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29 オーク部隊と行軍した








 族長が出した条件と言うのが、採掘した金の何割かを寄越せというのは分かる。

 だが、その話に俺を噛ませてきたのだ。


 オークとの連絡や交渉には、必ず俺を通す事を条件としろという。

 それは人間は信用できないから、魔物である俺を通せというのだ。

 だが俺がライカンスロープなのは人間側には秘密だから、表向きは族長が俺を気に入ったからだという建て前だ。


 そう言われるとしょうがない。

 それで俺にも金が入るらしいから承諾した。





 俺達は折角知らない文化の街に来たんだからと、少し観光していくかという流れになった。

 人間としてオークの街に入った者なんて、数えきれるくらいじゃないだろうか。

 魔物でも差別されないのは良いと、獣魔たちは喜んでいる。

 俺は清潔な人間の街の方が良いのだけどな。

 

 このオークの街には魔物相手の店も多くあり、そこでラミとハピのブレストアーマーを作ることにした。

 胸隠し用の革鎧だ。

 布がズレる度に俺がハラハラするのが馬鹿らしくなってきたのだ。


 オーク職人は人間のような繊細な物は作らず、最低限の機能しかない道具が多いのだが、その分値段は安いし頑丈だ。

 まあ今回は族長が払ってくれるらしいから問題ないのだが。

 ついでにダイも、格好良い革鎧を作れとうるさいから注文してやるか。

 どうせ俺の金じゃないしな。


 ちなみに俺みたいな変身したらサイズが変わる鎧とか作れるかと聞いたら、やってみると言われたので一応注文はしてみた。

 それに持ち運びが出来る槍の肩掛け付きケースを注文。

 剣と違って槍は持ち運びの時も、常に片手が塞がるのは不便だからな。

 背中から下げられるような袋が欲しい。


 十日ほど滞在したのだが、族長が結構面白い奴で、すっかり仲良くなってしまった。

 殺し合いをした仲とは思えないな。

 あの潰れたようなオーク独特の鼻を持つ顔も大分見慣れたし。

 これはもうオーク討伐依頼なんかあっても、受けれなくなりそうだ。


 そして注文した品物が出来たタイミングで、俺達は族長とお別れした。

 

 俺が注文した槍ケースは、オーク職人が見事に再現してくれた。

 槍を背負える袋状の筒だ。

 それと革鎧だが、これも上手く作ってくれた。

 前と後ろの二枚の鎧を横で紐を通して縛るもので、紐を通して縛らないでおけば変身してサイズが変わっても、破けたりしないという訳だ。

 変身する前に紐をほどいておけば大丈夫ってことだ。 

 最悪紐が切れるだけなので、紐を変えれば再使用できるという優れものだ。


 そしてハピとラミのブレストアーマーだが、二人の注文通りに動きやすさ重視にしたんだが、これじゃビキニアーマーって呼ばれそうだ。

 しかしこれで激しい動きでも中身が“こんにちは”しないで済むかな。


 ダイの革鎧はソフトレザーを使い、動きやすさを重視したもの。

 ショートソードの鞘も取付け、ダイ仕様の作りとなっている。

 これでダイも満足そうだ。

 口を使って剣を抜くことが出来るようだ。


 注文した品物も受けとり、俺達はオークの使者一団と一緒に、人間支配地域を目指して出発した。


 そうなのだ、今度はオークの使者が一緒なのだ。

 人数も多い。

 護衛の兵士を入れると五十人近くにもなる。


 どいつも戦士みたいな格好だが、一人だけ祈祷師きとうしみたいなオークがいた。

 そいつが使者らしい。

 その祈祷師きとうしはこの使者団の団長であり、見た目通り魔法も使えるんだとか。

 

 この使者団のオークらと一緒に行動するのだが、俺達にはあまり関係ないとも言えなくはない。 

 この使者団の護衛は俺達の仕事に入っていないからだ。

 ただしオークの道案内だけはする。

 その料金としてオーク製の槍を十本貰った。

 オーク製なんて珍しいから売れば金になるだろう。


 オーク達はもちろん馬車ではなくボアが牽引する獣車だから、馬よりも速度が遅くなる。

 それに全員が獣車に乗れるわけじゃない。

 歩兵がほとんどなのだ。

 だから来る時よりもかなりゆっくりなペース。

 

