42 ダンジョンは大人の遊び場だった
破壊された扉を見つめる俺達。
扉の向こう側では、スッ転んだままの恰好で固まるハピ。
何故か静まり返るダンジョン。
静寂は「カラーン」と扉の破片が落ちる音で破られた。
そこで我に返った俺は声を荒げた。
「おい。扉を壊すとか、あり得ないだろっ」
するとラミは、アワアワした様子で言い訳を言ってきた。
「だ、だって、だって。と、扉が勝手に閉まったんだって~」
「どうするんだよっ。魔物も湧いて来ないじゃねえか!」
「す、すまんよ。悪いと思ってるから、食事抜きだけは勘弁だよ~」
ラミが申し訳無さげに縮こまってしまった。
俺としたことが、ちょっとカッと成りすぎたか。
「ああ、俺も言い過ぎた。悪かったな。一番悪いのはダンジョンだよな。そう、これはダンジョンのトラップだよ。気にするな。次行こう」
何故か俺の言葉に、ラミの目がウルウルしている。
「そういうのズルいですわね。わ、私にも何か言葉が欲しい、ですわ……」
そう言うハピは、未だに前のめりにスッ転んだままの状態だ。
「直ぐ起きないと飯抜きだぞ?」
「それは、あんまりですわ」とか言いながら、飛び起きるハピ。
そこへダイが念話を送ってきた。
『もしかしたらだがこの扉、勝手にダンジョンが修復するかもしれないぞ。しばらくしたら元通りになってるかもしれない』
確かに有り得る。
壊したトラップが修復するのだからな。
そうだとしたら、また来た時に分かるな。
よし、まだ行ってない場所もあるんだし、次へ行こう。
俺達は更に探索の為に、ダンジョンの奥へと向かった。
途中、遭遇する魔物はザコばかりだ。
物足りないと思った矢先、ちょうど曲がり角を曲がった時だった。
壁から這い出て来る魔物に遭遇した。
そいつは熊型の魔物。
兵士や金等級冒険者に、多数の死傷者を出した魔物だ。
赤黒い毛並みで、爪が短剣のように鋭い。
体長は人間の身長より少し大きいくらい、体重は人間四、五人分はあるだろうか。
その腕の一振りで、人間の首くらいなら簡単に千切れ飛ぶだろう。
直ぐに先頭を行くダイが反応した。
「ガウゥッ」
強靭なアゴで、熊の喉元へ食らい付いた。
それを見た俺は、これで決着は着いたと思ってしまった。
ダイのあの牙でまともに喉元を噛み付かれて、普通に生きてるとは思わなかったからだ。
だが熊型魔物は、食らい付いたダイを払い除けようと必死に抵抗する。
両手でダイを掴んで引き離そうとしているのだ。
あの熊型魔物の毛皮は、思った以上に固いようだ。
「ならばこれでどうだ!」
俺の上半身が躍動する。
腕、肩、胸の筋肉が盛り上がる。
同時にみるみる内に狼の毛が生える。
俺はその上半身でもって槍を投げた。
槍は熊の腹に当たる。
「グオオオオオオ!」
効果はあったようだが、まだ堪えていやがるのか。
ダイが熊から離れる。
そこへラミが後から叫ぶ。
「あとは私に任せなっ、ポイゾンボール!」
それを聞いて俺達は、慌てて地面に伏せた。
そこへ緑の球がいくつも頭の上を飛んで行った。
緑の球のほとんどが熊の顔に直撃していく。
熊の顔に集中して毒球は、それはそれは凄い効果を見せた。
口や目には毛皮はないからな。
熊は断末魔の声を残して、煙となって消えていった。
やったな。
だけどダイが少し怪我をしている。
しかしダイは『これくらい問題ない』と伝えてきたので、このまま先へ進むことにした。
しばらく行くと、通路の先にいる何かにダイが気が付いて、念話で伝えてくる。
『こっちに向かって来るぞ。相手は二体だ』
先頭のダイが速度を落として、ゆっくりと警戒しながら進みだす。
すると徐々に前方から来る、人型の何かが見えてきた。
ホブコブリンが二体だな。
しかしホブコブリンにしては、良さげな武器を装備している。
良く見れば、ダンジョンから出て来なかった兵士の装備をそのまま着けている。
そういう事か。
ダンジョン内で死んだ兵士から奪ったんだな。
そうなると、また奴等が来た時に魔道具か何かを持ち込まれて、それを魔物が拾ったら大変だ。
そんなことを考えていたら、ダイが二体とも倒してしまった。
ホブコブリンが煙と化して消えると、その場にドサドサっと武器や装備が落ちた。
「おっ、ドロップ・アイテムだ!」
思わず声を上げたのだが、バグベアーの時のコップとは、また少し現れ方が違うかな。
兵士達の装備な訳だからな。
こういうのはドロップ・アイテムとは言わないか。
どっちにしろ貰っていくけどな。
その後、ジャイアントラットを数匹倒した所で、とりあえず帰る事にした。
ダンジョン入り口に着いたのは、日が沈んでかなり経った時間だった。
辺りは既に真っ暗だ。
それから俺達は、数日間ずっとダンジョンに入り浸った。
それで地図を作成したり、色々と検証したりと夢中になった。
そんなある日の事だ。
領主からの使いが来た。
その内容は「五日後に“勇者”が来る」と言うもの。
俺は驚愕の内容に「は?」っと言ったきり固まった。
俺と同様に、獣魔達もこちらに視線を向けたまま固まっている。
勇者なんて魔物なら誰でも知っている。
特別な加護を持った人間のことだ。
魔物の絶対的な宿敵であり、絶対に遭遇したくない相手である。
勇者は魔物を駆逐し、あの魔王さえ死へ追いやると言われる人間。
魔物に唯一対向出来る人間だ。
そいつがここへ来るのか。
「冗談だよな?」
俺がそう聞けば、返ってきた言葉は「本当です。本当に勇者様がダンジョンを討伐しに来ます」と使いの者は言う。
俺達が夢中になっていた、あのダンジョンの討伐が目的か。
折角楽しい場所を見つけたのに、まさか速攻で討伐とはついてない。
しかも逢いたくない勇者かよ。
まさか今の時代に勇者が居たなんてな。
ということは、魔王も復活しているのか。
次の投稿は明日の夕方の予定です。
面白かったら「いいね」ボタンよろしくお願いします。
(評価ポイントとかブックマークとは違います。ランキングに何ら影響しませんけど是非!)