37 ルナという子が暴走した
一応ハピに了承を貰ってから、ルナが触ることを許可した。
「し、失礼します……」
そう言って、荷物を置いて腕まくりをする。
そしてゴクリとつばを飲み込むや、ルナがハピの翼を触り始める。
「す、凄いです。野生の鳥さんと同じ手触りなんですねっ」
ハピは何故か腕を組んで微動だにしない。
ただ必死に何かを我慢している様子だ。
「ハピ、大丈夫か?」
声を掛けてみると。
「へ、へっちゃらですわっ」
威勢良く返ってきたが、微妙に震えているし、顔が引きつっている。
ルナはさらに下半身の鳥部分、脚の爪を触り始める。
ここまではミリーを含めて、そのパーティー仲間は微笑ましい表情で見守っていた。
「爪はカッチカチですぅ。それに凄く尖ってるんですね」
柔らかい爪なんかないだろ。
「あの、人の部分も触っても良いですか?」
ミリーの仲間の女の子達が、この辺から眉間にシワを寄せ始める。
ハピはやけくそ気味で、無言のまま小さく首を何度も縦に振る。
するとルナはハピの人間の胴体部分へと手を伸ばす。
「ふひっ! はうふっ! おふっ!」
ハピが変な声を上げ出した。
「凄い柔らかいです……」
遂にルナは禁断の……
「待てっ、そこはダメだろ!」
完全にアウト!
さすがに止めに入った。
何でハピも抵抗せずに、必死に我慢してるかな。
その時だ。
「おお~~」
周囲から感嘆の声が漏れる。
そこで気が付いた。
周囲に人だかりが出来ていることを。
集まっているのは冒険者の野郎どもだ。
拍手してる馬鹿もいる。
「はい、ルナ終わりだ。終了。ほらっ、てめえら、見世物じゃねえんだ、散れ!」
俺は必死に見物人達を散らした。
そして名残惜しそうにするルナに忠告した。
「お前、大胆な事するよな。特に冒険者ギルドで今のお触りは危険だぞ。それ位分かるだろ?」
しかしルナは俺の忠告も何のその。
「すいませんでした。それじゃあ、次はそっちの蛇女さんもお願いしますね」
全く現状が分かってないようだ。
しかもラミが堂々と一歩前に出る。
「さあ、どこからでも掛かってこい。私はハピよりデカいぞ」
腰に手をあて胸を張りだしたよ、こいつ。
帰ろうとしていたギャラリーから、再び歓声が上がる。
それに応えるように手を振るルナ。
他のパーティーメンバーの三人は、呆れた様子で口をポカーンと開けている。
知り合ったばかりだがしょうがない。
「おりゃ」
ルナの頭にチョップを叩き落とした。
「痛っ!」
「だからな、同性でも人前でのお触りはダメだ。見ろ、周りの女に飢えた野郎どもを!」
そこで初めて周囲の様子をマジマジと見たルナが、ブルッと身震いして言った。
「何、この人達。恐っ、鳥肌たちましたっ」
まだまだ若いな。
この先が心配になってきたよ。
このパーティーメンバー含めてな。
彼女らと別れてから、街で食材の買い出しをしてから家に戻った。
家に戻るとダイが何かを察知したようだ。
鼻をクンカクンカしながら念話を送ってくる。
『ネズミの臭いがするな』
俺達が警戒しながら家へ近付くと、物陰からサッと逃げる影。
ネズミだ、間違いない。
ただしジャイアントラットという、ショートソードほどの体長の魔物だ。
裏庭の方へ逃げて行く。
確か掘削場所がある方向だ。
掘削場所というのは、かつてこの家の住人がガーネットを掘っていた所。
今は掘っていないから、板で出入り出来ないようになっている。
まさかあの“穴”に住み着いているのか。
あり得るな。
こっそりと歩いて後を追って行くと、俺の予想通りだった。
ジャイアントラットが、板の隙間から穴の中へと入って行くのが見えた。
ジャイアントラットの肉だが、人間達は好んで食べないが俺達は普通に喰う。
あまり旨くはないが、食えなくもないからな。
しかし人間の中でも、冒険者は食べるって聞いた事があるか。
食えるなら狩っておく。
「食料の確保だ。根こそぎ狩るぞ」
俺の掛け声に、ちょっと面倒臭そうに皆がついて来る。
近くで見ると、かなり朽ち果てた感はある。
そういえは俺達が来てからも、ここは手付かずだった。
穴の出入口の板を外し、中へ入ろうとして気が付いた。
「なんだ、結構この穴、奥が深いんだな」
奥が暗くて見えないほど深い。
「ハピ、家からランタンと油を持って来てくれるか。それとロープも必要だな」
どれくらい奥まで続いているかも分からないし、どれ程の数がいるかも知らない。
ある程度の装備は必要そうだ。
「ラミは馬車から装備一式を持って来てくれ」
たかだかジャイアントラットなのだが、それが一度に十数匹で襲って来たら、さすがに無傷ではいられない。
弱い魔物でも数は暴力だから、油断は禁物だ。
そして装備も整い中へと入る。
一列じゃないと入って行けない狭さだ。
ダイが先頭で俺が二番、その次にハピ、殿はラミだ。
姿勢が低いダイが先頭なら、二番目の俺でも槍で援護できる。
ちなみにラミは蛇の尻尾があるから、後ろが歩き辛く、どうしても最後尾となる。
穴の奥からは何も聞こえない。
不気味である。
「ダイ、何か臭いはしないか」
そう聞いたが、色々な魔物の臭いがするらしい。
ということは、住み着いているのはジャイアントラットだけじゃないって事か。
何だか嫌な予感しかしないのだが。
ちょっと奥へ行った所で、ジャイアントラットが襲って来た。
たったの一匹だ。
瞬殺だな。
ダイが一噛みで倒す。
しかし、その後が問題だった。
屍体が消えたのだ。
煙の様に。
誰もが言葉を失った。
「ダイ、どういう事だ?!」
思わず叫んだのだが、ダイが驚いている所を見るに、ダイも予想外らしいな。
だがダイは俺の疑問に答えてくれた。
『こいつは珍しいもんを見つけたかもしれないぞ。こいつは多分だがな、“ダンジョン”だよ』
「ダンジョンだと?」
俺はその言葉を聞いた事がある。
だが、それは噂話でしかないと思っていた。
実在するとは思ってもみなかった。
それが本当だとすると俺達は今、その伝説上の遺物の中に居ることになる。
次の投稿は明日の昼の予定です。
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