202 海の謎を知りたかった
海の先には何があるのか。
この素朴な疑問にハルトが答えてくれた。
「他にも大陸があるらしいね。海を渡った経験のある者は少ないらしいけど、見たことない亜人が住んでいる大陸があるって噂を聞いたよ」
衝撃的な事実だ。
人族の住む大陸と荒れ大陸以外にも、大陸があったとは知らなかった。
「その別の大陸に魔王がいる可能性があるんじゃないかと思うんだが、ハルトはどう思う?」
勇者の意見を知りたい。
するとハルトは実にあっけらかんと返答した。
「有り得るんじゃないかな」
そうか!
やっぱりそうなんだ。
魔王は別の大陸にいるんだ。
そんな話をしながら港を見て回っていると、砂浜が見えてきた。
それに激しく反応したのはヒマリとリン。
「ね、見てハルト、ヒマリ。凄い、砂浜あるよ」
そうリンが騒げば、ヒマリが飛び上がって返す。
「ヤバい、ヤバい。凄い、むっちゃ綺麗。ねえ、行ってみようよ〜」
そう言いながら俺の腕を引っ張るヒマリ。
ハルトがこっちを見て苦笑いしている。
仕方なく砂浜まで行ってみたところ、確かに凄い。
海の中で魔物が暴れているからなのか、波が激しく打ち寄せてくる。
こんな近くで海を見たのは初めてだ。
案内人のコボルトによれば、海に入って行かなければ安全だと聞かされた。
それを聞いたハルト達は、ちょっと驚いていたが、直ぐにリンとヒマリは波打ち際ではしゃぎ出した。
裸足になってキャッキャッしている。
「ねえ、ライもこっち来てよ〜」
ヒマリがしつこく俺を誘ってくるんだが。
「ったく、しょうが無いなあ」
観念して俺も裸足になって波打ち際に足を踏み入れた。
するとリンとヒマリが両手で海水をすくい上げ、あろうことか俺に「それ〜」とか言いながら掛けてきた。
負けずに俺も海水をすくい、ヒマリとリンに浴びせてやった。
「やだ〜、着替え持って来てないのに〜」
そんなことをヒマリがぼやく。
お互いに海水を掛け合い、キャッキャッ、ウハウハの展開が続くんだが……
何だ、何なんだこれは。
でも……嫌いじゃない。
楽しいやんけ!
そんな時、急にヒマリとリンが砂浜へ走って行った。
今度は何だ?
まさか魔物か?
しかし周囲に魔物の気配は感じられない。
「何で逃げるんだ?」
俺が二人にそう声を掛けた瞬間だった。
ザッパ〜ン!
大きな波が俺を襲った。
うおっ、何だ!
一瞬でひっくり返った。
俺の身体は塩辛い水で揉まれる。
そして海水がサーと引くや、俺を海へ引き込もうとする。
何とか立ち上がろうとするが、足元の砂が削られてバランスを保つのもやっと。
くそ、魔物の仕業か!
それを見たハルト達三人は、俺を指差して大笑いしている。
解せぬ!
必死に逃げ出して、海に向かって槍を構える俺。
するとハルト達は大爆笑。
腹を抱えて砂浜を転げていた。
――――ハウリングして良いよね?
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その後、腹が減って王城に戻ってくると、城のお抱えのコックが食事を作ってくれるという。
海鮮料理らしい。
それは楽しみだ。
食事の準備が出来るまでの間、俺は仕事を片付けていく。
まずはコボルトキングとの面会。
魔物オウドール混成軍団との契約書類のサインを交わしつつ、コボルトキングに宣誓させる。
殆んどインテリオークの指示に従うだけだが。
俺達には逆らいません的な約束とか、お前のモノは俺のモノとか、コボルト族は軍団の配下に入るとか、そんな内容の話と文書へのサイン。
これで荒れ大陸の殆んどが、俺達の支配地域となったのだが、手を付けないようにしている地域もある。
それはドラゴンの様な強力な魔物が支配する場所や、何らメリットがない場所などだ。
調印が終わるとインテリオークが俺を見て言った。
「これで荒れ大陸の殆んどが我々の支配下となりました。過去にこの偉業を成し遂げた者は魔王だけです」
凄いのは分かったけど、俺は魔王じゃないからな?
だけど問題なのは、荒れ大陸から魔王が見つかってないというところ。
凄く危険な状況だ。
色んな意味でな。
可能性として低いとは思うが、王国と敵対関係にある帝国内にいるのかもしれない。
帝国内の情報はなかなか入ってこないから、謎の部分が多い。
もう一つは過去にコボルトを発展させた者が実は魔王だった可能性。
そこで俺はコボルトキングにどうしても聞きたい質問をした。
「まずは、この街が急速に発展した理由を知りたい」
するとコボルトキング。
「その話ですか。そうですね、かなり前になりますが、我々の船が漂流する船を見つけたのです」
コボルトキングの話によると、漂流する船に乗っていたのは誰も見たことが無い亜人だったという。
コボルトキングは思い出すように話し出した――――
その亜人達はリスの様な見た目で、リス族と名付けた。
その船には五十人ほどの船員が乗っていたが、半数近くが海の魔物に襲われて死んでしまい、舵も壊され何日も漂流していたと聞かされる。
コボルトキングはそんな彼らを国に招いた。
街が発展したのはそこからだった。
リス族はコボルト族よりも遥かに進んだ技術力を持っていて、その技術を命の恩人であるコボルト族に惜しみなく教えてまわった。
その結果、街は大いに発展し様変わりしていった。
そして数年が経った頃、彼らは自分達の船を修理し、帰れるか分からない故郷を目指し、大海原へと船を進めて行った――――
これがコボルトキングの話だった。
確かにリス族は聞いたことない。
俺が知る獣人族の中にもいない。
そうなると、魔王の居そうな地域が広がってしまった。
特にこの大陸の外の可能性だな。
しかしそんな事が有り得るのだろうか。
インテリオークに聞いてみた。
「過去に海の外で発現した魔王はいたのか?」
するとインテリオークは眼鏡をクイッと上げて言った。
「私の知る限りでは、魔王がどこから現れたのかを記述する書物は有りません」
ということは、海の向こうの大陸に魔王が居てもおかしく無い。
いや、きっとそうだ。
自分の中で納得するのだった。
最終話が近付いてきました。
最終話まで毎日投稿します。
日曜日に最終回を投稿する予定です。
評価まだの方、どうぞよろしくお願いします。