36 モフモフはもう一つあった
ハピが空中に舞い上がり、巨大毒ガエルに向かってトルネード魔法を放った。
しかしながらトルネードに巻き込まれたカエル達は、腹を地面から浮かせることは出来るが、中々空中まで持ち上げることが出来ない。
せいぜいゴロンと横倒しにさせるくらいが精一杯だ。
巨大毒ガエルはやはり重かった。
それに先ほどの子供ガエルよりでかいしな。
トルネード魔法の風の力じゃ足りなかったようだ。
「重いですわね。この魔法じゃ持ち上がりませんわ!」
ハピが悔しそうだ。
二十匹近い巨大魔物はもう目の前まで来ている。
周囲は湿地帯だから、ここはまた木に登って時間を稼ぐか―――いや、待てよ。
そこで俺は湿地帯に手を突っこんでみた。
それを見たラミが木に手を掛けて俺を急かす。
「ライ、こんな時に何してるの。ヤバいよ、早く木に登ろう!」
そこで俺はニヤリとしてから言った。
「良い手を思いついた」
「何を言ってるのですわ?」
「早く木に……良い手?」
『何をする気だ』
三人が声を掛けて来るが、巨大毒ガエルはもうすぐそこまで来ている。
「説明は後だ。全員湿地帯へ潜れ。ハウリングをやる!」
俺はそう言って首から上の変身を始めた。
そこでハピが「なるほどですわ!」といって真っ先に湿地帯の水の中へと潜る。
それを見たラミとダイも慌てて水に潜る。
先頭の巨大毒ガエルが十数歩の所にドスンと着地した。
衝撃で木々が揺れ地面が凹み、水分を含んだ地面から水が噴き出した。
次々に跳躍して俺の側に着地していく。
そして口を薄く開けて舌攻撃を出す寸前。
俺は雄叫びを上げた。
「ヴォオオ~~~~~ン!」
次の瞬間、巨大毒ガエル達が大きく口を開け、両手で耳を抑え始めた。
苦しそうだ。
あっという間に鼻と口から出血が始まる。
俺はハウリングをなおも続ける。
すると巨大毒ガエルの両目からも鮮血が垂れ始めた。
近くにいた野鳥がポトポト落ちていく。
遂にカエル達は、次々と横倒しになって痙攣していく。
残り数匹になったところで俺はハウリングを止め、急いで湿地帯に潜る三人を助けに行った。
首根っこを掴んで水面へと引っ張り上げる。
「っぷは~、溺れ死ぬかと思ったぞ!」
「ウオッフ、カハッ、ハッ、ハ~」
ラミとダイは何とか大丈夫のようだが、ハピがぐったりしている。
「ハピっ、しっかりしろって!」
白目を剥いている。
口元に耳を当てると息はしている。
あぶね~、仲間を殺すとこだったよ。
「ほらハピ、起きろ、目を覚ませ!」
そう言いながら、俺はハピの頬を引っ叩く。
魔物なんだからこれくらいがちょうど良い。
バシバシとやっていると、頬を押さえてハピが急に飛び起きた。
「な、な、何をやりやがってるのですわ!」
「良かった、どうやら無事のようだな」
「無事じゃないですわっ、頬が痛いですわよ!」
「よおし、まずは生きてるカエルの止めを刺して、討伐証明の舌を切り取ろう。そうだな、皆で手分けしようか。二十匹はいるから一人あたり最低六匹な」
「折角の美人顔が台無しですわ」
文句を言いながらも作業に取り掛かって行った。
全部で二十二匹いた。
その前に倒した子供ガエルも入れると二十六匹、銀貨で換算すると三十九枚だ。
やった、大儲けだ!
ついでに落下した野鳥を回収して食事用とした。
そして一晩を明かして、翌日の朝には街へと向かった。
昼頃にはエルドラの街へと到着。
直ぐに冒険者ギルドへ向かい、いつものように獣魔は外の馬車で待たせ、俺が一人で受付へと行った。
討伐証明部位を提出し、銀貨三十九枚を受け取り依頼完了だ。
そして今日は帰ってゆっくりしようと、冒険者ギルドを出ようとしたところで声が掛かった。
「ライさ~ん」
この声は……
「ライさん、久しぶり~~」
ライカンスロープの少女、ミリーだった。
「おう、元気してたか」
ミリーは笑顔で答える。
「うんうん、元気してたよ~。あのさ、実はね、仲間が出来たんだよね~」
仲間……まさかライカンスロープが他にもいたのか?
「ちょっと待って、ライさんに紹介するから」
そう言って依頼掲示板を眺める三人を呼び寄せるミリー。
そして俺の前に立たせると一人ずつ紹介していく。
「この子はルナで魔術師、こっちの戦士がミサ、この子は弓士のカーラね」
紹介された三人はまだ若い女の子。
魔術師は人間の女の子だが、他の二人は狼系だか犬系の獣人だ。
しかし女ばかりだとちょっと心配になる。
逆に男がいても心配だけどな。
三人の少女達が俺に挨拶してくるので、俺も軽く自己紹介してそれに応える。
「この四人でパーティー組んだんだよ。“満月戦闘団”って言うんだよ」
恐ろしい名前を付けたんだね。
前は確か“桃色の月”とかっていうエロ可愛らしい名前だったよね。
まあ察するけどな。
「つ、強そうな名前付けたな……」
「さすがライさんっ、分かってくれたんだ。うれしい~」
「お、おう」
そこでミリーが「あっ」と声を上げる。
何事かと思えば。
「ライさん、銀等級……」
ああ、そういうことか。
「ああ、色々とあってね。今じゃ銀等級冒険者だよ」
「へえ~、凄いんだ~。私も早く追いつかなくちゃ」
「ミリーなら直ぐだよ」
「あれ、そう言えばダイちゃんは?」
「表にいるよ、会っていくか?」
「うん、モフモフしたい!」
四人の少女を表に停めてある馬車へと案内する。
「ひゃっ」
「ひ~」
「魔物っ!」
三人の女の子達が獣魔を見て驚く。
しかしミリーはさすがに驚かないな。
自分も魔物だからな。
という事は、ミリー以外は普通の女の子のようだ。
ライカンスロープじゃないのか、少し残念。
そこでミリーは俺に聞いてきた。
「もしかして最近の冒険者の間で噂になってる魔物使いって、ライさんのことなの?」
多分それは俺の事だと思うが、そんなに噂になってるんだな。
「ええっと、どうだろうな。だけどこの街で“獣魔”を使っているのは俺くらいだと思うけどな」
ミリーが含みのある笑顔になる。
「へえ~~、“獣魔”で魔物使いねえ~。ふ~ん」
「ダ、ダイ、ミリーがモフモフしたいってよ」
話を逸らしてやった。
「ワオ~ン」
ダイが荷台から飛び降りてミリーの前でゴロンと腹を見せた。
だらしない奴め……
そう言えばミリーがパーティー組んだってことは、俺達のグループには入らないってことだな。
しょうがない。
ミリーがそれでいいなら俺がとやかく言う資格はない。
ミリーがダイのモフモフを堪能していると、魔術師のルナが俺に話し掛けてきた。
「あの、私も触っても良いでしょうか……」
何だ、モフりたいのか。
ダイはモテモテだな。
「ああ、モフモフしたいのか。いいぞ、ダイも喜ぶ」
しかしちょっと違った。
「いえ、モフモフじゃなくて、そっちの鳥さんに触って見たくて……」
ハピの方かよ!
面白かったら「いいね」ボタンよろしくお願いします。
(評価ポイントとかブックマークとは違います。ランキングに何ら影響しませんけど是非!)