188 虐めてやった
俺がゾエちゃんと戯れていると、戦いを終えたハピが物珍しそうに、少し離れた所からこちらを眺めているのに気が付いた。
俺はハピに軽く手を振りながら、ゾエちゃんの剣を余裕で避けていく。
そして時々近付きながら、耳元で言葉を囁やく。
「もしかして、ゾエちゃんはお疲れでしゅか?」
「お前っ、ぜってぇギッタギタにする!」
そんなことを面白がって繰り返していると、ハピの俺を見る目がいつもと違う気がしてきた。
ハピの俺への視線が痛いのだ。
そうだ、俺は悪逆のゾエの討伐に来たんだ。
こんな事をしてる場合じゃなかった。
我に返った俺は、斬魂の短剣を右手に持ち替える。
するとずっと眺めていたハピが口を開く。
「どういう訳かゾエちゃん、段々とちっちゃくなっていきますわね」
あれ、ハピまで“ゾエちゃん”呼ばわり?
それよりハピの指摘だ。
確かに以前よりはちっちゃくはなっているんだが、ハピの話し方からは今も徐々に小さくなっているというニュアンスだな。
少し距離を取って、改めてゾエちゃんを見た。
「あれ、ゾエちゃんさ、さっきより小さくなってないか」
「ムキ〜、%◯▲❖!」
あっ、小さくなった!
今まさに目の前でゾエちゃんが小さくなった。
するとハピ。
「今、薄っすらとライさんのハウリングを感じましたですわ」
もしかして俺の言葉のせいか。
前に俺のハウリングは言葉にのせる魔法、言魂って言われたしな。
そうだとすると、俺の言葉がゾエちゃんの魂を削ってるってことか。
精神的ダメージを与えてるのかよ。
ハウリングは前よりも強力になってるのは実感しているが、これはスキルの派生みたいな感じがする。
まあ、今はそんな事を考えている場合じゃない。
俺はかなり小さくなった悪逆のゾエの心臓に、斬魂の短剣を突き立てた。
ゾエの言葉が消えた。
聞こえるのは呻き声。
「あああぁ……」
心臓に短剣が突き刺さったまま、立った状態で煙と化していくゾエ。
赤かった目が白くなっていく。
そして全てが灰になった。
俺が茫然と立ち尽くす中、ハピが言葉を掛けてくる。
「素晴らしい戦いだったですわ。今までで一番輝いて見えたですわよ!」
やめて!
出来れば無かったことにしてくれ!
だがこれで本当に終わりなんだろうか。
またどこかで復活とか有り得そうだし。
ダイに要相談だな。
そうだ、戦利品の回収を忘れちゃいけない。
ゾエのエサだった冒険者二人の装備である。
金等級冒険者なら、かなり良い装備を持っているはずだ。
「ハピ、冒険者二人の戦利品を頼む」
「了解ですわ」
「ゾエはダンジョン魔物だから戦利品など残るはずない……って、ドロップアイテムじゃねえか!」
剣の様なものが灰の中に見える。
慌てて灰の中からそれを取り出す。
確かに武器である。
武器なのだが、何の武器の種類に当てはまるのだろうか。
無理やり当てはめるならば、短槍だろうか。
だが短槍にしては短過ぎで、指先から肘くらいの長さしか無いし柄も細い。
穂先と柄の部分の長さ比率は槍なんだがなあ。
まさかちっちゃいゾエちゃんのドロップアイテムだから小さいとかなのか?
持って帰って調べてもらうしかないな。
これでドロップアイテムはオタマ、中身が入った小さい壷、そしてこの小さな槍の三つとなった。
ハピが戦利品を回収して来たところで、三階層の階層主の部屋を後にした。
途中のザコ魔物を蹴散らして、何とか城ダンジョンの出入り口に戻って来た。
外の日差しが眩しい。
外に出ると、そこにはダイとラミ、そしてオーク祈祷師の二人、さらにはインテリオークまでが待っていた。
インテリオークが挨拶をしてきたので、俺は軽く手を上げてそれに応えた。
そしてそこの地面には、顔を腫らしたダチョウ男が、後ろ手に縛られて座らされている。
本当にこいつは馬鹿だよな。
ここで捕まることくらい、ラミでも想像つくぞ。
だけどわざわざインテリオークまで来てくれたか。
ちょっと遅かったがな。
まずはゾエに関する報告からだ。
「あの奥の扉が三階の階層主の部屋だったよ。そこにゾエがいた」
するとラミ。
「倒したのか!?」
「もちろん。この短剣を心臓にぶっ刺してやった」
そう言って腰に吊るした斬魂の短剣を叩く。
そこでダイが念話を送ってきた。
『心臓なら消滅した可能性は高いが、どのくらいの力が魂に残っていたかにもよるな』
「そうだな。一応は倒したけど、復活にはまだ気を付けないとだな」
そこでハピが、しゃしゃり出てくる。
「ライさんの言葉責めは凄かったんですわよ。屈辱的な言葉責めですわ。もう、ゾエがゾエちゃんになっても、執拗に言葉責め――――」
言葉責め言葉責めって連呼しやがって……
「ハピッ、炭焼きにしたろうか!」
我慢出来ずに声を張ってしまった。
何故か俺達に関係無い、周囲の者達までがシーンと静まり返える。
皆が恐ろしげな視線を俺に向ける。
ハピに関しては泣きそうである。
そこでラミが不思議そうに聞いてきた。
「それが……言葉責めプレイなのか?」
「ちが〜〜う!」
さらに俺に注目が集まる。
だいたいな、勝手にプレイって付け足すな!
俺は改めて説明を始めた。
「えっと、俺の戦い方は秘密事項なんだ。他言無用で頼む。そうだな、俺の例の必殺攻撃の幅が広がったと思ってくれ」
言ってみれば、ハウリングの発展攻撃。
言葉に魔力を乗せてぶつける攻撃かな。
そこでインテリオーク。
「なるほど、さすがでございます。とうとうライ殿も、人間社会の新しい境地へ一歩踏み出したのですね」
新しい境地?
まあ、そうなるか。
新しい攻撃方法だからな。
「そうだな、新攻撃とでも言ったら良いかな」
「おお、新しい口撃、ですか……オーク族にもそういったプレイはありますが、人間社会にもあるのですね。それでライ殿、その技には何と言うプレイ名を付けたのですか」
ちょ〜と待ってくれよ。
プレイって何だよ。
その言葉を付け足すと、何故か悪い事してるみたいに聞こえるんだが。
「う〜ん、何か良い感じの技名あるか」
俺がそう聞くと、眼鏡をクイッと上げてインテリオーク。
「罵倒プレ――――」
「却下!」
俺の本能がその名称はダメだと言っている。
何かこの話題には危険な香りが漂っている気がするな。
良し、先延ばしにしよう。