は叫んだ。
「囲めっ、こいつは今までとは違う!」
ラミとハピが即座に反応して、エティンを囲む。
エティンの四つの腕には、それぞれ棍棒が握られている。
エティンが動く。
正面にいる俺に向かって!
四つの腕を振り上げた。
どうみてもまともに受けるのは無理だ。
避けるしか選択肢はない。
同時に四本の棍棒を振り下ろすかと思ったら、一本づつ振り下ろしてきた。
俺の行動を読みながら、棍棒の軌道をしっかり変えてくる。
このエティンは結構な知能があるようだ。
やはり普通のエティンとは違う。
だがお前の敵は俺だけじゃない!
真後ろに回ったハピが、翼を羽ばたかせる。
二つの頭を鋭い爪で鷲掴みにしようと、空中からエティンに襲い掛かった。
「握り潰しますわ!」
しかし二つの頭は伊達ではない。
しっかりとハピの動きを捉えていた。
俺に向かっていた内の一本の腕が、ハピへと向けられた。
棍棒がブンッと空中に向かって振るわれる。
ハピが慌てて避ける。
「そ、そんな早さじゃ掠りもしないですわっ」
ハピの強がりとは反対に、エティンの棍棒はハピの爪先を掠っていく。
その隙にラミの剣が、エティンの真横を襲った。
腹を狙ったようだが、それは見事に棍棒で払われる。
持っていた剣を払われただけなのに、ラミは身体ごと吹っ飛ばされる。
ラミは剣を手放さいない様に握りしめるので精一杯だ。
そしてギリギリまで待ったダイが、姿勢を低くしてエティンの足元に接近。
それに気が付いたエティンが棍棒でダイを狙う。
だがダイの方が早い!
轟音を響かせて地面を削る棍棒。
エティンは土煙でダイの姿を見失う。
次の瞬間、エティンの反対側の足首にダイが噛み付いた。
しかしチラリとダイを見ただけで、エティンは気にもしない。
効いてないよとでも言う様に。
そこで俺の出番だ。
俺は槍を突いた。
槍は確実にエティンの横腹を抉った。
直ぐに棍棒が目の前に迫る。
俺はスルリと避けて、エティンとの距離を開ける。
俺が与えたはずの傷を見るが出血はない。
エティンも表情一つ変えない。
あの突刺力でも傷が浅いというのか。
続いてハピのハルバートが、エティンの横腹に叩き込まれた。
俺が負わせた傷口にだ。
僅かに血が滲む。
あまり効いていないようだ。
「駄目だ、こいつの皮膚は鎧と一緒だ。一旦離れろっ」
全員がエティンとの距離をとった。
奴の動きはそこまで早くない。
ならば一撃離脱でちまちまとダメージを与えるか。
広い空間と言えども、ここは閉鎖された室内のようなもの。
ラミのポイゾンボールが、ギリギリいけるかといったところだ。
だが同士討ちは困る。
そんなことを考えていると、エティンの口がモゴモゴと動いている。
それも二つある口が両方共にだ。
そこでハピが叫んだ。
「詠唱してますわよ!」
くそ、魔法も使えるのか!
二つの頭が詠唱?
まさか、二つの魔法を放つ気か?!
「防御しろっ」
咄嗟に叫んだが、エティンが魔法を放つのとほぼ同時だった。
次の投稿は明日の朝の予定です。
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