46 毒竜巻になった
俺達は一旦ダンジョンを出た。
てっきりダンジョン内で野営するのかと思ったら、ダンジョンから出て来れるうちは外で野営する方が、体が休まるんだそうだ。
過去にダンジョンを討伐した勇者の教えだと言う。
勇者メンバーによるダンジョン攻略書籍があり、それに書いてあるのだそうだ。
それ、俺も読んでみたいな。
無理だろうけど。
それでダンジョンの入口まで戻って来たんだが、外はすっかり暗くなっていた。
待っていた兵士達は、すでに野営の準備をしている。
俺達は休むため家へと戻って行った。
勇者達はここで野営するそうだ。
やっぱり自分の家というのは良いな。
何だか安心するし、落ち着いて眠れる。
食事も簡単に済ませて、俺は眠りに就いた。
どれくらい経っただろうか、突然の騒ぎに俺は目が覚めた。
外はまだ真っ暗だ。
誰かが玄関扉を喚きながら叩いているようだ。
「魔物だ、ダンジョンから魔物が飛び出した。起きてくれ!」
「うっさいなあ、まだ夜中じゃねえか」
俺はぶつぶつと文句をつぶやきながらも、玄関の扉を開けた。
そこには血を流す兵士が、血相を変えて立っていた。
「大変だ、ダンジョンから魔物が出て来て、戦闘になっているんだ。すまんが応援を頼みたい!」
久しぶりにぐっすり眠れると思ったらこれだ。
しかし内容が内容だけに仕方ない。
「分かった、直ぐに行く」
そこからがまた大変だ。
寝坊助のラミとハピを起こさないといけない。
ダイはすでに起きている。
さすがだな。
ダイ用の革鎧を着せて、俺も急いで装備を整える。
ラミとハピも何とか起きたが、明らかにまだ寝ボケている。
しょうがない。
「ダイ、先に行くぞ。ラミとハピは後から来い、いいな!」
「ふぁい、ですわ……」
「ういっす……」
俺はダイを連れて走り出す。
「ダイ、先に行け」
『分かった。先に行って暴れさせてもらう!』
俺も変身すれば良いのだか、バレたらまずい。
ひたすら人間の姿でパタパタと走った。
ダンジョン前に到着すると、そこは地獄絵図となっていた。
屍体があちこちに横たわっている。
さらには、人間の部位が散乱している。
これは酷い。
しかし魔物の屍体は無い。
あ、そうか。
ダンジョン産の魔物は消えるから無いのか。
生き残っているのは、兵士が三人と貴族、そして勇者パーティーだ。
召し使い達は全滅か。
馬も襲われたらしく、殆んどが屍と化している。
ダイが暴れてはいるが魔物の数が多く、数に押されている。
魔物はゴブリンにジャイアントラット、バグベアーに熊型の魔物もいた。
数が多いのはゴブリンとジャイアントラットだ。
熊型の魔物は勇者パーティーが相手をしているが、その間にもダンジョンから魔物が溢れ出している。
これはまずい状況だ。
このままだと数で魔物に潰される。
そして俺達の家が魔物に飲み込まれちまう。
だが、そうはさせない。
ザコは他に任せて、俺は熊型の魔物へと真っ直ぐに走る。
熊は勇者パーティーとの戦闘で、後ろから迫る俺には気が付かない。
ならば一撃で倒す!
俺は走りながら体を反らして、持った槍を振りかぶる。
そして気合いの言葉と一緒に投げ放った。
「でえぇぇいっ!」
投げ放たれた槍は、錐揉み状に回転しながら飛んで行く。
風を切る音が不気味に響く。
槍は狙い違わず熊の背中に、凄まじい音を発して突き刺さった。
「グオオオオッ」
熊は叫びながら後ろ脚で立ち上り、背中を反らす。
そのまま前のめりに倒れ、あっという間に煙となった。
ハルトが大声で「ライ、助かった!」と叫ぶ。
俺は熊が煙になった所で槍を拾いながら、軽く手を上げてそれに返した。
そこで変わった色合いの石を見つけた。
ダンジョンの外なのに、まさかドロップ・アイテムなのか?
とりあえずその石だけを拾い上げ、バッグにしまって次の獲物に襲いかかる。
いくつか倒した頃になって、やっとラミとハピが到着した。
「お前ら、遅いっつうの!」
だがこれで一気に逆転出来る。
ラミとハピは範囲攻撃が出来るからな。
「ラミ、ハピ、こいつらを殲滅しろ!」
俺の言葉にヤル気満々で返事が返ってきた。
「久しぶりやっちゃいますわよ」
「んじゃ、ちょっくら暴れるぜ」
ラミとハピは詠唱を始めた。
もちろんトルネード魔法とポイゾンボールの魔法だ。
「俺の獣魔が魔法を放つ。巻き込まれないように退避だ!」
俺の言葉でラミとハピが魔法を放つことを理解したようで、生き残った人間達は敵との間隔を開け始める。
魔法使いのヒマリが炎の壁を作り、魔物を寄せ付けない。
神官戦士のリンは魔物の足を動けなくする。
これで心置き無く魔法を放てるだろう。
あ、ラミとハピはそんなの関係なかったか。
こいつらは人間を平気で巻き込むな。
「ラミ、ハピ、かましたれ!」
俺の合図で魔法が放たれた。
しかしこの魔法が凄かった。
二人が同時に放ったから、想像と違う光景が展開したのだ。
トルネードどポイゾンボールが合わさって、毒の竜巻が作られたのだ。
それは巻き込まれただけで、確実に死が待っている魔法だった。
一番近くにいたゴブリン十匹ほどが最初に巻き込まれた。
巻き込まれたら最後、悲鳴も聞こえず、竜巻の中で煙となって消えた。
続いてバグベアーとジャイアントラット多数が舞い上げられ、毒の竜巻に呑み込まれた。
そして竜巻はダンジョンの入口に接近。
ダンジョンから湧き出す魔物を片っ端から舞い上げていく。
竜巻を巧く避けた魔物は僅かだ。
俺達はそれを倒すだけで良かった。
今回は完全にラミとハピに、美味しい所を全部持っていかれたな。
「あっ、ドロップ・アイテム!」
叫んだのは良いが、毒竜巻に巻き込まれて溶けてしまった。
泣きそう。
次の投稿は明日の朝の予定です。
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