35 子ガエルだった
巨大毒ガエルの群れは圧巻だった。
あの巨体が群れで飛び跳ねると、地面が揺れてまるで地震のようだ。
まっすぐにこっちに向かって来る。
あの数と戦うのはちょっと躊躇するな。
何せ奴等は毒持ちだ。
皮膚に触れただけで毒に侵される。
それがあの数で来られると脅威となる。
これは一旦は逃げた方がよさそうだ。
そこで退路を探すが、今いる場所は陸地だが、周囲を見れば湿地帯だ。
つまり逃げるには、必ず湿地帯に足を踏み入れることになる。
そうなると間違いなく追い付かれる。
もしかして詰んでないか。
ハピは空中に逃げれば良いが、俺達には翼はない。
そこで思いつく。
木の上に登れば良いかと。
そう思って木の上を見ると、俺達の上空に沢山のデカバエが飛んでいた。
もしかして、このハエにカエルの群れは集まって来たんじゃないのだろうか。
さらにこのハエって、焼いた肉の匂いに群がって来たんじゃないのか。
そうなると……
俺を含めて全員が肉の塊を咥えている。
もしかしてこの肉を捨てれば、逃げ切れるんじゃないないだろうか。
とにかくまずは木に登ってからの話だな。
俺達は近くの手頃な木の上へ退避すると、カエルどもはやはり登ってこれないようだ。
しかしハエも俺達に付いて、高い所を飛んでいる。
試しにハエを一匹、地上に叩き落としてみた。
すると物凄い勢いでカエルの舌が幾つも伸びてきて、一匹の落ちてくるハエの争奪戦となった。
やはりか。
俺は咥えていた肉を手に持ち、口を開いた。
「えっと、あの巨大毒ガエルなんだがな。俺達の頭上に集ってるハエを追っているみたいなんだよ。さらにだ、ここからが重要だ。そのハエは俺達が口に咥えている、この肉の匂いに釣られて集まって来ているみたいなんだよ。何が言いたいかと言うとだ、肉を捨てろ。そうすれば全て解決する」
俺は手に持った肉をズイッと前に出す。
少しの沈黙が起きた。
悩んでいるようだ。
そこで俺は踏ん切りを付けさせてやろうと、持っていた肉の塊をカエルがうごめく地面へと投げ捨てて見せた。
途端にデカバエの数匹が、肉を追って地表へと飛んでいった。
するとカエルどもは、こぞってハエを捕食していく。
これでこいつらも解ってくれるだろう。
まずはラミが咥えていた肉を手に取って、ジッとそれを見つめている。
予想よりも旨かったから、捨てるのは辛いのだろう。
でも、解ってくれ。
これが最善の策なんだ。
ラミが肉から視線を外して俺を見た。
ん?
ラミの様子がおかしいな。
「あっ!」
と思ったら、ラミが突然凄い形相で肉に齧り付きやがった。
俺と視線を合わしたまま、必死に肉を食らい続けるラミ。
こ、こいつ……
それを見たハピが「ハッ」とした様子で、自分の咥えた肉を両手掴みで食らい始めた。
「ガウウッ」
ダイ、お前もか!
しばらくすると、胃袋に肉を収めて満足そうに指を舐める三人の魔物の姿があった。
デカバエは、肉が無くなっても直ぐには消えないようだ。
何匹かは叩き落としたのだが、数が多すぎて全てを叩き落とすのは諦めた。
だから当然巨大毒ガエルは、俺達の登っている木の下にまだいる。
半刻ほど経過した頃、デカバエと共にカエルも何匹かはいなくなったが、四匹の巨大毒ガエルはまだ残っている。
そこで俺は話を切り出した。
「四匹ならやれなくはないと思うがどうだ?」
そう言って皆の顔を見る。
「そうですわね。少し体を動かしますですわ」
そう言ってハピがオーク製の槍を手にして、翼をひるがえして空に舞い上がって行った。
「そうだな。私も冒険者なんだから、少しは稼がないといけないからな」
そう言ってラミが槍を構える。
そしてダイが念話を伝えてきた。
『俺は触れずに攻撃する手立てがない。だからここで見物しているよ』
こいつ、自分だけ楽しようとしてるな。
「なあ、ショートソード持ってるよな。ダイならあれで戦えるよな?」
ダイが眉間にシワを寄せた。
『わ、分かった。頑張るか……』
ダイはショートソードを咥えると、あちこちの木を蹴りながら、徐々に地上へと降りて行く。
そこで俺は大きな声で叫んだ。
「一人一匹ずつ倒すぞ。それがノルマな!」
そう言って俺も木から降りて行った。
今回ラミとハピには、槍を二本ずつ持たせている。
それ以外に自分の武器も持っているから、槍は二本とも投げてしまっても問題ない。
俺達が木から降りて行くと、早速カエルの舌が伸びてきた。
思ったよりも遅い。
簡単に避けられるじゃねえか。
まさか、軌道が変化するとかか?
変化なし。
地上に着地すると、今度は茶色の巨体を跳躍させて、大口を開けて飛び掛かって来た。
丸飲みするつもりだ。
だが遅い……
もしかして毒を飛ばしてくるのか!
飛ばしてこない……
俺は歩いてカエルの大口を避けた。
なんだ、実はこいつ弱い?
大口を開けた巨大なカエルは、俺がいなくなった地面に突っ込んでいる。
そこへ俺は槍を突き刺してみた。
槍は簡単にカエルの体を突き抜ける。
カエルはというと、ビクンビクンと二回ほど痙攣をしたかと思ったら、その格好のまま動かなくなった。
「あれ、これで終わりか?」
終わりのようだ。
巨大毒ガエルの目から生気が無くなっていた。
残りのカエルは三匹だが、突然ゲコゲコ鳴き始めた。
しかし、鳴いたところで強くなるわけでもない。
やはり呆気なく決着はついた。
ハピとラミも槍の一突きで終わったようだ。
ダイを見れば、ショートソードでカエルの喉をカッ斬ったみたいで、やはり一撃で終わったみたいだ。
俺達の勝利だな。
だがそこでカエルの死骸に違和感を見つけてしまった。
カエルなのに尻尾がある。
まさか、オタマジャクシからカエルになったばかりなのか。
弱かったと感じたのはその為か。
もしかしてゲコゲコ鳴いたのは、親に助けを求める為とかじゃないよな。
俺は周囲を見まわす。
来る。
ダイも気が付いたようだ。
『ライ、気が付いたか。親ガエルが来るぞ』
遠くに跳ねながら向かって来る、巨大な物体が見え隠れする。
「ああ、そうのようだな。ここからが本番みたいだ」
その数は先ほどの数の比じゃない。
二十匹はいるんじゃないだろうか。
「ハピ、お得意のトルネード魔法を食らわしてやれ!」
この距離ならトルネード魔法で数を減らせるかもしれない。
ここで対峙するしかなさそうだ。
次の投稿は明日の夕方頃の予定です。
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