18 繁殖地を見つけた
だけど良く考えてみると、卵一個で小銀貨一枚だ。
今回の依頼はラミを入れると四人。
卵を十個見つけても銀貨一枚分にしかならないよな。
これって四人の収入で考えたら安いのか、高いのか?
食事代に宿代を考えたら安い気がするんだが。
っていうか、生活できないよな。
だいたい家を買おうと思っても、一軒家は幾らかかるんだろうか。
それを考えると鉄等級の依頼じゃ、やってられない。
となると等級をあげなくちゃいけないのか。
『おい、ライ。考えごとしてないで助けろ』
ダイからだ。
麻痺していても念話は送れるのか。
便利だな。
「助けようにも毒消しのポーションもないしな。麻痺が消えるまでそうしてろ」
『ぐぬぬぬぬ』
俺はこいつらを待っていてもしょうがない。
バルバルの毒針の皮を剥いで肉にする。
この辺は大ざっぱだ。
魔物が喰うのだからこんなもんで良い。
「麻痺が解けたら、これを喰って休んでいろ」
そう言って俺は槍を持って周囲を探す。
狼に変身すると嗅覚は上がるが、狼の手では槍を持てない。
それは困る。
槍があると麻痺毒に触れずに仕留められるからな。
探しているとやっと発見。
結構時間が掛かるもんだな。
だが巣のありそうな場所は分かってきたぞ。
槍の一突きでバルバルは仕留め、今度は卵二個確保。
この調子で先へ進む。
一か所、物凄い濃い藪があった。
入って行けない程のだ。
こういう様な人が入れない場所に、巣なんてものはあるんだよな。
小剣で斬り払いながら強引に入っていくと、そこには一大繁殖地があった。
地面一帯がバルバルの巣だらけだ。
百羽はいるんじゃないだろうか。
俺は気付かれない様に身を低くしてゆっくりと近付く。
「すげ~、卵が取り放題だ」
思わずつぶやいてしまった。
俺が巣のひとつに近付くと突然、月明かりを遮るものがあった。
俺の後ろに何かが通り過ぎ、その影がサッと目の前を横切る。
身を低くしたままそっと振り向く。
真夜中の空を何かが、ほとんど音もなくヒラヒラ飛んでいる。
それも一匹ではない。
二、三、四、五……
コウモリだ。
巨大なコウモリ。
翼を広げた大きさは裕に三メートルはある。
バルバルを狙って来たのだろうか。
この繁殖地の上空を静かに飛び交う黒い影。
飛び方が鳥とは違い、非常にランダムに動く感じだ。
とても捉えずらいな。
俺は槍を構える。
近くに来たら突き刺すつもりだ。
『よせライ。そいつらは音に敏感だ。動いたり音を立てると一斉に襲ってくるぞ』
それを聞いて俺はピタリと動きを止めた。
ダイの念話だ。
周囲を見まわすと、俺が入って来た藪の穴から顔を出すダイを見つけた。
麻痺から解放されたようだ。
バルバルの親鳥は卵を守る様に巣から動かない。
動かなければコウモリに襲われないと、バルバル達も知っているようだ。
ここは奴らが飛び去るまで、ジッとしているしかなさそうだ。
ダイから再び念話が送られてくる。
『奴らは“ジャイアントバット”と呼ばれる魔物だ。噛みつかれると病気になるらしいから気を付けろ。中には生殖器が腐り落ちる病気を持っている個体もいるらしいぞ』
思わず股間を握りしめる。
しかし、ダイは本当に物知りだな。
良く考えたら、金にならない戦いなんかする意味がない。
このコウモリには討伐報償金は出ない。
それで股間が腐り落ちでもしたら、泣くに泣けない。
俺は仰向けに寝転んで、ジャイアントバットが居なくなるのを待つことにした。
こうして真下から夜の空を見上げると、またいつもと違う景色に見える。
この緊迫した状況だというのに、心は落ち着いていた。
「ああ、ヤバい。眠くなってきた」
俺は不覚にも、ウトウトしてしまったらしい。
その睡魔を一発で吹き飛ばす出来事が起こった。
突如、夜空に球体が複数飛んでいく。
その球体は月明かりに照らされ、チカチカ緑色に光輝いている。
「なんだ? 見たことある球体だな」
俺は上半身を起こし、球体が飛んで来た方を見る。
「おら、おら、おら、おらっ。コウモリの分際で、偉そうに夜の空を飛んでるんじゃねえや!」
ラミが籔の中から飛び出して来た。
飛ばしていたのは毒の球、ポイゾンボールだ。
折角息を潜めて隠れていたのに、俺の努力を無駄にしやがって!
くそ、くそ、くそ!
俺は立ち上がると槍を構える。
こうなったら破れかぶれだ。
ダイからも呆れた言葉が送られたきた。
『仕方ない、戦うか。だが、咬まれるなよ』
そう言ってダイが走り出す。
俺だって咬まれたくはない。
だけど飛び方が鳥と違い、どこへ行くか予測できない。
それに暗い上に体色が黒いから目立たない。
これじゃ追うのは結構難しい。
ジャイアントバットの殆んどは、ラミへと向かって行き、俺に来たのは一匹だけ。
こいつさえ倒せば……
俺は槍を空に突き出す。
空振りだ。
ならばと今度は振り回した。
ブンッと風を切る音だけが響く。
「ライ、目で追うんじゃないよ!」
そう叫びながら、ラミが一匹を毒球で叩き落とした。
さらに大声を張る。
「予測だよ。未来の位置を槍で突くんだよ!」
こいつは何言ってんだか。
それが出来れば苦労しない。
だがラミは、さらに一匹を叩き落としながら言った。
「目で追っても無理だって。ここの目で見るんだよ、ここ!」
ラミは自分のデカい胸を拳で二度叩いた。
「心眼ってやつか……」
俺は大きく深呼吸してから、槍を構え直す。
そして“心眼”を思い出していた。
バンおじさんとの槍の練習で、この言葉を何度も聞かされたっけな。
でも、心眼なんて一度も使えなかった。
だがあの子供の頃と今は違う。
そこそこ経験を積んで来た。
神経を集中させる。
次の投稿は夕方になりそうです。
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