183 ダンジョンに野営場を見た
最初に遭遇したスケルトンの後は、面倒臭くなる程に魔物が現れた。
もちろん瞬殺だが、ちょっとウザくなってくる。
そして二階層に突入。
探索しないで真っ直ぐ目的地へ進むから、かなり早いペースではある。
ただし、つまらない。
何か作業している感じだな。
結局、二階層に入ってからは、オーク兵と先頭を交代した。
俺達は飽きてしまったからだ。
対アンデッド装備のオーク兵達は、二階層くらいの魔物ならば、全く問題無く蹴散らしてくれている。
特に祈祷師は頼もしい。
魔道具を幾つも持っているようで、バンバン魔法を放ってくれる。
この階層主はスケルタルドラゴン。
その部屋だけは避けたいのだが、まさかな。
しかし心配は無さそうだった。
案内人のオーク兵は、全く違う方向へ向かうみたいだ。
しばらく歩くと、広い部屋の様な場所に出た。
何も無い、ただ広いだけの部屋。
ただし、そこには俺達以外の探索者チームが沢山いた。
どのチームも床に座ったり横になったりと、休憩している様子。
先頭を行くオーク兵が適当な場所を見つけ、荷物を下ろしながら言った。
「ライ殿、ここで食事、仮眠、取ります」
部屋の中で野営するみたいな感じと言ったら良いか。
周囲の探索者達も、毛布に包まって寝ている者も多い。
ダチョウ男に聞くと、ここはダンジョン内の野営場だという。
何故かここだけ魔物が湧かないし、出入り口は一箇所なので、野営する者達で順番に見張りをすれば、安全に眠れるらしい。
実に不思議な場所だな。
俺達のチームが野営の準備をしていると、他のチームから挨拶と差し入れを持って来た。
あるオークの探索者は。
「オークパン、持ってきた」
そして鳥系の探索者。
「スープ作ったので、持ってきましたグワ」
そして身長が人間の倍近くある巨人族チームは。
「軍団長、イモ持って来た。ぜひ食べろ」
人間の頭ほどの大きさのイモだ。
あっという間に俺と獣魔達の食事が揃ってしまった。
ラミとハピは大喜びだ。
ダンジョンに入ると荷物の量を考えて、食事量が制限されるからだ。
それに我々は見張りをしなくて良いと言われた。
他に探索者がたくさんいるからそれだけで間に合うし、軍団長のチームに見張りなんかさせられないらしい。
そんなこと言われたら悪い気はしない。
遠慮なく休ませてもらおうか。
そう言えば他の探索者達は、魔道具のバーナーを持ち込んで調理をしている。
便利な物を持っているんだな。
バーナーがあれば焚き火いらずだ。
俺も欲しくなってきたが、使う機会は焚き火が出来ないダンジョン内だけだからな。
城ダンジョンへ来る機会なんてあまりないから、宝の持ち腐れになりそう。
俺達は地面に座ると、もらった料理で食事を済ませ、早々に床に毛布を敷いて横になった。
しばらく仮眠をとった後、俺達は再び歩き出した。
どれくらい歩いただろうか。
行き着いた場所は、下へと続く階段の前だった。
目的の場所は三階層ってことか。
階段を降りて半刻ほど歩いた通路の行き止まりに、黒い扉が見えてきた。
まずは行き止まりにある扉ってだけで怪しいのに、黒色の扉とかさらに怪しい。
そこで案内人のオーク兵が、扉の前に立って言った。
「この扉の奥、ゾエいた」
いかにもって場所だな。
とにかく行くしかない。
「ラミが先頭で突入する。オーク兵の内四名はここで予備戦力として警戒待機。エミュ族もここで待機だ。質問あるか?」
俺の発言に全員が真剣な顔をしている。
「質問は無いようだから突入する」
そう言って俺が抜剣する。
俺の右手には斬魂の短剣、左手には聖銀の小剣が握られている。
他の者達も聖銀や呪符の掛かった武器を手に持っている。
完璧な装備だな。
皆の顔を見回すと、誰もが緊張しているのが、手に取るように分かる。
その緊迫した空気の中、先頭で突入するラミが扉の取手を掴んだ。
いよいよだ。
「おら、おら、おら、ゾエはどこだっ!」
そう叫びながら扉を蹴破るラミ。
なんか空気を壊された感があるんだが……
突入した部屋は大きなホールの様な造りになっていて、壁にはローソクが立てられてはいるが、室内はかなり薄暗い。
そして部屋の中を全員が見回すが、誰もいない。
俺は構えは解かず確認する。
「この部屋で間違い無いんだよな」
すると案内人。
「この部屋、間違い無い、天井ぶら下がってた」
確かに天井は高い。
見上げると天井はドーム状になっている。
「ダイ、何か臭わないか」
俺の質問にダイ。
『このダンジョン内は臭いが薄いんだよ。ちょっと分からないな』
「そうか、追跡も難しいか」
ここでゾエに遭遇したからって、ずっとこの部屋に留まっているはずもない。
あちこち移動している方が自然か。
それに発見から大分経つしな。
そこで案内人。
「もっと下の階層、逃げたかも」
それが一番可能性高い。
「下の階層に案内できるか?」
「四階層、まだ見つかって無い」
なんだよ、俺達が潜ってから大分経つが、まだ四階層が見つかってないのかよ。
「高ランクの冒険者は来てないのか」
この地まで来れる冒険者なら、間違いなく高ランクなので、隠し部屋なども発見できるはずなんだがな。
しかし案内人の答えは。
「城ダンジョン、金掛かる。割り合わない、だから二度と来ない」
そう言えば聖銀や魔法の武器じゃないと厳しい上に、ドロップアイテムがクズだったりしたら、採算が取れないか。
人間界から遠いのもあるしな。
そんな会話をしていると、ダイがクンカクンカしながら壁際を歩き出した。
何か見つけたのか!
俺はダイの後ろを歩きながら、全員を手で「来い」と合図をして呼び寄せた。
隠し部屋があるのかもしれない。
壁際を歩く子狼の後を付ける、怪しい大人達の構図だ。
しばらくすると、ダイがある地点で動きを止めた。
その地点を何度も行ったり来たりする。
何かを発見したみたいだな。
シークレットドアなのか、はたまたトラップなのか。
全員が臨戦態勢をとる。
オークの祈祷師が魔法の詠唱を始めた。
必然と俺の剣を握る手に力が入る。
全員が見守る中、ダイが片方の後ろ脚を上げた。
――――マーキング
それはそれは盛大に、壁に向かって放尿する子狼。
やってくれたな!!