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201/204

201 和平交渉じゃなかった







 門を開いたからには、我が軍団の攻勢が始まる。


 それに獣魔達に勇者パーティーが居れば、コボルト程度なら簡単に蹴散らしてくれるだろう。


 そして味方部隊が一気に正面門から街中へとなだれ込んだ。


「ハルト、すまないな!」


 そう俺が言えば、歯をキラリと輝かせて「そう言う話は勝利したあとでな」と言って、ハルト達は近衛兵に向かって走って行った。

 リンも手を振りながらそれに続く。

 そしてヒマリがウインクしながら走って行く。


 嬉しくなって俺も真似して返そうとしたのだが、何度やっても両目をつぶってしまうではないか。

 驚きである。

 さすが加護持ちは違うな。


 気が付けば軍団とコボルト部隊が街中で乱戦となっている。

 どうやら俺の出番は無いようだ。


 そこへ後ろから声が掛かる。


「ライ殿、遅くなりました。やっと到着致しました」


 この登場の仕方は一人しかいない。

 振り向けば眼鏡をクイッとするインテリオークが立っていた。

 いつも後ろから現れやがるな。


「丁度良いタイミングだよ」


「そうですか。しかし折角援軍を連れて参りましたが、どうやらそれも必要なさそうですね。さすがライ殿でございます」


 そこで疑問を投げかけてみた。


「何で勇者達も連れて来たんだ?」


 わざわざハルト達を連れて来なくても良かっただろうに。

 そもそも和平交渉だからな?


 するとインテリオーク。


「エルドラの街で獣人族を集めていたら声を掛けられまして。説明したところ是非お手伝いをと、お願いされてしまいました。断る理由も有りませんから、付いて来てもらったという訳です」


 う~ん、この間の件からなんだか態度が急変したような。

 まあ、手伝うって言うならそれに越したことはない。

 見れば物凄い勢いでコボルト兵を押し返している。

 壁を守っていた兵達も街に降りて来るようだ。


 さて、俺は俺の仕事をしますか。


「俺を和平交渉の場につかせろっ。突撃~!」


 そう叫んで王城への道を切り開こうと突撃した。

 すると味方の兵達も叫び始める。


「和平交渉の突撃グワ。皆殺しグワ~!」

「和平交渉~、ぶっ殺せ!」

「一人も逃がすな、皆殺しにして和平交渉だ!」


 一気に士気が上がった気がする?


 俺は乱戦の中を走り抜けた。


 気が付けば誰も付いて来れていないが、構わず俺は王城へとたどり着いた。


 当然ながら王城への門は閉まっている。


 周囲を見回すと二階だか三階の窓から入れそうだ。

 しかし登れそうな足場が見つからない。


 そこへハピが来てくれた。


「ライさん、お城の中へ運びますわよ」


「頼む!」


 俺はハピと一緒に三階の窓に侵入した。

 

 殆んどの兵士が出払っているのか、城の中はもぬけの殻状態だ。

 俺達がコボルトキングを探していると、最上階辺りでやっと兵士を見つけた。

 二人の近衛兵だ。

 扉の前で立哨していたのだ。


 俺が情報を聞き出そうとするが、ハピが瞬殺してしまう。


 手が早えな!


 扉前での立哨と言う事は、中の部屋にはお偉いさんが居るんだろうな。


 俺は扉を蹴破けやぶった。


 すると案の定、部屋の中には王様っぽいコボルトと側近らしきコボルトが居た。


 ここで戦いになるかと思ったのだが、王様らしいコボルトは降伏の選択をした。


「私はコボルトキングだ。ここへ来たということは、あの老害を倒したのか……それならコボルト族は降伏する。だから部下や民をこれ以上傷つけないで欲しい」


 こうして俺達はあっさりと勝利を手にした。

 コボルトの伝令が王命を伝え、街中での戦いも終止符を打ち始めた。

 しかし俺には聞かなきゃいけない質問がある。


「魔王はどこにいる」


 コボルトキングが眉間にシワを寄せて返した。


「それは貴方ではないのですか、鮮血の魔王よ」


「ちが~~うっ!」


「ち、違うのですか」


「滅ぼされたいか!」


 あれ?

