20 領主の屋敷でイライラが溜まった
直ぐに行けということなので、ギルド長に促されて領主の屋敷へと向かう。
領主の屋敷は街の中央にある建物だ。
子爵程度の爵位にしては結構大きな屋敷なんだそうだ。
何でも麦畑をやってる村が領地内にあって、それが儲かっているらしい。
だが普通の麦ではなく、半魔物化した魔麦畑だ。
しかし俺達は、依頼をこなして徹夜で戻って来たから眠くてしょうがない。
獣魔を連れて来いとのことなので、眠そうな三人も一緒だ。
この街での俺の噂は結構広まっているらしく、街中を歩いていても遠目にジロジロ見られるだけで、騒いだりはされなくなった。
ギルドで聞いたのだが、俺は“魔物使い”と呼ばれているらしく、テイマー技能があると思われている。
魔物を飼い慣らす技能、モンスターテイマーだ。
ちょうど良い、この設定で押し通すか。
領主の城の門前まで来ると門兵が一瞬槍を構えるが、魔物と人間が一緒にいるのを見て直ぐに分かったようで、武器は下ろしてくれた。
「止まれ、お前がライとかいう魔物使いか」
「ああ、そうだ領主に呼ばれてここへ来た」
「少し待て」
そしてここで待つこと半刻。
座り込んで眠っている時だった。
「おい、起きろ。子爵様が会うそうだ」
門兵に叩き起こされた。
呼び出しておいて待たせるとか、話は聞いていたが貴族ってとんでもない奴らだな。
既に俺達の印象は良くない。
ムスッとしたまま俺達は門をくぐり、城の中へと入って行く。
何か護衛の兵士が六人も付いたな。
人間にしたら魔物が三匹だから仕方ない。
武器も預けろという事で、すべての武器を預けた。
城の中に入ると召使いや衛兵の視線が集まる。
護衛で付いた兵士の視線がヤバイ。
俺にではなく魔物達にだ。
特にラミとハピの身体に視線が集まっている。
布を巻いてはいるが、もう少しまともなものを買った方が良さそうだ。
特にラミは布越しの揺れが物凄い。
激しい動きをすると時々、はみ出しちゃいけないモノがはみ出すからな。
そうなると一斉に人間の男共の視線が集中する。
中には手でラミやハピの下半身を隠して、ニヤニヤ眺めるバカもいる。
しかし人間の男とは、ほんとに不憫な生き物だな。
狭い部屋へと案内され、そこで召使いの男女に説明を受ける。
そこで最低限の礼儀みたいのを教えられた。
貴族と平民の差を忘れるなってところか。
そしてやっと領主のレンドン子爵とご対面になる時が来たか。
謁見室というところで待たされたのだが、やたらと衛兵が多い。
衛兵の隊長らしき人物までいて、部屋の隅に整列して俺達を見張っている感じだ。
召し使いや文官もいるが、それは数人に過ぎない。
俺達を警戒しているな。
タイアウルフはともかく、ハーピーとラミアという魔物は、人間にしたら驚異の対象だからな。
ランク的には金等級か、それ以上じゃないか。
そしてやっと子爵がお出ましだ。
扉が開き部屋の中に入って来たのは、やけにやせ細った小さな外見。
少年じゃねえか。
多分まだ十代前半だろうな。
相手が少年とは言え、領主であり子爵に違いはない。
俺達は教えられた通りに、頭を下げて姿勢を低くする。
何か話し始めたようだが、声が小さくて聞こえない。
それでも俺達は黙って下を向いている。
話が終わったのか、文官の一人が俺の横に来て耳元で言ってきた。
「レンドン様が、戦っているところを見たいとおっしゃっている。良いな?」
どうせ断れないんだろうと思う。
だから俺は了解の返事をした。
すると直ぐに外へと移動させられる。
だったら始めから外に集合でいいじゃねえか。
ああ、これだから人間は面倒臭い!
俺だけじゃなく、ラミとハピもイライラしている。
ダイはというと、念話でしっかり伝えてきた。
『あのヒョロヒョロ噛み殺して他の街へ行くぞ』
気持ちは分かる。
俺だって出来るものならそうしたい。
だがそうすると俺達はお尋ね者となって、賞金稼ぎや冒険者に追われることになる。
それは最悪のパターンだ。
俺は小声でダイに言った。
「人間社会に長く居たかったら、大人しくしていろ」
ダイは何も言わずにプイッと顔を背けた。
たぶん分かってくれたと思う。
俺達が次に連れて行かれた場所は、庭の一角にある練習場みたいな所だ。
弓の的や剣術訓練用の人形が立っている。
その場所で戦っている姿を見せろという。
領主の少年は、離れた所で椅子に座って見学らしい。
テーブルまで用意され、お茶と菓子が用意されていく。
俺達を戦わせて、それを見ながらお茶を楽しむらしい。
俺達は見せ物じゃねえ。
そしてお茶の準備ができた頃、対戦相手が現れた。
一目見てそいつらが何者なのか分かる。
戦闘奴隷だ。
全員が手枷をしているのが見えたからだ。
偉そうな兵士の一人が俺に聞いてきた。
「先ずはそのラミアと戦わせる。何人ならいける?」
散々待たされてイライラしていたのもあって、俺は口を滑らせてしまった。
「舐めてんのか。こんな奴等が束で掛かって来ても、ラミに勝てるわけないだろ」
途端にその偉そうな兵士の眉間にシワが寄る。
「何を言うか、こいつらはこれでも敵国ではあるが元精鋭兵士だ。ラミア級の魔物なら、普通は五人も居れば十分なはずだ!」
俺は一応ラミの方を見た。
すると。
「私は構わんが、手加減する自信はないぞ」
兵士の顔が驚愕の表情に変わる。
「ま、魔物が喋ったぞ!」
何だ、そこか。
俺は驚く兵士を無視して、勝手に宣言をかました。
「このラミアなら、その奴隷全員でも余裕だ。ほら、さっさと始めようぜ!」
領主が側近に耳打ちすると、戦いの準備が始まった。
十人の男達は手枷を外され武器を渡されていく。
ラミにも武器を選ばせてくれるらしい。
沢山ある中からラミは、定番の剣と大きな丸盾を選んだ。
「なあラミ、剣とか使えるのか?」
小声で聞くと「問題ない」と返ってきた。
それにラミは何か楽しそうだし。
槍と盾を装備した人間達が、ラミから十メートルほどの距離を置いて立つ。
先程の偉そうな兵士の「始め!」の合図で戦いは始まった。
ラミの下半身である蛇の身体を左右にうねらせ、奴隷に急接近する。
奴隷側は五人ずつ左右に別れる。
さすが元兵士だ。
連携はしっかり取れている。
その動きは戦士と名乗ることを認めてやる。
だが、ラミの速さは並大抵の人間が付いて来れるレベルじゃない。
ラミが左側の奴隷に向かって、剣を横薙ぎに振るった。
同時に右側の五人の奴隷を尻尾で薙ぎ払う。
ラミの剣は盾で防がれたが、受けた奴隷は剣撃の重さに耐えきれず、近くのもう一人を巻き込んで吹っ飛ばされた。
尻尾で薙ぎ払われた奴隷達はもっと酷かった。
ラミの尻尾は凶器だからな。
次回の投稿は明日の朝の予定です。
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