38 ダンジョンを見つけた
ダイがダンジョンについて説明してくれた。
いわゆる成長する地下迷宮のことだが、迷宮内では魔物が発生する。
だが倒すと煙の様に消えてしまい、後に屍体は残らない。
過去に幾つかダンジョンが発生したらしいが、その全ては人間の勇者によって討伐されたという。
そこで疑問が生じる。
「ダンジョンって迷宮だろ。それを討伐ってどうやるんだ」
俺がまっとうな質問をするとダイ。
『そんなの勇者に聞け』
要は知らないのだな。
しかし、ダンジョンは魔物と同じに見られているらしい。
だから討伐出来ると。
実際に討伐したと言うなら、そうなんだろう。
ラミとハピにもダンジョンについて説明したところ、とりあえず中の魔物を全て倒せば討伐出来るのではとなった。
俺も単純にそう考えて、皆で穴の奥へと進む事にした。
少し進むと分かれ道となる。
左方向は少し下り気味で、右方向へ行くと逆に登り坂だ。
迷宮というくらいだから、こんな枝道が幾つもあるのか。
そうなると討伐にかなり時間が掛かるな。
「ダイ、右の登り坂へ行ってみよう」
『分かった。しかし何も臭わないな……』
そしてほんの数十歩進んだ所で、地面に違和感を見つけた。
「ダイ、待て!」
『どうした?』
俺はしゃがみこんで、カンテラをその違和感に近付ける。
そしてその場所を指でなぞる。
「ここだけ地面が四角く平らになってる」
俺の後ろからラミとハピも、興味ありげに顔を覗かせる。
人間の足裏の倍ほどの大きさだ。
「ん、待て。押せるようだな」
俺はその場所を手で押してみた。
すると――――
シュンッと音がして、矢が飛んできた。
「ひえっ!」
ラミがまともにその矢を受けた。
俺達は一斉に戦闘態勢に入る。
恐らく、今までで一番早い反応だったと思う。
「どこからだ、誰か見たか!」
攻撃されたのだが、どこから矢を放ったのかが分からない。
敵の気配さえ無いのだ。
そこでラミが、左肩に刺さった矢を引抜きながら言った。
「あそこだよ、上。あそこに隙間があるだろ」
カンテラをかざしながらラミが指差す所を見ると、確かに天井部分に隙間がある。
ナイフ片手にその隙間を覗き込むと、中に矢を打ち出す装置があった。
「大丈夫だ。もう矢はセットされてない。一矢で終わりだ」
そこでダイが念話を伝えてきた。
『トラップっぽいな』
その意見に俺も同意する。
ダンジョンってトラップまであるのか。
そうなるとかなり危険だな。
「ラミ、傷は大丈夫か?」
「毒が塗ってあったが、私には効かないようだな。旨いもん喰えば直ぐ治る。だから大丈夫」
魔物である強みだな。
人間だったら死んでいてもおかしくない。
だがトラップがあることで、進む速度が一気に落ちてしまった。
トラップの警戒はかなり面倒な作業だ。
「ああ、やってられないな。私に任せろ!」
急にそんなことを言ったラミが、俺達の横をすり抜けて前に出ようとする。
「ラミ、当たってる、当たってる」
強引に横を抜けて先頭に躍り出ると、そのまま何の警戒もせずに突進して行く。
「おら、おら、おら、トラップがどうした!」
ラミに矢が、投石が、火が浴びせられる。
だがラミアクラスの魔物には、その程度のトラップは大して効かないようだ。
俺やダイなら避ける選択をするトラップ攻撃でも、ラミは真正面から受けている。
盾さえ使わない。
何の為の盾なんだか。
そんなトラップ地帯も、次の分かれ道でなくなった。
またしても左右に分かれる、上下坂道だ。
迷わず右の登り坂を選んだ。
トラップはない。
だからラミは蛇の尻尾をニョロニョロさせながら、物凄い速度で突き進む。
途中で魔物に遭遇したらしいが、あっという間に煙となって消えて行く。
そして遂に突き当りらしい空間が見えてきた。
まるで部屋のように、しっかりした壁や天井が見える。
入口には扉が付いているが、開けっ放しとなっている。
その部屋へと、躊躇せずに突撃しようとするラミ。
「あ、待て!」
俺の制止が聞こえているのかいないのか、ラミアが部屋へと入った瞬間だった。
扉がバタンと音を立てて閉まった。
慌てて扉の取手をつかんでみるが、引いても押しても開かない。
「くそっ、開かないぞ。これもトラップなのか」
俺が苦労していると、ダイが『ブチ破れ!』と念話を伝えてきた。
そうだった、俺は何を行儀良くやってんだか。
俺は足の裏を思いっきり扉にぶち当てた。
一回じゃダメだ。
二回、三回とぶち当てて、何とか扉を破壊した。
「ラミ!」
そして部屋へ突入すると、部屋の中央で立ち尽くすラミがいた。
俺の声が聞こえたのか、ラミがゆっくりと振り向く。
見た感じだと、矢が刺さったり炎で焼かれた痕はないな。
どうやら無事らしい。
「閉じ込められて何かされたかと思ったぞ」
そう俺が言うと、ラミがボソリと言葉を返す。
「ああ、バグベアーが出て来たな」
バグベアーといえば、ゴブリンとかの亜種で、武器を使う魔物だ。
個体差はあるが、中には恐ろしく強い個体もいる。
決して侮れない魔物だ。
「バグベアーか、それでそいつはどこに?」
俺が入った時には、部屋の中には何もいなかった。
するとラミ。
「何かな、壁から発生してきたんだよ、そのバグベアー。それでな、先制攻撃したらよ、一撃で煙となって消えちまったんだよ。まあ、それでもまた現れるかなって思ってな、待ってるんだけどな、全然現れないんだよなぁ」
いや、もう現れないだろうな。
これは部屋に一人だけ閉じ込めて、そいつに魔物をぶつけるトラップなんじゃないか。
だがな、ラミアのレベルじゃバグベアー程度じゃ、役不足だったようだな。
ん?
部屋の端っこに何かあるな。
「ラミ、そこに何か落ちてないか」
ラミが「おう、確かに!」と言いながら、それを拾う。
ラミが拾った物を見たダイが、念話で伝えてきた。
『そういえば、ダンジョンの魔物は時々、ドロップ・アイテムと呼ばれる物を落とすそうだ』
ドロップ・アイテム、つまり戦利品なのだが、ダンジョンの魔物は時々、戦利品を落とすんだとダイが説明してくれた。
次の投稿は明日の昼頃の予定です。
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