47 魔物が溢れ出した
毒竜巻の魔法が消えた頃、ダンジョンから溢れ出した魔物はいなくなっていた。
ラミとハピはドヤ顔だ。
「ライさん、ライさん、どうですの。私を少しは見直したですわね?」
「どうだ、ほんの少し力を見せてやったが、こんなもんよ」
こいつらは二つの魔法が交じり合うと“毒竜巻”になるなんて、どうせ知らなかったんだろうが。
まあ良いか、褒めておいてやるか。
「二人とも良くやったな。それとハピ、片方はみ出てる。ハルトが目のやり場に困ってるだろ。早く仕舞え」
「あら、本当ですわ」
「ちゃんとヒモを締めとけ」
勇者ハルトが慌てて目を逸らす。
顔が凄く赤い。
するとヒマリとリンが怖い視線をハルトに浴びせる。
ふっ、こいつらまだまだ若いな。
そして今度は負傷者の治療となる。
そこは神官のリンの仕事だ。
しかしかなりの死者を出したようだ。
負傷者も重傷の割合が多い気がする。
そして少し落ち着いた所で、改めて礼を言われた。
あのムカつく貴族までもが、俺に礼を言ってきた。
貴族のおっさんは片腕がない。
ポーションで傷口は塞いだようだが、無くなった腕は生えやしない。
こいつなりに頑張ったんだろう。
今回の戦いが終わってから、魔法使いのヒマリと神官戦士のリンの俺に対しての態度が、少し変わってきた気がする。
「ライ、頼りになるじゃん」
「ライの獣魔ってガチで凄いんだけど」
少なくとも名前は覚えられたな。
勇者ハルトもそうだ。
「何かあったら僕に一声掛けてくれよ。出来る範囲で協力するから」
そう言って握手までされた。
これはもう、勇者を味方につけたようなもんだよな。
ただ、こいつはまだまだ全然弱いけど。
今の勇者ハルトでは魔王に勝てないと思う。
いくら何でも魔王はもっと強いだろう。
魔王にあったことないけど。
「でも何で急にダンジョンから魔物が溢れだしたんだ?」
俺の疑問には誰も答えられない。
ダンジョン自体が、まだ解明されてないから仕方ない。
やはりダンジョンにも意志があるのだろうか。
ダンジョン前で野営して邪魔だったとか、ダンジョンに意志があるなら有り得なくもない。
それよりも一番心配なのは、このままだと俺達の家が危ない。
これは家を守る為にも、ダンジョン討伐に協力しないといけないか。
獣魔達とも話し合って、ダンジョン討伐は最優先事項となった。
つまり勇者のダンジョン討伐にも、道案内人としてではなく、一員として積極的に参加するという事だ。
しかしこれでもう魔王が現れても、言い訳出来ないな。
まあ、その時はその時だ。
「なあ、ハルト。獣魔とも話し合ってみたんだがな、俺達もダンジョン討伐に向けて本格的に動こうかと思う。だから協力出来る事があれば協力するから言ってくれ」
もちろん勇者パーティーは大歓迎してくれた。
う~ん、こいつらが人間じゃなかったら良かったのにな。
そうだ聞きたい事があったんだ。
「なあ、ハルト。さっきの魔物を倒した時に手に入れたんだがな、これ何だか分かるか?」
俺は熊型の魔物から拾った石を見せた。
「ダンジョン産の魔物のドロップ・アイテムか……う~ん、何かが呪付された石みたいだけど、ヒマリ何か分かるか?」
ハルトは石を魔法使いのヒマリに渡す。
「多分だけど、召喚石じゃないかなあ」
「召喚石?」
「そう、魔物を封印して召喚出来る様にする石だよ。召喚石自体はそれほど珍しく無いんだけど、これってドロップ・アイテムでしょ。そうなるとどうなんだろ、何があるか分かんないよね。それにこの召喚石ってさ、もう何か封印してあるし」
「どうやって使うんだ?」
「握って念じるだけだよ」
「じゃあ、やってみるか」
俺はヒマリから石を返してもらい両手で握る。
するとヒマリ。
「あ、でも普通の召喚石は一回しか召喚出来ないからね」
「うっ、先にそれを言ってくれ。ということは使うタイミングを考えろってことか」
だったら使わずに仕舞っておくか。
売って金に換えても良いしな。
負傷者の治療を終え落ち着いたところで、貴族と兵士達は負傷者を連れて街へ一旦戻るそうだ。
重傷者を早く連れ帰りたいからだ。
勇者パーティーは残って、ダンジョン討伐を続けるという。
俺達も手伝うぞ、明日からだけどな。
今日のところはもう少し眠るぜ。
俺達は一旦家に帰って休む事にした。
翌朝、日が昇り始めた頃だ。
俺達はダンジョンの前に来た。
何故か勇者パーティー全員が、ダンジョン前で身構えている。
「ハルト、何やってる?」
俺が声を掛けるとハルトが答える。
「良いとこに来てくれた。ダンジョン内からずっと魔物が溢れっぱなしなんだ。三人じゃちょっとキツかったんだよ」
突然、魔法使いのヒマリが、ダンジョンの穴へ向かって魔法を放った。
「ライトニング・ボルト!」
ヒマリの杖から稲妻が発せられ、ダンジョン内へと飛び込んで行った。
真っ暗だったダンジョン内が一瞬で明るくなり、稲妻が壁に反射しながら中の魔物を焼き尽くす。
一撃で数十匹の魔物が煙となる。
その時の轟音たるや凄まじく、地面が震度するかと思うほどだ。
やはり加護の力は凄いな。
並の人間に出来る魔法ではない。
しかしヒマリはかなり前から魔法を放っていたとかで、魔力切れらしい。
片膝を突いて肩で息している。
ヒマリの肩に手を置きハルトが言った。
「ヒマリ、少し休め。後は俺達がやる」
ハルト君、恰好良いな。
俺達も見てるだけじゃ申し訳ない。
「ハルト、後は俺達がやるから、三人とも休め」
「ライ、すまない。助かるよ。ダイ、ラミ、ハピ、ありがとう」
おお、獣魔にまで礼を言ったぞ!
ラミとハピがあからさまに驚いている。
次の投稿は明日の朝の予定です。
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