192 砦に到着した
GWスペシャル!
突然ですが連続投稿します。
ヒットアンドアウェイの攻撃を続けていると、直ぐに待ち伏せは無くなった。
しかし俺達の存在が、完全にバレているのは間違い無い。
そして遂にコボルト族の支配地域へと入って行った。
コボルト族は荒れ大陸でも、北の寒い地域に縄張りをもっている。
そのため、近付けば近付く程に寒さが厳しくなってきた。
獣魔達も寒そうだ。
特にラミは寒さにあまり強く無い。
「ライさん、何か食べさせてくれよお」
身体をブルブルと震わせながら、そんなことを言ってくる。
寒くても食欲は旺盛みたいだ。
「食糧が乏しいんだから我慢しろ」
寒くなると腹が減るんだとラミは言う。
いや、暑くても同じ事言うだろ。
たが良く考えたら、蛇は寒いと冬眠するんだよな。
冬眠に備えて腹が減るのかもしれない。
ラミの下半身である蛇の鱗部分を触ってみると、馬車の中なのにひんやり冷たい。
上半身は毛皮を着させているが、下半身の蛇部分は剥き出しなので冷えるのかもしれない。
仕方なく毛布を巻いてやった。
「おお、ライさん、温かいよこれ!」
大喜びのラミだ。
しかし。
「でもさ、毛布じゃ腹は満たされないんだよお」
ちょっとイラッときた。
「ラミは下半身が寒いのですのね。わたくしとは正反対ですわね」
そう言うのは、上半身しっかり着込んだハピである。
ハピの下半身は鳥なので、羽毛に包まれているから寒さに強いのだ。
「ところでライさん、お食事はまだですの」
「さっき食ったばっかりだろ!」
この二人、頭の中身は変わらんな。
その点ダイは大人しい。
天然の狼の毛皮があるから寒さには強いし、喋れないってのはこういう時に静かで良い。
だがこいつ、小狼の姿になってからは、寝てばかりであまり仕事をしないんだよな。
あれから身体もかなり成長したんだがなあ。
俺がダイを見つめていると、毛皮の上で寝ていたダイが急に立ち上がる。
敵襲か?!
と思ったのだが違った。
立ち上がったダイは、毛皮の上でクルクルと周り始め、そのままストンと寝転び丸くなる。
そして何か言いたそうに上目遣いで俺を見る。
俺の考えている事を察したらしい。
沈黙の抗議である。
面倒くせえ!
コボルト族の支配地域の奥深くに入ってからは、コボルトの斥候が常に付いて来るようになった。
何度追い返しても、再びやって来る。
騎兵が追いかければ撃退も出来るが、今回の目的はあくまでも和平交渉だ。
出来るだけ無用な戦闘は避けたい。
だから極力追っ払うだけという命令を伝えたはずなんだが……
「ライ様〜、コボルトの斥候、全滅させやした!」
とか……
「ライ様〜〜、コボルトの野郎、串刺しにしてやりましたぜ!」
などと、ゴブリンライダーが、わさわざ俺の前で自慢げに言ってくる。
こいつらは馬鹿なのか?
だいたいなあ、俺の命令を理解しているのか?
殺傷したら和平交渉がしづらいだろうが!
「おい、お前だ。ゴブリンライダーの隊長」
「へい、何ですか」
「俺はコボルトを追っ払えと言ったんだ。誰が殺せと言ったんだ」
「へい、それが追っ払う時に槍がうまい具合に刺さりましてね。そしたら生意気にも斥候兵全員で反撃してきやして。全員、騎乗突撃で串刺しでやす。そりぁあ、見事な勝ちっぷりでしたっすよ。いや〜、ライ様に見せたかったっすよお」
つまり正当防衛と言いたいのか。
仕方なかったと言いたいのか。
ワザとじゃないよ、たまたま串刺しになっただけだよと言いたいのか。
罪の意識が低い上に楽天的。
そう言えば、ゴブリンってこんな種族だったな。
追手で出撃したゴブリン達が、何の悪びれた様子もなくはしゃぎ、しかも自慢気である。
こいつらには、難しいことを言っても無理っぽいな。
良し、単純にいこう。
「いいか、コボルト兵は極力殺すな。これは命令だ」
ゴブリン兵達は笑顔で返答。
「分かってやすよ!」
ウソつけ!
なら確認だ。
「良し、命令を伝える。分かったなら繰り返して言ってみろ。“コボルト兵は生かして逃がせ”、ほら言ってみろ」
するとゴブリン兵達が、声を揃えて言った。
「「コボルト兵は生かして逃すな」」
「ちが〜うっ!」
「「え?」」
くそ、もっと単純にするか。
「良し、もう一回言うぞ。“コボルト兵は殺すな”。ほら、言ってみろ」
するとようやく理解出来た様で、お互いに顔を見合わせて頷き合いながら言った。
「「コボルト兵は殺しな!」」
このスカポンタンがっ!
これはオーク将軍に任せた方が良さそうだな。
これは俺の領分じゃなかった。
いかんよ、いかん。
ゴブリン教育はオーク族に任せなきゃな、はははは。
こうして俺はオーク将軍に丸投げしたのだった。
そして最初の難関地点にたどり着いた。
コボルト支配地域の要の場所。
ウォール砦である。
谷に造られた要塞で、前回の遠征時にも、多大な犠牲を払って突破したらしい。
この谷を避けて通るには、あまりにも険しい山がそびえている。
多数の行軍ならばなおのこと、この谷を避けて通るには厳しいだろう。
つまりこの砦を必ず通るということ。
前回の遠征軍はここを突破したというから凄い。
その激しかった戦いの跡があちこちに見られる。
防壁もまだ修理が完了しておらず、崩れている箇所も見える。
さすがに門は修理されてはいるが、まだ完璧な状態ではなさそうで、あれなら破壊出来そうな気がする。
だが今回は和平交渉だ。
破壊しないで済むはずである。
まずは砦に特使を送る。
戦闘民族のオークは無理だし、スカポンタンのゴブリンにも無理な役柄だ。
消去法で鳥系種族を選ぶしかない。
それでカラス頭の三人を特使として送り込んだ。
鳥系種族の中でも、比較的に頭が良さそうだからだ。
白旗を掲げて砦の門の前に立つカラス頭の三人。
突如そこへ上から丸太がドスン。
問答無用だった。
なんてことしやがる!
いや、落ち着け俺。
元々先に仕掛けたのはこっちだ。
ここで牙を剥き出しにしたら、遥々《はるばる》ここまで来た意味がない。
しかし特使を受け付けないとなると、どうしたら良いか。
少なくとも、相手と顔を向かい合わせなくては先へ進まない。
こうなったら俺が直接会いに行くか。
軍団長が出て行けば、さすがに敵も指揮官クラスを出さない訳にはいかないだろう。
「今から俺が直接話し合いに行く。手出しはするなよ」
そうオーク将軍には命令し、獣魔達を連れて門へと歩き出した。
明日も投稿予定です。