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21 魔物の領地へ行けと言われた







 ラミの尻尾の(なぎ)ぎ払いで、奴隷五人が吹っ飛ばされた。

 その吹っ飛ばされた五人は、壁に背中から激突。

 かなり苦しそうだ。


 最初の剣激で二人、尻尾で五人、合計で七人が地面で苦しそうにしている。

 しかしその内の二人は、何とか立ち上がって武器を構え始めている。

 二人はまだ戦う気力はあるようだ。


 だがな、さすがに初手でこれだと奴隷達はひるむ。

 なんせ一撃でこれだからな。


 リーダー格の男が声を上げる。


「散開しろっ、ぎ払われるぞ!」


 そうだな。

 まとまっているとラミの尻尾でぎ払われて終わりだ。

 人間の力じゃ受けきれない。


 それにしても、リーダー格の男は中々の精神力だ。

 半数を戦闘不能にされても、何とか(あらが)おうとしている。

 最後まで(あきら)めないとはあっぱれだ。


 ――――だが所詮は人間


 散開したところで、やはりラミには勝てない。

 ラミが頭上に剣を挙げ、ニコリと微笑む。

 背筋がゾッと冷たくなるような笑みだ。

 

 そしてさらに敵の戦意をへし折る言葉を口にした。


「人間がその程度の力で私に挑むだと、笑わせるな。私の本気の攻撃が、人間のお前らに耐えられるかな」


 そう言って緑色の液体状の球体を空中に出現させ、それを自分の周囲にいくつも並べていく。

 ポイゾンボールだ。


「これで終りだよっ」


 ラミは緑色の球体を五人の奴隷達へと、一気に飛ばした。


 球体は次々に奴隷へと激突し、肌に触れた所から毒を侵食させる。

 人が生きながらに毒に侵され死んでいく様。

 人間側から見たらそれは、残虐であり悲惨な光景でしかない。

 毒に触れた肌が黒く変色いていき、苦しそうに自分の肌を掻きむしる。

 口や鼻や耳からは赤黒い血が流れ出る。

 その場にいる衛兵達でさえ、その光景に目を背ける程だ。


 それは先程から地面に倒れていた奴隷も同様だった。

 気を失っていた者も、再び意識を取り戻して地獄の苦しみを味わっている。


 しかし、苦しそうにもがき苦しむ奴隷達の中、ただ一人だけ毒に耐えて立ち尽くす男がいる。

 リーダー格の奴隷だ。


 盾で毒球の殆どを防いだらしい。

 しかし盾で防いだ時に毒球が弾けて、その一部が体に付着している。

 剣を持つ右腕から肩にかけて、肌が黒く変色しているのが見える。

 男は顔を(ゆが)める。


 かなり苦しいはずだ。

 それでも男は歯を食い縛り、構えを崩さない。

 

