19 ギルド長に会った
神経を集中させる。
子供の頃に聞いた、バンおじさんの言葉を思い出す。
“目で見るんじゃない、五感で感じろ”
五感……
五感で……
五感で感じ―――
―――られる訳ねえだろ!
俺はここぞと思う所で、半ば勘というやつか。
気合いだけで槍を突いた。
「うらああっ」
意外なもので、それがジャイアントバットの腹に突き刺さる。
「キィッ!」
良し!
ジャイアントバットが刺さったままの槍を振り回し、そのまま地面に叩き付けて息の根を止めた。
残ったジャイアントバットが逃げて行く。
良かった、咬まれずに済んだ。
ダイとラミが俺の側に来るが、ハピが見えない。
「ハピはどうした?」
するとラミが答える。
「あそこでジタバタしてるのがそうじゃないか」
ラミがアゴで指し示す方を見ると、籔に翼が引っ掛り、ジタバタしているハピが見えた。
「ったく、ラミ、ハピを助けて―――」
そこまで言いかけて、ふとラミの左腕に目がいく。
歯形だ。
「―――おい、ラミ。その腕の痕って……」
「ああ、ちょっとあのコウモリに咬まれただけだ。問題ない」
大ありだよ。
咬まれたのかよ。
股間が腐り落ちるぞって、こいつは女か。
「なあダイ、女の場合でも腐り落ちるのか?」
『どうだろうな、そこまでは聞いた事がない。でもやっぱり腐るんじゃないのか。しかし下半身は蛇なんだよな、ややこしい魔物だ』
不思議に思ったのかラミが言ってきた。
「ダイと何を話しているんだ。私にも教えろ」
「なあに、これだけバルバルが居れば、腐るほど卵もあるだろうなって言ったんだよ」
すると、ラミが嬉しそうに答える。
「確かにそうだな。良し、早速卵の回収をしようぜ」
するとダイから念話が。
『良いのか、本当の事を言わないで?』
「知ったところで変わらないだろ。それより回収行くぞ」
しかし、いざ回収をしてみると、先程の戦闘で割れてしまった卵が多数で、実際の数はかなり少ないものだった。
それでも全部で十個ほどを確保。
バルバルの肉も腹一杯食べた。
予定では夜明けの時間に帰れるはずだったが、この分だと街に到着は昼前になりそうだ。
というのも、ジャイアントバットとの戦闘で時間をとられただけじゃなく、帰る途中でラミが体調を崩したからだ。
ジャイアントバットとの戦いの後というタイミングとなると、誰もが感染した病気を疑った。
それを教えようか悩んだのだが、結局は黙っている訳にはいかないと判断。
「ラミ、お前は知らなかったようだから教えておくぞ。ジャイアントバットは病気を持っている。だから咬まれると、その病気がうつる可能性がある。ラミの体調が悪いのは、そのせいかもしれないぞ。えっとだな、性器が腐る―――」
俺の説明が終わる前に返答がきた。
「いや、私は種族特性で病気にはならないよ。単に食べ過ぎたってだけだ」
ぶっ飛ばしてやろうかと思った。
ハピがボソリと言った。
「無駄にデカい胸、腐り落ちれば良かったのですわ……」
その後、戦闘で汚れた身体を川で洗い流し、街へと向かったら、昼前という時間になってしまったのだ。
そういえば、結局ラミは俺達の仲間に迎えることになった。
そしてエルドラの街の入口門で、やはりラミアが魔物だと騒がれる。
間違ってはいない、正真正銘の魔物だ。
ダイやハピの時同様に説明してなんとか街中へ入れてもらい、冒険者ギルドで再び魔物だと騒がす。
だがギルドでの騒ぎは、さすがにこれが初めてではないからな。
直ぐに獣魔だと言って騒ぎは収まり、獣魔登録をした。
それでもハピの時と同様にラミアが獣魔になるのは聞いた事が無いと、ギルド内がザワついた。
それとラミの胸をちゃんと隠せとも。
一応は布を巻いているんだが、ギルド側からは「ちゃんとしたものを着けなさい」と強く言われた。
まあ、そうだろうな。
ラミの場合は無駄にデカいから動いた時の揺れが物凄い。
普通の布ではその動きについてこれないからな。
そしてラミの獣魔の登録も済んで、さて帰ろうかという時だ。
「ライ君、ちょっと待って下さい。ギルド長がお呼びです」
ギルド長が呼んでるって、ここの冒険者ギルドの責任者が俺をか?
やらかした覚えは俺にはないのだが、人間の感情はまだ全て理解は出来てないからな。
最悪は変身してこの街から逃げるしかないか。
くそ、折角冒険者になってこれからって時に。
俺は案内されるがままに、奥にある部屋の前に立つ。
案内してくれたギルド員が、ドアをノックして俺を室内へと招く。
「こちらです、どうぞ」
ギルド員は俺を案内すると、自分はサッサとどこかへ行ってしまった。
中には本棚に机に椅子、そして大きな窓があるだけの殺風景な部屋だった。
その窓際で両手を腰で組んで、外を眺めている人物がいる。
「ええっと、呼ばれたんで来たんだが、俺に何か用か」
声を掛けるとゆっくりと振り返る。
六十代くらいだろうか、顔を見ると白髪の初老の男性だと思うが、体つきが三十代にしか見えない。
鍛えているんだと思う。
冒険者ギルド長ともなると、皆こんな感じなのだろうか。
俺はギルド長にジッと見つめられる。
ヤバそうだな、変身して逃げた方が良さそうだ。
くそ、しょうがない。
俺が身構えたところで、ギルド長が口を開いた。
「呼び出して済まんな。ワシはここの冒険者のギルド長のサムソンというものじゃ。呼び出したのはのお、どんな人物か見ておきたかったんじゃよ」
逃げなくても大丈夫っぽいな。
しかし見ておきたいってなんだろうか。
「それは、どういう意味だ」
「ライと言ったな。お前さんは獣魔を連れておるそうじゃな。それも知性のあるダイアウルフに特殊個体のハーピー、そして高ランク魔物のラミアじゃ。そのどれもが獣魔にしたなんて記録が過去にはないのじゃよ。テイマーにしては常識を超えていると思ってな。じゃが普通の青年で安心したぞ。まあ魔法か何かで従えているんじゃろう」
「ああ、その辺に関しては秘密だ。冒険者としての技術だから答えられない。それじゃダメか」
「構わんよ。じゃがなあ、ここに呼んだ本当の要件は別にあるのじゃよ」
「本当の要件?」
ギルド長は「すまんが座らせてもらうぞ」といって椅子に座る。
見た目と違って腰が辛い様だ。
座ったところで、腰をさすりながら再び話し出す。
「このエルドラの街はノエル・レンドン子爵の領地なんだが、そのレンドン子爵がライに会ってみたいと言っておるのじゃよ」
領主が俺にか。
安心したと思ったら、益々ヤバい状況じゃねえか。
「領主ってことは断れないってことか?」
ギルド長は渋い顔をしながら頷く。
「すまんが、そう言う事じゃな。ワシにもどうにもならん。お主も貴族を敵に回したくないじゃろ?」
確かに、人間社会でもう少し生活していたいんだよな。
逃げるのは簡単だけど、逃げたら人間社会での生活が難しくなる。
ましてや冒険者資格は剥奪だろうしな。
それは困る。
「分かった、その領主に会ってみる」
危なくなったら逃げるがな。
次の投稿は明日の朝の予定です。
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