33 銀等級冒険者になった
家の値段交渉なんだが、結局は交渉さえしてもらえなかった。
俺の冒険者章の鉄等級を見て門前払いだ。
しかし俺は何としても家を手に入れたい一心で、なんとか食い下がる。
そんな事をしていると、外が騒がしくなってきた。
チラリと外を見れば、俺の乗って来た馬車のようだ。
ということは獣魔達か。
どうせ商業ギルド関係者が「魔物がいるぞ」とか騒いでいるのだろうな。
「ちょっと悪いが、俺の連れの獣魔が騒ぎになっているみたいだから、一旦席を外すぞ」
そう言って受付から離れる。
外に出てみればやはりそうだ。
剣を抜いた商人風の人間どもが俺の馬車を取り囲んで騒いでいる。
「何で街中に魔物がいるんだ」
「誰か衛兵を呼んで来い!」
「ハーピーに蛇女に狼もいるぞ」
うるさい人間どもだな。
獣魔の札が見えないのかよ、ったく。
「おい、何やってる。それは俺の馬車だ。それにその魔物は獣魔だ。首の札を良く見ろ」
集まった人間達が俺を見た後、獣魔達の首から下げている札を見る。
「あ、本当だ。獣魔の札を下げている」
「確かに……間違いない」
「なんだ人騒がせな」
勝手な事を言ってやがる。
「分かったらさっさと散れ、邪魔だ!」
ブツブツ言いながら散って行く人間達。
俺は再び受付へと戻ると、受付嬢の表情が引きつっている。
「騒がせて済まなかったな。さて、さっきの話の続きだが……」
俺がなおも交渉しようとすると、受付嬢が慌てるように俺の言葉を遮る。
「あの、もしかして“魔物使い”のライ様でしょうか?」
どうしたんだ、“ライさん”だったのが“ライ様”になったぞ。
「ああ、俺はライだが、それがどうした」
「し、失礼しましたっ。ぶ、物件のことでしたね。も、もう少し話をお聞きしましょう。少しお待ちを!」
何だか良く分からないが話を聞いてくれるらしい。
それに急に受付嬢が受付のおっさんに変わってしまっている。
何故か受付嬢が俺の担当を変わってしまったのだ。
すると先ほどとはうって変わって、値下げ交渉に応じてくれた上に、分割支払いまで受け付けてくれるという。
通常は保証人か担保が必要らしいが、それ無しでも売ってくれるという。
「ちょっと待て。俺が今支払いできるのは銀貨八十枚くらいだぞ。それでも良いのか?」
「ええ、全然構いません。ライ様は金貨五十枚までは信用買いできますので」
金貨五十枚までって、銀貨に換算すると五百枚まで買い物が出来るのか!
驚きだ、っていうか何でだ?
まさかオークとの取引の件なのか。
しかしあれはまだ始まってもいないしな。
それなら子爵の客人だからか。
でも客人だからって借金出来るってのも違う気がする。
「ちょっと聞いて良いか」
「はい、なんでしょうか」
「何でそんなに俺を優遇してくれるんだ?」
するとちょっと困った表情をしながらも説明を始める受付おっさん。
「えええっと、それはですね。ライ様の情報をギルドが掴みましてね。ライ様の将来を見据えての投資みたいなものです。安心して商業ギルド、エルドラ支店をご利用いただければと思います」
情報ってのはオークの取引のことなのか、子爵の客人だということなのか、あるいは両方かもしれないな。
ま、そう言うことなら利用させてもらうか。
「なら、前金の銀貨八十枚だ。これで売ってもらえるんだよな」
「はい、それでは手続きをしますので、少々お待ちください」
結局、家の値段は銀貨にして二百枚値引きの四百枚に値下げ。
そして五年以内に残金の銀貨三百二十枚を完済すれば良いという契約になった。
これが破格の契約だった事を後になって知る。
家の権利書を受け取り、俺達は折り返し我が家となった場所へと目指す。
これで住むところは問題なくなった。
あとは日々の生活をしていく金を稼がないとな。
今日の所はこの新しい家の掃除と修理をするか。
元々あったカーテン等を雑巾代わりにして、総出で掃除をした。
取りあえず寝床の確保、そして炊事場の掃除だ。
だが、獣魔三人は掃除なんかしたことが無い。
そこから教えるのか……
翌朝には冒険者ギルドへと依頼を探しに向かった。
ギルドの到着したところで獣魔達は外の馬車で待たせ、俺一人が室内へ入って真っすぐに依頼掲示板へと向かう。
すると受付カウンターから声が掛かる。
「ライさん、良い所へ来たわ。ずっと待ってたのよ!」
いつもの受付のお姉さんにそう言われた。
ギルド長が呼んでいるという。
また個別の依頼かと思いきや、ギルド長の部屋へ行ってみると全然違った。
「ライ、待っておったぞ。お主じゃがな、冒険者ランクは銀等級に昇格じゃ」
突然の言葉に俺は「はあ?」と口から漏れた。
「領主様からの直々の推薦じゃな。お屋敷で腕前を見せたそうじゃな。それに難しい依頼をこなす力量があるのに、その鉄等級はおかしいと、領主様の側近からクレームがついたんじゃよ。それに人物の信用度も領主様が後ろ盾なら問題ないしのう」
ああ、なるほどね。
しかし、いきなり銀等級は有難いな。
銀等級ともなれば、結構な討伐依頼を受けられる。
「それは助かるな、有難く受ける」
そう言って新しい冒険者章を受け取った。
その足で依頼掲示板へと向かう。
銀等級の依頼なんかワクワクするな。
実入りのよさそうな依頼を探すが、銀等級でもそれほど良い依頼などなかった。
とはいっても報酬は鉄等級とは段違いだがな。
「しょうがない、これにするか」
俺はある討伐依頼を受けた。
街から少し離れた場所にある湿地での期間限定の討伐依頼だ。
対象の魔物は『巨大毒ガエル』だった。
この時期になると発生する魔物らしく、湿地帯は採取依頼が多く出る場所だけに、こうして短期的に依頼を出して魔物を一掃するのだそうだ。
体長は人間の身長二人分の長さの、巨大な毒を持ったカエルだ。
動きは鈍いようだが、触れただけで毒で皮膚が溶けるらしい。
毒と言うより酸だな、それ。
ラミみたいに毒を飛ばしてこないだけましだ。
討伐報奨金は一匹に付き小銀貨十五枚だ。
それくらいしか良さそうな依頼がなかったのだ。
護衛依頼は確かに金になるが、数日かかるし俺達には向いていない気がする。
俺は馬車へと戻り、獣魔達に今回の依頼の説明をした。
次の投稿は明日の昼過ぎの予定です。
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