 そこで俺は領主の方をチラリと垣間(かいま)見る。

 だが戦いを止める気配はない。

 それよりも、この圧倒的な力の差を見せつけられても、表情ひとつ変えないのが不気味でさえある。


 ラミが死にかけの男に言葉を投げ掛ける。


「ほほう、まだ立っていられるのか。人間にしては良くやったと誉めてやる。降伏するならここで止めてやるが、どうする?」


 すると苦しそうな表情をしていた男が、ひきつった笑顔を見せて言った。


「魔物に人間が降伏する訳無いだろ……」


 この男、自分が勝てるはずもないことは分かっているはず。

 それでもまだ威勢を張るか。


 こういう奴、嫌いじゃないぞ。


 しかし、ラミはそうは思ってない。


「ならば降伏するまでいたぶってやる」


 ラミが先程よりも小さな毒球を出現させた。

 大きさは小さいが毒球の数は多い。

 少しずつ毒に侵食させて苦しめたいらしい。

 本当にいたぶるつもりだ。


 だが、これ以上はさすがに見てられないな。


 俺は地面に落ちていた小さな石を拾う。

 そして片腕だけ一瞬変身させて筋肉を一気に盛り上げ、その腕で以って石をリーダー格の男に投げつけた。


 リーダー格の男の反応は、俺が思った以上に早かった。


 咄嗟(とっさ)に盾で投石を防ごうとした。


 だが、それ以上に俺の投げた石は速い。


 一瞬早く、俺の投げた石が男のアゴを砕く。


 男が顔を天に向けてひっくり返る。


 遅れて盛大に鮮血が空中を舞う。


 男は意識を失ったのか、人形のように地面に転がった。


 派手さはあるが、命まではとってない。

 だが、一生消えない傷痕が顔に出来たな。


 ラミが「ハッ」とした様子で俺を見たので、俺は言ってやった。


「ラミ、勝負は着いているだろ。弱い者相手に遊ぶな」


「ああ、すまない」


 そう言ってラミはスゴスゴと後ろへ下がる。

 そこで俺は領主に向かって言った。


「こいつらは人間が(かな)うレベルの魔物じゃない、もう止めておけ」


 すると直ぐに衛兵が槍を向けて怒鳴る。


「貴様、無礼だぞ!」


 ダイ、ハピ、ラミが身構える。

 俺は三人を手で制止しながら言葉を放つ。


「死者がまだ足りないのか。これ以上にしかばねを増やしたところで何も変わらないぞ」


 その俺の言葉は、ここにいる全員が相手でも勝てると言っている様なもの。


 俺の言葉に腹を立てたのか、衛兵の何人かが槍を構えたまま前に出て来た。


「よせ、奴の言うことは最もだ!」


 そう言って俺達と衛兵の間に入ったのは、彼らの隊長らしき人間だ。

 さすが隊長だ。

 ただのおっさんじゃないな。


 さらに側近の文官が声を上げた。


「静まれ、レンドン様からのお言葉だ。彼を客人として扱えとのことだ」


 少しの間、思考が停止した。

 客人?

 しかし、側近が言った言葉は“彼を”だ。

 つまり俺ひとりか。

 まあ、魔物を客人にするような文化は人間にはないからな。


 俺は小声でダイに話し掛けた。


「ダイ、どう思う」


『何か裏がありそうな気がするな』


「ああ、俺もそう思う。鉄等級の冒険者が呼び出された時点で(すで)に変だからな。それで今度は客人ときた。油断は出来ないな」


 その後、俺は本当に客人扱いで夕食に招かれた。

 ただし獣魔とは別行動。

 俺は客人でも獣魔はやはり獣魔の扱いだ。

 とは言っても魔物扱いよりは良いが。


 貴族の食事とあってかなり緊張したのだが、どうってことなかった。

 肉料理が多いだけで、特に食事作法など難しい事は無かった。

 子爵くらいではこんなものなのかもしれない。


 食事が終わったところで本題に入った。

 やはり裏があったということか。

 食事が片付けられてお茶が出され、落ち着いてところで側近から話があった。


「レンドン様からの直接依頼がある。通常指名依頼は銀等級以上だが、今回は特別に子爵様直々の依頼だ。その依頼内容というのが―――」


 側近の男は、俺が依頼を断るという選択肢など無いという前程で話を進めるらしい。

 まあ、断ったらこの街には居られないだろうがな。

 

 それで依頼内容と言うのが、オークの領地へ行って、そこのオーク族長に会うこと。


 オークは人間と会う事もしないが、魔物ならば会ってくれるのではと。

 そしてこっちから連れて行った使者との、交渉の場を作って欲しいというもの。

 その交渉と言うのが、オークと人間の支配地域の境界近くにある山に関してだ。

 レンドン子爵はその山で金の採掘をしたいらしい。

 過去に何度か使者を送ったが、帰って来なかったという。

 

 なるほどね、魔物を使役している俺ならば、魔物を通して話くらい聞いてくれると思ったのか。

 まあ、そんなことしなくても、俺は魔物だからな。

 魔物の俺なら確かに適任かもな。


 そう言う話ならば条件次第だ。

 














次の投稿は明日の朝の予定です。


追伸:

「いいね!」のお願いです。

どういった話の時が面白かったのか、読み手側の好みを知りたいのです。

面白かった話の最後には是非「いいね」ボタンをよろしくお願いします。

一話に着き一度押せます。

全部ではなく、面白かったところで押していただけると助かります。


「いいね」が貯まったら順位の発表をしたいと思います。





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