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28 族長とマーカスが戦った








 オンドレの首が空中を舞う光景をポカーンと見つめるマーカス。


 首は床にゴロンと落ちると俺の方を向いて止まる。


 見つめられている。

 オンドレが恨めしそうに俺を見ているな。

 勘弁してくれよ。


「よくも、やってくれたなぁ!」


 マーカスが剣を振りかざして族長に挑む。


 ああ、ダメだよ、ダメ。

 マーカス、怒りに任せて戦うと隙が生じるんだよ。


 しかし止められない。

 護衛対象が目の前で首をねられたのだ。

 落ち着いて対応出来る奴なんて、そうはいない。


 おめおめと領主の所に帰る訳にはいかないだろうしな。

 そうなると俺達もただじゃ済まない。

 覚悟を決めるか。


 マーカスの振るった剣が族長の手首の金属鎧で止められた。


 止められた瞬間に「キーン」という甲高い音と共に、マーカスの長剣が折れてしまった。


「くそ!」


 マーカスが後ろへ下がりながら剣を捨て、予備の短剣を抜こうとした瞬間だ。


 再び族長の剣が動いた。


 次の瞬間、今度はマーカスの首が宙を舞う。


 早いな、早いなんてものじゃない。

 こいつ相当強いな。

 

 周りは全てオーク。

 逃げ場なんてない。

 ならばやることはひとつ。


 俺はゆっくりと立ち上がり槍を構える。


 俺に合わせる様に獣魔たちも武器を構える。


 族長が俺に一瞥いちべつしながら言った。


「話は聞いてやったぞ。人間よ、貴様は戦いでの勝者だから帰るなら今だぞ。さもなくば後ろの魔物もろとも首をさらすことになるぞ」

 

「おい、良く聞けよ豚鼻。今回、俺達はこいつら人間の頼みで付いて来ただけのいわゆるお使いだ。だからと言ってな、俺を人間扱いするんじゃねえよ。俺はライカンスロープだ。人間だと思って油断すると怪我するぜ!」


「ライカンスロープだと?」


 俺はこれ見よがしに右手を天に付き上げる。 

 すると右手がみるみる狼に変身していく。

 続いて左手。

 両足でダンダンと床を踏み鳴らすと、両の脚も狼の脚へと変身していく。


 そして肩や背中の筋肉が盛り上がり、服が裂けて狼の毛が見えてきた。


 そして最後にニヤリと笑みを浮かべて首を左右にコキコキを揺らすと、人間の顔が一気に狼へと変身した。


「き、貴様、本当にライカ――――」


 そこで俺はハウリングを繰り出してしまった。

 ダイ、ラミ、ハピの事を一瞬忘れて。


「ヴォオオオ~~ン」


 室内でのハウリングは壁に反響して効果が高い。

 

 真っ先に護衛のオーク兵達が耳や鼻、目から血を流しながら床を転がり苦しみ出す。

 中には早くも口から泡を出して動かなくなるオーク兵もいる。


 だが族長がしぶとい。


 必死に耳を押さえて耐えてやがる。


 俺は繰り返し叫び声を上げ、徐々に族長に近付いて行く。


 遂には族長の耳と鼻と目から血が流れ始めた。


 もう少し!


 顔が近づくほど接近したところで、口から泡を吐き出して倒れてくれた。


「ああ~、俺も苦しい、限界だ」


 とうとう俺の鼻と耳からも血が流れて出した。

 これ以上は俺も危ない。


 その場にしゃがみ込んだところ周囲に目をやると、やはりダイとラミとハピは口から泡を吹いて倒れている。

 大丈夫、死んではいない。


 ひとまず俺は変身を解いて人間の姿に戻り、裸はまずいからマントを羽織った。


 確かマーカスがヒールポーションを持っていたはず。


 マーカスの持ち物を探すとヒールポーションを発見。

 ダイ、ラミ、ハピに使うが傷は癒えても状態異常は治らない。

 だが少しでも歩ければ、ここから逃げ出せる。


「ほら、しっかり立て。逃げるぞ」


 部屋の外を確認して見ると、他の部屋にも反響していたようで、思った以上に広範囲でオーク兵が倒れているのが見える。


 これならこの屋敷からは逃げられそうだ。

 しかしこの領内から逃げるには難しいかもしれない。

 追手が来るだろうからな。


 そこで気を失っている族長に目がいく。


 こいつを人質にするか。


 族長にもヒールポーションを使い、何とか目覚めさせる。


「おい、起きろ。領内から俺達は逃げる。悪いが人質になってもらうぞ」


「何だと、ワシを人質だと。ふはははははは。笑わせてくれる」


 笑い出す族長。

 しかしこいつの回復力は凄いな。


「鼻血たれながら何偉そうに笑ってやがる」


 鼻血だけじゃない。

 耳と目からも血出てるけどな。

 

「ワシとの戦いに勝ったのだぞ。誰が貴様らを邪魔するものか。それに人間じゃないなら話は別だ、貴様はライカンスロープなのだろう。それなら貴様らは客人だ!」


 え?

 それでいいのか、お前は?

 人前で鼻血だぞ?

 

「そうか、まさか油断させておいてグサリとかないだろうな」


「我々オーク族がそんなことする訳ないだろ。人間じゃあるまいし」


 言われてみればそうだな。

 オークは強い者を尊敬するんだったしな。


「分かった、それなら十分に持てなしてくれ」


 その前に倒れたオーク兵達を何とかして欲しい。

 放って置くと命が危ない。


 こうして俺達は人間の使者たちは全滅させてしまったが、客人としてオーク族から持てなされた。


 困ったのは、エルドラの街に戻ってレンドン子爵に何と言えば良いのかということ。

 交渉失敗して二人の首が飛ばされたのに、俺達は無傷だからな。

 さすがに疑われる。

 そこで族長に正直な話を切り出してみた。

 

 俺がライカンスロープを隠している事も含めてだ。

 

 そうしたら話は早かった。

 交渉は新たな使者をオーク側から出すということと、人間の首を飛ばした事も、その使者の一団が詫びを含めて交渉してくれると言ったのだ。


 ただし条件があるという。


 その条件と言うのがまたしても『俺』に関することだった。


 








次の投稿は明日の夕方の予定です。



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