 そう言ってくると言う事は、やはり魔王はここに居ないのか。


 そんなやり取りをしていると、インテリオークが現れた。

 そして敵兵が降伏し始めたと伝えてくれた。

 

 そこで俺はテーブルと椅子を用意し始める。


 するとインテリオークが不思議そうに聞いてきた。


「ライ殿、何をしようとしているのですか」


 俺は当然の様に答える。


「和平交渉の準備に決まっているだろ!」


 部屋にいた者達が俺を見て固まった。

 まばたきさえ忘れて俺を凝視する。


 俺は何かやらかしたか?


 そこでインテリオークが割って入る。


「それは和平交渉ではなく、勝者から敗者への戦後要求ですね」


「意味は同じだろ?」


「違います」


 俺は後頭部をハンマーで叩かれた様な「ガーン」といった衝撃を受けた。

 だが俺にも意地があるのだ。


「いや、これって和平交渉の場だろ?」


「いいえ、戦後の賠償要求の場ですね」


「字で書いたら一緒だよな」


「違います」


 さらにウォーハンマーでぶん殴られた衝撃が走った。

 その気持ちを音で表すならば「ガビーン」だろうか。


 それじゃあ、和平交渉って何だよ!

 

 俺は黙り込んでしまった。


 そこで再び話が進む。


 コボルトキングがインテリオークに何か質問をしている。

 そして説明を聞いたのか、納得した様子でつぶやいた。


「なるほど、呼び方に問題があったようで失礼しました」


 そう言うとコボルトキングは俺に向かって言った。


「軍団長と呼ばせているのですね。これは失礼しました。鮮血の軍団長」


 えっと…… 


 微妙な線できたな、おい。


 もうどうでも良くなって、全てをインテリオークに任せ、俺は部屋を出て行った。


 俺は特にやることもないので、占領した「ナバ」というこの街を馬車で見て回った。

 街の造りは人間の街と変わりない。

 劇場やドッグレース場まである。

 さすが大都市である。


 街中では味方兵士が、コボルトの残党狩りを行っていた。

 民家に逃げ込んだ兵士がいるらしい。

 しかし俺はそれを止めるように指示する。

 その程度の兵士を放っておいても問題ないからだ。

 逆に街を荒らすことになり、住民から恨みを買って面倒臭い事件に発展しかねない。

 そっちの方が心配だ。


 引き続き街中を見て回っていると、ハルト達が中央広場で休んでいたので声を掛けた。

 

「ハルト、助かったよ。それにリン、ヒマリ、こんな遠くまで悪いな」


 するとハルト。


「なあに、俺とライの仲だろ。遠慮するなっての」


 やはり俺とハルトとの距離が縮まったよな?


「そ、そうだな。ハルトも遠慮なく俺を使ってくれ」


 そこでヒマリが嬉しそうに話し掛けてきた。


「ね、ね、ライ。港があるんだってね、この街。海が見えるんでしょ、海」


 するとリンも興奮した様子で言ってきた。


「そ、そ。海だよ海。この世界の海を見てみたいよ~」


 海を見た事ないみたいだ。

 

「分かった、それなら港に行って見るか」


 全員一致で港へ行って見ることにした。


 港は街の外のあるのだが、既に味方部隊が港湾施設を抑えているから問題ないはずだ。

 馬車にハルト達を乗せて港を目指す。

 街から離れるので、一応コボルトの案内役を連れて行った。





 港へは四半刻ほどで到着した。


 真っ先に声を上げたのはリンとヒマリだ。


「海に香りがする~、ヤバい、涙出そう」

「見て見て、凄い綺麗。エメラルドグリーンだよ」


 なんか凄く感動しているみたいだ。

 ハルト曰く、この世界の海は彼らが居た世界よりも綺麗なんだそうだ。

 彼らの世界の海は汚れてしまってるらしいが、この世界の海はそれが無いという。

 ハルトは“汚染”という言葉でそれを表現した。


 そういえば、この海の先はどうなっているのだろうか。

 この海を船でずっと進むと、何があるんだろうか。







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― 新着の感想 ―
[一言] 皆殺しで和平、…うん、反抗する人がいなければ平和ですね… そしてまた空振りでしたね…。 あの狼を殺さず手下にして傀儡魔王にしたらよかったんじゃ…
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