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198 雪ダルマが見えた






 俺が野営地に到着する頃には、すっかり日が暮れていた。

 しかし雪が積もっているせいか、月の明かりだけでも十分明るい。


 面白いものである。


 野営地に入っていくと、巨大なオブジェクトが目に止まる。

 それは見上げるほどデカい。


 近くに居たダック兵に聞いてみた。


「あれは何だ?」


 すると。


「巨大雪ダルマですグワ」


 そんなの見れば分かる。

 何故そんなデカい雪ダルマがここにあるのか知りたいのだ。


 その答えは直ぐに判明した。


「ハピ、雪が全然足りないぜ」

「分かりましたですわ」


 またあのポンコツコンビがやらかしたようだ。

 必死に雪像の雪を固めている。


 俺が二人に近付いていくと、ハピが最初に俺に気が付く。


「ライさん、見て下さいですわ。どうです、この立派なライさんの雪ダルマ!」


 は?

 これが俺?


 続いてラミが鼻息荒く自慢してきた。


「ライさんが狼に変身したとこだよ。我ながら上手く出来たと思うぜ」


 他の兵士達は必死に道を切り開いているというのに、このポンコツどもは雪像作りだと。

 しかもそれが俺だと言うが、どう見ても不細工な雪ダルマにしか見えない。


「このアンポンタンがぁっっ!!」


 思わず叫んでしまった。


 その途端、雪像が消し飛んだ。

 ラミとハピもひっくり返って雪まみれとなる。


「ライさん、悪かったよお。飯抜きは勘弁だよお」

「すいませんですわっ。御飯抜きだけは、それだけはやめて欲しいですわ」


 謝るのが早い。

 これは絶対に罪を理解してないな。


「ラミ、ハピ。何が悪かったか言ってみろ」


 するとラミ。


「後ろ脚の部分が太すぎたんだよな……」


 そしてハピ。


「わたくしはお腹回りが太すぎだったんだと思うのですわ」


 やっぱりだ。

 雪像の作りが悪くて怒られたと思ってやがる。

 他の兵達も何で放って置くかなあ。

 そう思ってふと行軍する道に目をやると、だいぶ先まで雪掻きがされて綺麗になっていた。

 その道の両脇には多数の大きな雪の玉が置いてある。


「おい、あのデカい雪玉はなんだ」


 俺がそう聞くとラミ。


「板やシャベルで雪掻きするよりも、雪玉を転がした方が運ぶの早いし楽だろ。それを教えてやったんだよ」


 そんな方法があるのかよ。

 ならば仕方無い。

 今回は許してやるか。


「もう良い。明日は早いぞ。早く寝ろ」

 

 二人の顔が一瞬で明るくなるのだった。





 そして翌日。


 空はすっかり晴れ渡り、雪は止んでいる。

 しかし雪はさらに積もっていた。

 

 だからといって、ここにずっと居ても現状は変わらない。

 俺は前進する決断をくだした。

 出発の準備し、再び行軍を開始した。


 その日、丸一日掛かったが、コボルトの街が見える丘の上まで何とかたどり着いた。


 別けた残る三部隊も、そのうち集まって来るはずだ。


 ここまで来ると街のコボルトからも、俺達が見えているはずだ。

 そうなると兵がさらに配置されて、防御力が上がる。


 晴れ渡ったお陰で、街の港湾施設まで見渡せる。

 街中も雪が積もっていて、コボルト達が忙しなく動いているとハピの目が捉えた。

 コボルト族も雪掻きで大変そうだな。


 取り敢えず街の近くまで行って部隊を駐屯させ、改めて和平交渉の使者を送るか考えるか。


 俺は部隊を進めた。


 そして壁から十分な距離を取った場所で、野営地の設置を命令した。


 兵達が荷物を降ろし始めた時だった。


 空から何かが落ちてきた。


 ズンッという音とともに、巨大な槍が地面に突き刺さる。


 オーク兵の一人が叫んだ。


「バリスタ!」


 まさかバリスタって、この距離でも届くのかよ。

 バリスタの存在は知っていたが、その性能まで俺は知らない。

 その無知の結果がこれだ。


 改めて街の城壁を確認すると、確かに城壁の方から槍が飛んできている。


「全隊下がれ〜!」


 慌てて命令するが、そう急には下がれない。

 その間にもバリスタによる攻撃は続く。


 結局は後退が完了するまでに、何人も犠牲者が出てしまった。

 まだ和平交渉の使者も送って無いというのに。


 和平交渉ってこんなにも難しいことなんだと、ここにきてやっと理解してきた。

 それを考えるとインテリオークはすげぇよな。

 だが俺にだって意地がある。

 

 口が上手いダック兵を三人選出し、和平交渉の使者として送り出した。


 三人のダック兵はビクビクしながら正面門に向かう。

 もちろん白旗を掲げて歩いて行ったのだが、何度も振り返っては俺を見て、グワグワ何かを言ってくる。

 その度に俺は黙ってうなずいてやった。


 全然聞こえてないがな。


 そして特に何の攻撃もされずに、門の前までたどり着いた。


 そこでダックの一人が、門兵に何かを叫んだ。

 恐らく「和平交渉に来たグワ」とか言ったんだろう。


 すると門の上からブウ〜ンと何かが振り下ろされた。


 またしても丸太である。


 振り子の様に落ちてきたその丸太は、ダック三人を吹っ飛ばした。


 問答無用だ。


 鮮血で丸太が赤く染まったのが見える。


 ウォール砦の対応と変わらないじゃねえか。

 しかし困ったぞ。

 城壁の中にも入れないとなると、和平交渉どころではない。

 ここはまず、城壁内へ入るところから考えないといけないな。

 

 その前に野営地か。


 部下が野営地を設置している間に俺は、ハピにぶら下がって空中から街を偵察だ。


 ハピの体力を考えるとそう長くは持たないが、短時間でも空から見れれば、何か得られるかもしれない。


 結果、良く出来た城壁だと感心させられただけ。

 だが俺一人なら、ハピに運んでもらえれば中に侵入出来そうではある。

 天気が悪い日か夜ならいけそうだ。

 街中に入ればこっちのものだ。

 そのままコボルトの族長の所へ行けば、きっと和平交渉にこぎつけられる。


 良し、この作戦でいくぞ。


 俺の中ではこの作戦は完璧に思えた。


 そして部隊が展開し、野営地も設置出来たところで俺は動き出す。


 天候は雪。

 空からの飛来にはもってこいの天気。


 俺はハピの脚で掴まれて、大空に飛び出した。









 


感想を誤って一部削除してしまい、197話のあとがきに載せました。

失礼しました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何かまずかったのかなと思ってましたが良かった。 部隊で来るより少数精鋭で来たほうが良かったのでは?
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