 しかし人数が多いから、わざわざ俺達が警戒する必要もないから楽だ。

 夜番も一切なしだし、護衛のオーク兵は俺に対して敬意を払ってくれるしな。

 なんだか偉くなった気分だ。


 オークの支配地域を出て魔物の領域に入っても、オーク達は手慣れたもので、出て来る魔物をことごとく蹴散らしていった。

 

 そしてやっとのことで人間支配地域へと来た。

 

 来た時にも通った人間支配地域の境に建てられた監視所だ。


 俺達が近づくと騒ぎになった。

 そりゃそうだな。

 人間に見えるのは俺一人で、あとは獣魔とオーク兵が五十人だからな。


 俺が先に行って事情を話し、なんとか通れる事になったのだが、監視所の兵士が護衛として二人付くことになった。

 護衛と言うより監視役ってところだな。


 また人数が増えたよ。


 エルドラへは伝書カラスで、使者団が向かってると連絡を入れてくれた。




 さて、ここからは人間支配地域だ。


 豊かな大地に見慣れた作物。

 畑を見れば沢山の野菜が見える。

 

 どこからともなく花の香りまでする。


 やっぱり人間の地域が良いな。


 うーん、平和……と思いたいのだが、この物々しい数のオーク兵を見るに、決して平和には見えない。


 すれ違う人達は全て俺達を避けて通る。

 何かの討伐だろうか、どこかの領主の三十人くらいの兵士の行軍が見えて来た。

 遠くから俺達を見るなり、慌てて横道に逸れて行った。

 

 人間よ、それで良いのか?





 そしてやっと着いたエルドラの街。

 

 門番の驚く顔が面白くてしょうがない。


 事前に監視所から伝書カラスで知らされていたらしいが、こんなに大人数とは知らなかったらしい。

 そもそもオーク兵を見るのも初めてだろう。

 それがいきなり軍隊のようなこの人数で、しかもボアく獣車が数台もあるんだからな。


「おい、聞こえてるのか。オーク領からの使者が来たんだよ。早く通させろ!」


 俺が大きな声を張った事で、やっと我に返った門番が慌てて道を開ける。


「ど、ど、ど、どうぞ、お、お通り下さい……」


「おい、領主の屋敷に知らせなくて良いのか?」


 俺が言って初めて「そ、そうだった」とか言い出す始末だ。


 街中はさながらパニックだ。


 オークを見たことない街人は「魔物が攻めて来た!」と大混乱。

 誰もが家の中に閉じこもる始末。


 しかしオーク兵はそんな事には目もくれずに淡々と行軍する。

 

 レンドン子爵の屋敷の前に来ると、しっかり衛兵十数人が整列して出迎えてくれた。


 俺が馬車から降りると、直ぐにオーク兵二人が俺の両脇を固めて周囲を警戒する。


「ああ、大丈夫だ。下がって良いぞ」


 俺はそう告げると、二人のオーク兵は俺との距離を少し開ける。

 何だか本当に偉くなった様で気持ち良すぎるだろ、これ。


 そこへ衛兵隊長が俺の前に出て来て言った。


「ご苦労だったな、ライ。もう下がっていいぞ。あとは任せてくれ。報酬に関しては追って連絡する」


 監視所で話した経緯はちゃんと伝わっているらしいな。

 それなら俺はもういらないか。

 そうなると、ここで俺の野望は終わりか、残念。

 もう少し味わっておきたかったな、偉くなった気分。


「ああ、後は任せる」


 そう言って俺がくるりと反転すると、何故かオーク兵も次々に反転する。


「ダイ、ラミ、ハピ、俺達の仕事は終わった。行くぞ」


 そう声を掛けて歩き出すと、オーク兵までもが俺に付いて来る。


 あれ、付いて来なくて良いんだが。


 オーク使者団が一斉に帰ろうとするのを見た衛兵隊長も、動揺が隠せずオロオロし始めた。



 




















次の投稿は明日の夕方?の予定です。




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