189 敗退していた
城ダンジョンを出た後、捕まえたダチョウ男について、その処罰を城ダンジョン管理棟で話し合った。
今は部屋に俺とインテリオークの二人だけだ。
ダイにハピやラミは首を刎ねるという意見だった。
でも俺の意見は違った。
折角料理は旨いのだ。
生かして調理させるべきだと。
人間社会なら料理がうまい店は沢山あるが、ここグースタウンには殆んど無い。
最近出来たバルテクのグース支店くらいだろう。
しかしあそこは値段が高いし、いつも混んでいる。
もっと庶民が気軽に行ける店が欲しいんだよな。
それをインテリオークにぶん投げた。
するとインテリオーク。
「さすがライ殿でございます。目の付け所が違います。庶民でも気軽に入れる店ですか。お任せ下さい。早急に人間社会で調べ上げて立ち上げ、早急に多店舗展開してみせます。そうですね、ダチョウ男には足枷を付けて、料理開発をさせましょう」
決断が早いな。
「おう、頼むぞ。それからな、露店や屋台だったら直ぐに出店出来るんじゃないか」
「おお、素晴らしい発想です。直ぐに取り掛かります」
そう言って、インテリオークは部屋を出て行こうとするのだが、何故か急に立ち止まる。
そしてこちらに向き直ると口を開く。
「大事な話を忘れるとこでした。荒れ大陸の北にあるコボルト族の街ですが、一万ほどの部隊を派遣したのですが、残念ながら撃退されました」
聞いてないんだが!
ってその前にだよ、ダチョウ話なんかより前に話すべきだろ。
「ちょっと待てよ。確か、一万の派兵って言ったよな。まさか攻め落としに行ったのか」
俺がそう聞くと、インテリオークは真面目な顔で返答。
「いえ、あくまでも交渉に行ったのです」
交渉と言う名の侵略だよな?
「その部隊ってどうせダックとかゴブリンばかりの兵士じゃないのか」
数はいるが個々が弱かったというパターンだな。
それで撃退されたという流れだろ?
するとインテリオーク。
「オーク兵が七千名、ダック兵とゴブリン兵は千名、残り二千名は鳥系種族や魔人族、それと五十名の巨人族の傭兵もいました。それとは別に兵站部隊が五千名です」
普通に精鋭じゃねえかよ。
それに魔人族と巨人族もいたのにか。
「相手はコボルトだけなんだよな?」
「それが他種族の傭兵や飼い慣らされた魔物も多数いたそうです。それに加えて、街は要塞化していたと指揮官が言っております。恐らく守備隊だけでも四千名以上はいたかと思われます」
もう完全に戦争じゃねえかよ。
「直ぐに和平の使者を送れ」
「既に使者の首だけが帰って来ております」
使者も受け入れないか。
そりゃそうだよな。
こっちから手を出したんだからな。
これはコボルト族が攻めて来るぞ。
「少人数の監視部隊を編成して送れ。そして逐次コボルト族の動向を報告させるんだ」
「了解しました」
「それと、新たに遠征部隊を用意してくれるか。俺が自ら交渉に出向く」
それを口にすると、インテリオークは慌て出す。
「何を言いますか、ライ殿が自ら出向く必要はありません。我々にお任さ下さい」
「お前らが失敗したから俺が出るんだろ。大人しく命令に従え」
「了解しました……」
命令という言葉は強力だった。
「敗退したばかりで悪いが、何人の兵士を集められる」
アゴに手を当て、少し考えてからインテリオークが返答する。
「二ヶ月あれば一万五千の兵士を用意致します」
「それじゃあ遅い。一週間で最低でも兵士四千名、兵站部隊で千名、合計で五千名の部隊を用意しろ。この際だからダックやゴブリンでも構わない。とにかく頭数を揃えろ。それと輸送用の使役獣も忘れるな」
インテリオークは大慌てだ。
そんな姿は初めて見る。
さて俺も準備をしないと。
