182 ゾエ探しに潜った
城ダンジョン管理棟で一泊し、翌日の朝一で管理棟の玄関前に集まる予定となった。
そして翌日の朝。
陽が昇ってない暗い中、俺達は完全装備で玄関前で待っていた。
まず初めに到着したのが、対アンデッド装備をした精鋭オーク兵八名だった。
八名の内二人は呪術師だという。
希少な呪術師を二人も出すとは、かなり本気レベルだな。
彼らはついさっき、この地に到着したばかりだとか。
少し休んだらと言ったんだが、大丈夫の一点張り。
そこまで言うなら良いけど、自己責任だからな。
その後に来たのがオークの案内人だ。
城ダンジョン内でゾエを見たというオーク兵だ。
城ダンジョン探索専門のオーク兵らしい。
あとは魔道具の地図を見つけた者が来る予定だ。
何でもそいつは、城ダンジョンでの荷物持ちの仕事も、たまにやっているとかで、今回はその仲間達も呼んで荷物持ちもやってくれるという。
そして陽が昇り始めた頃だ。
五人ほどの一団がこちらに向かって来る。
ダチョウ達が五人。
正確に言うとエミュ族だったか。
その中に、昨日の「むさぼり亭」のダチョウ男が居やがる。
エミュ達五人が俺の所に来ると、ダチョウ男が俺の存在に気が付き、目を丸くして言った。
「な、何でお前がいるんだよ!」
こっちの台詞だっ。
ダチョウ男が怒鳴った瞬間、オーク兵が奴に殺到。
あっと言う間に組み伏せ、喉元に剣を突き付けた。
おお、さすが精鋭じゃねえか!
緊急時の対応が迅速だな。
「痛い、痛い、どういうことか説明してくれ〜」
もしかしてこのダチョウ男、俺の正体を知らされてないのか。
押さえ付けてるオーク兵が俺に聞いてきた。
「この無礼者の首、刎ねていいか」
「待て、そいつは殺すな」
そう命令した後、俺はダチョウ男に質問する。
「おい、お前。俺のことだが、何と聞かされている?」
「いや、何も聞かされてないよ。ただ、軍団幹部らしいってのは理解したよ」
するとオーク兵がダチョウ男の腕を捻り上げて言った。
「貴様、ライ殿、知らないのか!」
「いででで、待て、ライ殿って、あのライ様なのか?」
そう言って改めて俺を見る。
そのタイミングで顔だけ変身してやった。
ダチョウ男の顔色が、見る見る青ざめていく。
「ひぃ〜、し、失礼致しました〜」
こいつ、今までよく生きてこれたな。
「理解したみたいだからそいつを放してやれ。城ダンジョン内で地図を見つけた経緯を知りたいんだが、もしかしてお前が見つけたのか?」
開放されたダチョウ男は、震えながら返答した。
「は、はい。そうです……」
話を聞くと探索チームに荷物持ちとして参加したらしい。
その探索中に重装備のスケルトン数体に出くわし、部隊はバラバラとなり撤退。
その時に「そのドロップアイテムを拾って逃げろ」と言われ、無我夢中でそれを拾い、一目散に逃げたんだと。
その拾ったアイテムが地図らしい。
だがそれなら地図は白紙のままのはず。
このダチョウ男はきっと地図を広げて見たんだろう。
その時に何らかの作用が働いて、魔道具としての地図が完成したと考えるのが妥当ではないか。
そうなるとダチョウ男はウソをついているな。
「お前、持ち帰る途中、ドロップアイテムを広げただろ」
ストレートに聞いてみた。
するとダチョウ男の身体がビクンと跳ねた。
分かり易い奴だな。
「し、知らねえ……ですよ」
とぼけるダチョウ男だが、目が泳ぎまくっている。
「まあ良い。次回は命が無いと思え」
そう言うと、ダチョウ男の身体は縮こまった。
俺は改めて皆に向かって言った。
「良く聞け。悪逆のゾエの討伐が今回の目的だ。これは何より最優先する。忘れるな。では出発!」
オーク兵からは「オオ!」の力強い掛け声があり、遅れてエミュー達からも「お、おお〜」と、弱々しい声が上がった。
そこでダイが念話を送ってきた。
『あのエミュ族の男を連れて行くのは危険じゃないのか。俺はあいつをどうしても信用出来ない』
俺も同じ意見だ。
だが、それ以上の能力があのダチョウ男にはある。
「ダイ、むさぼり亭の厨房でな、あの野郎は俺の目の前から逃げ切った。あの俊敏な身のこなしは本物。恐らくエミュ族の中でも逃げ足なら、トップクラスなんじゃないか。城ダンジョンの入口さえ見張っておけば、逃げ切れないだろ。イザという時の連絡員だよ」
『なるほどな。でも奴の行動には常に気を配れよ』
「ああ、そうするよ」
こうして俺達は城ダンジョンへと入って行った。
先頭を歩くのは案内人のオーク兵と俺や獣魔達、次に荷物持ちのエミュー達、そして最後尾にアンデッド装備のオーク兵という隊列だ。
俺達以外にも探索者チームが次々と入って行く。
逆に戻って来たチームもいる。
城ダンジョンには、まだまだ未踏破の場所が多くあり、日々こうした探索者チームが潜って行くのだ。
たまに人間の冒険者も来るそうだが、荒れ大陸まで来る人間は少ない。
その為、折角造った冒険者ギルドの支店は、常に暇そうにしてるらしい。
だが少なくとも、人間と魔物の間に中立な立場として立ってくれている。
暇でも無いと困る部署ではある。
ダンジョン内は暗い所もあれば、明るい所もある。
城の造りをしているからか、通路の壁に松明が掛かっているところまである。
ただし松明を外すと灯は消える。
今、俺達がいる場所は暗い所にあたる。
オークの祈祷師が、魔法の光を隊列の前後に出してくれて、おかげでかなり明るい。
魔法職がチームにいると便利だよな。
ダンジョン内に入って大分経つが、今のところ魔物には遭遇していない。
そんな中、歩きながら後ろにいるダチョウ男に話し掛けた。
「お店の営業は良いのかよ」
むさぼり亭は二人で切り盛りしていたから、こいつが抜けると営業出来ないのではと思ったからだ。
するとダチョウ男。
「俺がいない日だけは知り合いを雇っているから、何とかなるんですよ。なんたって、こっちの収入の方が上なんすから優先してるんすよ」
普段から三人でやれば、もっと客が増えて利益も上がると思うんだがな。
料理の味も悪くない。
ちょっと丁寧に作ればもっと旨いと思うしな。
でもあの接客じゃ駄目か。
そんな話をしていると、最初の魔物に遭遇した。
曲がり角の先から出て来たのは三体のスケルトン。
鎧などはなく、手に斧や剣を持っている。
はっきり言ってザコである。
ラミが「私に任せろや」と言って前に出る。
一撃だった。
ラミがクルッと回転するや、蛇の尻尾がスケルトン三体をまとめて薙ぎ飛ばした。
それだけでKOだ。
壁に激突したスケルトン三体は、一瞬で砕け散って煙と化した。
「おい、おい、おい、もうお終いかよ〜」
物足りないと愚痴をこぼすラミ。
ゾエ探索はまだ始まったばかりだ。
良し、182話の投稿で間違い無い。
ちゃんと確認したぞ。