30 カンパイした
衛兵隊長が慌てて俺に声を掛ける。
「ライ、どういうことだ。説明頼む!」
説明と言われてもな。
「俺に聞かれても困るな。オークに聞いてくれ」
俺がそう返答すると、獣車から顔を出したオークの使者が、俺の代わりに答えた。
「我々はライ殿の仲介無しに交渉はしない。族長からそう厳命されている。だからライ殿がここから立ち去るというなら我々もそうする」
それを聞いた衛兵隊長はさらに慌て、俺に走り寄って言った。
「ライ、先程の話は無しだ。オークの使者をご案内してくれ、頼む!」
くそ、まだ仕事は終われないか~
俺は渋々屋敷内へと入って行く。
約束だから仕方ない。
しかし今更だが、俺が居てもあまり変わらない気がするんだがな。
とりあえずオークの使者を連れて、謁見の間へと向かった。
謁見の間に行くと、すでにレンドン子爵はそこで待っていた。
しかし髪の毛がちょいちょい跳ねているとこを見ると、かなり大急ぎで支度したんだろうな。
謁見の間には俺とオークの使者とオーク兵が二人だけ、対して人間はレンドン子爵と側近が二人に、護衛兵が十人と圧倒的な数だ。
何か魂胆が見え見えだな。
そこで俺は挨拶もそこそこにして、直ぐに話を切り出した。
「約束通りに人間の使者は送り届けたが、報告の通りになった。報告は受けているよな」
レンドン子爵は頷く。
それを確認した後に、再び話を続ける。
「良し、ならその後の事を簡単に説明しようと思うが、構わないか?」
すると大きく頷くレンドン子爵。
そこからはオークと打ち合わせた通りの説明をする。
自分が同席じゃないと交渉はしないって内容の事だ。
それを聞いたレンドン子爵は、難しい顔で俺を見つめる。
そりゃそうだろうな。
俺が何か企んでいるかと思うのは当たり前だ。
側近達が俺をチラチラ見ながら、レンドン子爵に繰り返し耳打ちしている。
俺はこういった駆け引きは得意じゃない。
どっちかというと「表へ出ろ、勝負つけてやる!」の駆け引きの方が得意だ。
魔物だからな。
その後はオークの使者とレンドン子爵は、上手く話し合いが出来たように思う。
俺は全く聞いちゃいなかったけどな。
聞いてたとしても話の内容を理解できなかったと思う。
俺が分かることは、話し合いが終わったという事。
喧嘩別れしてないから、きっと上手くいったと勝手に判断した。
人間の側近の一人が俺の所へ来て、話し合いは済んだこと、それと礼を言われた。
そして報酬だと袋を渡される。
報酬は銀貨にして百枚。
最初に言われた報酬よりも多くしてくれたようだ。
これは依頼達成内容を吟味したのか、俺を敵にしたくないからか、その辺りは判断出来ないがな。
だがこれでしばらくは、ゆっくり出来そうだ。
俺は獣魔を連れてレンドンの屋敷を出た。
宿泊して行けと言われたが、俺としては少しでも早くあの場を立ち去りたかったから、街中の宿が良いと言い張った。
「皆、お疲れだったな。銀貨百枚貰ったから今日は贅沢出来るぞ、腹いっぱい食っていいぞ」
俺がそう言うと、ラミが大喜びだ。
「本当か! それなら今から肉を狩りにいくか?」
「ラミ、金はあるんだから、人間の店に入って食べるんだよ」
「おお、やった!」
するとラミだけでなく、ハピも大喜びだ。
「ライさん、人間の店の食べ物を食べれるのですわね。それは楽しみですわっ」
そう言えば露店の買い食いはしたことあるが、店で調理した食事は食べさせたことが無いな。
良い機会だし、冒険者が行くような手頃な店でも入るか。
俺は目ぼしい店を見つけ店内へと入った。
店内はかなり広い。
こんな広い店は初めて見る。
食事の時間にはまだ早いからか、店内は空いている。
まずは獣魔を店内へ入れても平気か聞いてみた。
すると店主が目を丸くしてハピとラミ、そしてダイを見回してから口を開いた。
「これは驚いたな、あんたが噂の魔物使いか。本当に魔物を従えているんだな。なあ、なあ、こいつら言葉しゃべるって本当か?」
すると俺の代わりにハピが返答した。
「しゃべれるし、注文もできますわよ」
驚きの表情で固まる店主。
そこへ今度はラミまでが口を開いた。
「なあ、おっさんよお。早く中へ入れてくれよ、腹減ってんだよ。代わりにお前喰うぞ」
店主の顔が一気に青ざめる。
「は、はいっ、ど、どうぞ!」
なんだ、脅しが有効とはな。
俺達はこのメンバーで、初めて飲食店へと入った。
そして気を利かして、一番奥の壁際のテーブルに着いた。
ラミの尻尾やハピの翼が、邪魔にならないようにと思ってだ。
ダイが椅子の上にちょこんとお座りしたまま、何だか落ち着かない様子。
「ダイ、リラックスしろ。店主の許可も降りたんだ。もっと肩の力を抜け」
『そう言われてもな。テーブルマナーも知らないんだぞ』
「いや、テーブルマナー知ってても無理だろ。体の作りが違うんだから。ガツガツしなけりゃ大丈夫だよ」
そう言ってなだめていると、早速注文した品物がやって来た。
と言っても、メニューを見ても何の料理だか解らなかったから、適当に頼んだのだ。
それが運ばれてきたのだが、何を材料に使った料理なのかもわからん。
分かったのは、旨そうだってことだけだ。
俺はそれぞれの皿に料理を取り分けてやった。
さらに各自のカップにワインを注ぐ。
これで準備完了だ。
我慢できなくなったラミが、俺を急かせてきた。
「もう食って良いのかっ、まだかっ、頼む、我慢できねぇ!」
「まあ、待て。乾杯は重要だぞ。じゃあダイ、いつもの乾杯の合図を頼む」
するとダイは頷いて、鼻先を天井に向けた。
「ワオオ~~ン」
「「「カンパ~イ」」」
ダイの合図で皆が一斉に料理を食べ始める。
注いだワインには見向きもしない。
飲むより食う方を好む連中なのだ。
最初の頃は手づかみで食べていたのだが、人間社会はフォークを使えと教えたから、今じゃちゃんとフォークで料理をぶっ刺して食べる様になった。
まあ、ダイだけは違うがな。
次の投稿は明日の昼過ぎになりそうです。
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