31 食事会が大騒ぎになった
俺が言うのもなんだが、さすが魔物の本気の喰いっぷりだ。
運ばれてきた料理は、あっという間になくなっていく。
食うのに夢中になってたら、何時の間にかに俺達以外の客が沢山入っていた。
そうなると俺達は、周囲から注目を集め始める。
「なあ、視線が集まってるが大丈夫だよな」
俺がつぶやくと、ダイから返答が返ってきた。
『別に見られて困る様な事はないだろ。放っておけ』
念話は食べながらでも送れるのか、驚きだ。
しばらくすると、ガラの悪い連中が入って来た。
戦士風の男が二人と魔法使い風の男が一人、そして大きな盾をもった戦士の男の合計四人だ。
全員が冒険者章を首からさげている。
銀色だ。
ベテラン冒険者ってわけだ。
嫌な予感しかしない。
さらにその嫌な予感が真実味を帯びてきた。
そいつらは、俺達のテーブルの隣りに座りやがったのだ。
確かに込み合ってきていて、座る席は限られてはいる。
でもな、俺達の隣りに座るとか勘弁してくれよ。
文句を言っても始まらないので、俺はなるべく気にしないようにしていた。
しかし、俺の嫌な予感は別の方向からやって来た。
急に入り口付近が騒がしくなった。
客からの声が聞こえてくる。
「おい、なんだありぁ?」
「魔物、だよな」
「オークだぞ。何でここに……」
人混みの隙間から見えたそれは、オーク兵の集団だった。
テーブルで飲んでいた人間達が、オークを見ようと殺到している。
「人間、そこ、どく、邪魔だ」
急に人垣がサーっと空いた。
オーク兵が邪魔な人間をどかす為に、剣を抜いたのだ。
慌てて店主が駆け付ける。
「お客さん、け、剣はご法度っすよ。しまって下さいな」
オーク兵は鼻を「ふんっ」と鳴らしてから剣をしまう。
そして適当に空いたテーブルを見つけ、店主に言葉を掛けた。
「あのテーブル、使う、回り人間、どかせ」
恐ろしい事を言いやがった。
オークの人数は十人近くいるから、確かにテーブルひとつじゃ足りない。
だからといって、他の客をどかすのは駄目だろ。
これはトラブルになる前に、俺がオーク兵に教えてやるか。
そう思って立ち上がろうとした時だ。
「おい、そこのブタ鼻野郎。ここは人間が出入りする場所だ。悪いが出て行ってくれるか」
声は俺達の隣りのテーブルからだ。
“人間が出入りする場所”というのが引っ掛かるな。
店内の視線が隣のテーブルに集まる。
そのテーブルの男の一人が、すっくと立ち上がる。
するとオーク兵が、ズンズン歩いて来た。
そして立ち上がった男の前に立つ。
「おい、今言った、お前か?」
「そうだが、謝罪は受け付けないぞ」
「人間、死にたいか」
おい、おい、おい、俺達の隣りでそういうこと止めろって!
人間のグループの他の三人も立ち上がった。
臨戦態勢だ、
あああ、くそ、折角の食事会が!
「おいっ、てめえら。俺達の食事の邪魔すんじゃねえっっ!!」
いかん、カッとなって怒鳴ってしまった。
静まりかえる店内。
そこでオーク兵と目が合う。
「ライ殿!」
オーク兵が驚いて俺の元に歩み寄るや、急に跪く。
そして。
「ライ殿、いる、気が付かない、失礼した」
そこで隣りの男達が、ふざけた言葉を差し入れてきた。
「おっと、魔物の親分も居たようだな」
「それってよぉ、魔王じゃねえか」
「ありゃ、それじゃあ討伐しなくちゃいけねぇな」
「そりゃ面白いな、ギャハハハ」
それには獣魔達がお怒りになった。
「おい、人間。討伐できるもんならしてみろや、あぁ?」
口火を切ったのはやはりラミだ。
蛇の尻尾の先を震わせている。
「あぁ? 蛇女、喧嘩売ってんのか」
男が近付いて来る。
そこへハピが参戦。
「どうして人間って、弱い癖に粋がるんですの。滅んでしまえば良いのですわ」
ハピが立ち上がる。
これは避けられなくなったな。
そしてダイ―――はまだ食べている。
オーク兵が集まって来た。
十人もいれば、この人間どもを取り囲める。
予想通りの展開で、あっという間に男達は囲まれた。
そうなるとさっきまでの威勢は何処へやら、男達はビビり出す。
「た、たった四人を倍以上で取り囲むとか、ひ、卑怯だぞ!」
こいつら雑魚だな。
しかし、事はそれで終わらなかった。
ここは冒険者が集まる場所たったからだ。
冒険者は圧倒的に人間の数が多い。
つまりこの店内にも、人間の冒険者が多数いたのだ。
「おい、そこの魔物集団よぉ。人間の街でちょっとデカイ顔し過ぎじゃねぇのか?」
少し離れたテーブルのグループからの声だ。
やはりそいつらも冒険者だ
その言葉を皮切りに、あちこちのテーブルの冒険者から声が上がり出す。
もちろん全部が人間に味方する声。
人間の男達を囲んでいたはずなのに、逆に周囲を囲まれている。
「なあ、魔物使い。最近調子に乗ってきてんじゃねえか」
そう言ってきたのは隣りのグループの男だ。
しかしここで俺がキレたらダメだ。
こんなところで騒ぎを起こしたら大乱闘になる。
それはマズい。
「なあ、頼むから静かに食事をさせてくれないか。こいつらと食事会なんて初めて――――」
ガシャン!
男が俺達のテーブルに、持っていた木製ジョッキを投げてきやがった。
その拍子に、ダイが食べていた骨付き肉が皿ごとぶっ飛んだ。
ピクリともしないダイ。
こ、これはマズいことになる!
俺は腕に力を込める。
ダイの目玉だけが動き、木製ジョッキを投げた男をギロリと睨む。
男が上ずった声でつぶやいた。
「な、なんだ、この野良犬は……」
男の言葉を聞いたダイから殺気が漏れる。
次の瞬間、予備動作無しでダイが男に飛び掛かかる。
「ひっ」
マズい!
俺は咄嗟に身を乗り出して男の前に腕を出した。
「ぐっ!」
間に合った。
ダイの牙は男の喉元ではなく、俺の腕に喰い込んでいた。
初めてダイの牙を受けたが、こりゃ凄いな。
筋肉を盛り上げ狼の皮も使ってカバーしたが、それでも突き破られた。
この男の喉に喰らいついていたら、胴体と頭が離れていただろうな。
『ライ、なぜ邪魔をするか!!』
ダイが怒りの念話を伝えてきた。
「ダイ、冷静になれ。いつものダイに戻って考えてみろ、この状況を!」
それでもダイは唸り声を発したまま、俺の腕から牙を外さない。
ハピとラミも感情が高ぶって、その表情は人間ではなくなっている。
誰がどう見ても魔物だった。
ダメか、ここまでか。
これだとオークとの交渉も無かったことになるな。
はあ、そうなると人間の社会とは今日でお別れだな。
ならここに居る人間どもは全滅させてやる。
そう覚悟して変身しようとした時だった。
「おい、貴様ら、道を開けろ!」
入り口から声がした。
次の投稿は明日の昼頃の予定です。
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