まずはドロップアイテムの鑑定からか。
グースタウンまで戻り、鑑定屋の店を目指す。
いつもの様に護衛のオーク兵が四人付いた。
城ダンジョンの出入り口付近にも露店の鑑定屋がいるにはいるが、街中の鑑定屋ほど腕前は良くない。
それで街中までわざわざ足を運んでいた。
鑑定屋の目印の看板の掛かっている、比較的大きな店に決めた。
護衛のオーク兵と獣魔達は店の外で待たせる。
獣魔達を店内へ入れると、色々とおねだりがうるさいからな。
俺が早速店内へと入って行くと、ちょっと汚らしい雰囲気。
人間の店とは大違いで掃除が出来ていない。
俺は人間の生活に慣れてしまったから、こんな事も気にするようになった。
高価な品物を扱っているからだろう、店内にはダークオークの用心棒がいた。
鑑定以外に魔道具の売買もやっているようで、店内には沢山の魔道具が売られており、人間社会の魔道具屋そっくりだ。
店員は用心棒以外、全て鳥系亜人だが。
早速鑑定カウンターへ行き、オタマと小さい壺と小さい槍を出して見せた。
「この三つを鑑定してくれ」
カウンターにいたのはカラスの様な顔の男だ。
「ダンジョン産の魔道具か。そうだな、一刻ほど待ってくれ」
一刻もかよ。
仕方無い。
「それなら後で取りに来るが、変な真似はするなよな」
俺のこと知らないみたいだから、一応は脅しを入れといた。
この街で時間を潰せる場所は……街の通りにある露店に目がいった。
露店でも眺めるか。
何か掘り出し物があるかもしれない。
まずは露店が多く立ち並ぶ、大通りへと来てみた。
直ぐに匂いに反応する獣魔達。
串焼きイモの、何とも言えない香ばしい香りが漂ってきた。
また別の方向からは魚の香草焼きの匂いが、また違う方向からは柑橘系の甘酸っぱい香りが。
匂いだけは一流である。
だけど味は人間の料理には及ばない。
それでも獣魔達は我慢出来ないのだ。
「お前ら、それぞれひとつだけ何か買ってやる。ほら選んで来い」
そう言うと獣魔達は、血相を変えて人混みに消えて行った。
そしてしばらく行くと、ラミがとある露店の前で待っていた。
「ライさん、この荒巻きを頼む」
腕の長さ程もある魚の塩漬けである。
ラミめ、量で選びやがったな。
それくらいなら買ってやるか。
さらにしばらく歩くと、今度はハピが露店の前で待っている。
「わたくしはこれに決めましたですわ」
その露店では、山羊肉とその乳やチーズを売っていた。
山羊肉の塊が欲しいのだろうな。
しかしハピは違うと言う。
「あの山羊を丸々一頭買って欲しいのですわ」
無茶ぶりである。
さすがにそれは出来ず、足付き肉の塊で勘弁してもらった。
それでも結構な大きさなんだが。
そして最後にダイが待っていた店、それは巨大な肉の塊を串に刺して、回転させながら焼いていき、焼き上がった箇所をナイフで削いで売っている店だった。
ケバプウとかいう料理だったか。
「なあ、ダイ。先に言っとくが、肉の塊全部は却下だからな」
それを聞いたダイは、悲しそうな顔をして「くぅ〜ん」と鳴いた。
やはりそうなのかよ!
結局、持ち帰り用の葉っぱに包める量で我慢させた。
そんな事をしている内にあっと言う間に時間が経ち、俺達は食い物を抱えたまま鑑定屋に戻った。
獣魔達が外で肉を貪っている間に俺は一人店内に入り、鑑定カウンターで声を掛けた。
「渡した物の鑑定は終わっているか」
俺が声を掛けると店員のカラス男が「ああ」とだけ言って、裏から預けた魔道具を持って来た。
態度があまり良く無いから、魔道具を無くしたとか言うかと思ったが、そんなことはないようだ。
「まずはこれからいくか」
そう言って小さな壺を取り出す。
そして説明を始めた。