表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/204

196 コボルト発展の理由を聞いた






 急ぎで作らせた為、思った以上に早く出来上がった。

 ここにいる村人の量だけというのもある。


「オーク兵の味付けで口に合うか分からないが、シチューを作った。これを食べてくれ」


 俺がそう言ったのだが、村人はなかなか手を出そうとしない。

 真っ先に手を出したのは、先程の母親とその子供達だった。


「すげ〜、具がいっぱいだよ」

「味が付いてる、このスープ味が付いてるぜ!」


 子供達が目の色を変えて食べる姿に釣られて、大人達も徐々に鍋に近付いて来る。


「食器を持ってここに並んでくれ。順番だ」


 とうとう他のコボルト達も、行列を作り始めた。


 ラミとハピが何故かソワソワし始めている。


 しばらくすると、森の中からも人影が見えて来た。

 村の様子をずっと見ていたのだろう。

 隠れていた村人が匂いに釣られて、顔を出し始めたようだ。


 兵士に手を出さない様に伝えると、安心したのかコボルト達が歩き出す。


 俺は慌てて追加の炊き出し命令を出すのだった。

 逃げた村人がまさか、戻って来るとは思ってなかったからな。


 砦の貯蔵庫からの接収がなかったら、こんなことは出来なかった。

 つまりは元々敵の備蓄食糧だったものを敵に返しただけだ。


 だが村人は大喜び。


 涙を流して感謝する者もいる。

 余程苦しい生活をしていたんだろう。

 本当は女や子供達だけに与えたかったんだとは言えない。


 そこで愛用の木の器を手にした魔物二人が、列に並ぶ姿が目に入る。


「おい、お前ら。何でコボルトに混じってここに並んでいるんだ?」


 もちろんラミとハピである。


「ちゃんと順番守っているぞ。何も悪い事はしてないからな」

「そうですわ。順番抜かしや割り込みはしてないですわよ」


 そういう問題じゃない。

 だいたい、さっき食事したばかりだろ。


「これはコボルト族専用だ!」

 

 俺の剣幕に二人はすごすごと列から離れた。

 しかしである。

 二人の陰で見えなかったのだが、ダイが後ろ脚だけで立って列に並んでいた。


 コボルト族のフリをしているんだろう。

 さすがに器は持てないらしく、口でくわえている。

 さらに列が進むとどうするかと思えば、必死に二足歩行を試みている。

 だがヨタヨタした歩き方だし、手が短いからどうしても前に垂れ下がる。

 犬が芸をしている様には見えるが、どう見てもコボルト族じゃない。


「ダイ、何してんだ」


 そう声を掛けると一瞬目が泳ぐ。

 しかし次の瞬間には猛ダッシュで居なくなった。


 何なんだよ。


 その後、なんとか全員に食事がまわった頃には、すっかり村の子供達が懐いてしまった。

 ラミとハピが子供達とたわむれている。


 凄い違和感……


 まさか喰わないよな?


 俺達はコボルトの敵と言っても良い存在なんだがな。

 まあ和平交渉するからそのうち、友好民族となるから良いか。


 食事が終わり落ち着いたところで、長老にこの地に来た理由を説明した。

 戦争が目的ではないこと。

 和平交渉が目的なこと。

 もし魔王がいるならば敵対するつもりは無く、友好的に話を進めたいと伝えた。

 そして最後に魔王の存在を聞いた。

 すると長老。


「魔王様の存在ですじゃか……私達はあまり政治に興味がないのじゃよ。だから中央の役人のことは良く知りもせん――――」

 

 それもそうか。

 こんなちっぽけな村に、中央の首都の話なんて届くわけないか。

 しかし長老の話はそこで終わりではなかった。


「――――じゃが、もう大分前になるかのう。行商人から聞いた話がありますじゃ。それは頭の良い亜人が突然現れたとかでのう、中央の街を発展させたという話ですじゃ」


 ビンゴだ。

 やはりコボルト族だけの力じゃなかったか。

 問題はその亜人の種族だ。

 荒れ大陸にはもう、そんな種族は残されていない。

 コボルト族の支配地域以外のほとんどは、オークやその配下が支配しているが、そんな種族の話は聞いたことないからな。

 

 そこで少し考える。


 海側から船で荒れ大陸に渡れば、陸を通らずコボルト族に接触出来る。

 つまり人間社会に住んでいた亜人の可能性だ。

 人間社会で暮らしていたなら人間の文化の発展を知っている。

 それならコボルト族に新しい技術や文化を伝えられる。

 特に王国と仲が悪い帝国は怪しい。

 帝国の情報は王国にまで、なかなか入ってこないからな。

 

 俺は改めて長老に質問した。


「なあ、長老。その亜人は海を渡って来たんじゃないのか?」


 すると長老。


「詳しい事は知りやせん。私も行商人から話を聞いただけじゃよ」


 たがこの話が本当だとしても、相当昔の話になる。

 コボルトの街には既に発展した後だからだ。


 しかしその亜人が気になる。

 それが亜人なら、その中に魔王が居た可能性がある。

 やはりコボルト族に敵対行動はまずかったか。

 今更後悔しても仕方無いが。

 

 俺は再び部隊を行軍させた。


 馬車に揺られながら先程の村の事を考えていると、つい言葉が口から漏れた。


「俺達は何をしに村に行ったんだか……」


 するとラミ。


「それなら私も知っているぞ。それって“マンゴー果樹園”って言うんだろ」


 それを言うなら人道支援だよっ。

 どう聞いたらそう間違えるかなあ。


 するとハピ。


「ラミは言葉を知らな過ぎですわ。それは“エンドウ豆園”って言うのですわよ」


 もう放って置くことにした。


 途中、いくつか村に立ち寄ったが、その全ての村が軍による徴用で、食糧から使役獣までが無くなっていた。


 こうなるとこれは、コボルト軍の策略なんだろうと思う。

 侵攻してくる敵を前に、兵站へいたんをさせない作戦だ。


 今のところ俺達の食糧は足りているが、コボルトの首都である大都市まで持つか心配になる。


 それにもう一つの心配。

 それはこの寒さと天候。


 先へ進めば進むほど寒くなる。 

 今のところ雨は降るが、雪は降ってこない。

 しかしこの寒さだと、そのうち雪が降り、それが積もってくるかもしれない。

 そうなると行軍速度に影響する。

 行軍速度が落ちれば目的地に着くのが遅れる。

 それはつまり食糧が足りなくなるということ。

 

 少し行軍速度を上げるか。


 こうして寒さに震えながらも、行軍を続けるのだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] 魔王様、居てくれ。って感じなんでしょうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